コンビニエンスストアやファストフード店のレジ横にある募金箱。最近、小銭を入れているだろうか? キャッシュレス決済に切り替えてお釣りを受け取る機会が激減し、募金から遠ざかっている人も多いはず。では募金を集める側は、キャッシュレス時代にどう募金集めをしたらよいだろうか。
「マクドナルドにある募金箱。その使い道、ご存じですか?」――。
記者が乗り換え途中に寄ったマクドナルド恵比寿駅前店で、注文した品を待っていると、こんなメッセージで始まる動画が店内のサイネージに流れた。マクドナルド店頭のレジ脇に置かれている募金箱の募金は、公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンが設置する「ドナルド・マクドナルド・ハウス」の運用に充てられている。これは世界40カ国以上で展開されている病児とその家族のための宿泊施設で、国内には国立成育医療研究センター(東京・世田谷)や東京大学医学部付属病院(東京・文京)の隣接地など、11カ所に施設がある。
2分弱の動画の内容は、募金してくれた来店客に対する患者家族からの感謝のメッセージがメイン。最後は、その動画を見た親子が募金箱に小銭を投函するシーンだ。
記者は動画にジーンとくると同時に、久しくマクドナルド来店時に募金をしていないことに気づいた。理由は明白。キャッシュレス決済に切り替えたことで、小銭を受け取る機会がなくなったからだ。
2018年のマクドナルド全店舗に設置された募金箱の募金総額は5229万円。他の店頭施策と合わせて1億422万円を集めた。店頭募金箱の募金総額は、16年、17年は7000万円を超えていた。もっとも18年は、7月の豪雨や北海道胆振東部地震などに向けた募金を実施し、別途1500万円以上を集めている他、チャリティーキャンペーンの有無も影響するため、単純比較は難しい。それでも、募金箱への募金が頭打ちから漸減傾向にあるのは確かだ。ちなみに07年は、現在より店舗数が900店ほど多かったこともあり、財団への寄付額は1億7500万円に達していた(ハッピーセット1円募金などを含む)。
マクドナルドは、店頭での支払いをスムーズにすべくキャッシュレス決済の導入に積極的に取り組んできたことで、「キャッシュレス決済の比率は年々、着々と増えている」(同社広報)。また、注文と受け取りを別のカウンターに分けるデュアルポイントサービスや、注文品を席まで届けてくれるテーブルデリバリーサービスの導入で、募金箱があるレジ前の滞在時間が一段と短くなっている。
日本マクドナルドCSR部統括マネージャーの高崎明美氏は、「キャッシュレス決済の浸透が募金に与える影響について、問題意識は以前から持っている。店頭だけでなく、募金できる機会・接点の拡大に向けて取り組みを進めているところ」と説明する。
その柱となるのが、デジタル活用だ。“デジタル募金”は常設型とイベント型が2つずつ、計4タイプある。
アプリのクーポンやオークションなど“デジタル募金”を推進
常設型の1つが、マクドナルドのアプリを活用したもので、「10円募金付きクーポン」の配信だ。アプリのクーポンカテゴリーにある「ハッピーセット」タブを選ぶと、390円のハッピーセットに募金10円を加えた400円の“割高クーポン”が表示される。「使う」ボタンをタップして表示されるクーポン番号をスタッフに提示し注文する。18年の年明けから開始し、年間で1751万円の募金が集まった。アプリの10円募金クーポンが175万件ほど使用されたことになる。
もう1つの常設型が、Yahoo!JAPANのサイトにある「Yahoo!ネット募金」を通じた寄付。Tポイントを使って1ポイントから寄付が可能で、18年は220万円を集めた。Yahoo!ネット募金には、数多くの募金プロジェクトが掲載されているため、ネット募金のトップページからたまたまたどり着くことは難しい。先述の動画の最後のコマにYahoo!ネット募金でも寄付が可能である旨の案内を入れ、同社のFacebookページに投稿した動画から直接アクセスできるようにしている。
これらの常設型に加え、イベント型もある。その1つが、17年から毎年10月に開催している「マックハッピーデー」。ハッピーセットを1つ購入するとマクドナルドが50円を寄付する「寄付付き商品」で、エシカル消費を促進するスタイルだ。2年目の18年は、店舗に行けない人、ハッピーセットを購入しない人も参加できるよう、有名人が愛用品やサイン入りアイテムを出品するチャリティーオークションを「ヤフオク!」上で実施。北澤豪、中山秀征、若槻千夏ら20人の協力を得て、落札金額をドナルド・マクドナルド・ハウスへ寄付した。
イベント型の2つ目は、関連グッズのネット販売だ。18年のビッグマックキャンペーンでは、前年に300個限定販売して瞬く間に完売した秘伝の「ビッグマックソース」を楽天市場で1000個販売した他、「マクドナルド×G-SHOCK」の限定モデル1000個などを用意。売り上げ金額の一部(500万円)を寄付に回している。
この他、14年から東京マラソンのチャリティーパートナーに参画し、クラウドファンディングで10万円以上寄付をした人にチャリティーランナーとして参加できる権利を提供している。
このようにマクドナルドは、店頭での商品購入時にとどまらず、デジタル活用で寄付のルートを広げているところだ。キャッシュレス決済の普及は、商品購入ついでの小銭による募金には逆風だが、募金付きクーポンの配信や、たまったポイントの寄付、限定品のEC販売からの寄付など、常時持ち歩くスマートフォンが手軽な募金ツールになり得る。高崎氏は、「チップを渡す習慣がないといった文化的背景からなかなか根付かなかった寄付文化を、募金施策を通じて底上げしていきたい」と意気込む。