東洋紡がMakuake(東京・渋谷)とタッグを組み、消費者向け新商品の開発を始めた。第1弾は、高機能繊維を用いたドッグウエア。クラウドファンディングで予約販売をしたところ、目標支援額(目標売上額)100万円に対し340万円を集めた。開発から販売までを一貫して経験することで、人材育成を図る。

東洋紡がMakuakeの支援を受け、クラウドファンディングを用いてBtoC商材の開発を始めた
東洋紡がMakuakeの支援を受け、クラウドファンディングを用いてBtoC商材の開発を始めた

 消費者向け新製品第1弾のドッグウエア「HUGLABO(ハグラボ)」は、人の衣服の快適性評価で得られた知見や老舗繊維メーカーとしての技術力をペット向けに転用。今回はインナーとニットの2つを開発した。

 HUGLABOモイストインナーは、家で着たり、肌着のようにニットの下に着たりできるよう軟らかく伸縮性の高い素材。抗菌機能繊維を織り込んであり、菌の増殖を抑制できる。

HUGLABOモイストインナー。肌触りがなめらか。Makuake限定価格で4500円(税込み)
HUGLABOモイストインナー。肌触りがなめらか。Makuake限定価格で4500円(税込み)
菌抑制の評価。抗菌繊維で菌の増殖速度を抑える
菌抑制の評価。抗菌繊維で菌の増殖速度を抑える

 HUGLABOウォームニットは、裏地があり風を通しにくいニット。裏地にはモイストインナーと同じ生地を採用。肌触りはなめらかで暖かさを求めた。

HUGLABOウォームニット。シンプルで飽きのこないデザイン。Makuake限定価格で5500円(税込み)
HUGLABOウォームニット。シンプルで飽きのこないデザイン。Makuake限定価格で5500円(税込み)
ニットの表面は撥水加工されている。散歩中の急な雨でも安心だ
ニットの表面は撥水加工されている。散歩中の急な雨でも安心だ

 クラウドファンディングの期間は19年3月13日~6月13日の3カ月間。開始から8日目で目標金額の100万円を達成、現在340万円を集めている。(19年5月30日時点)

老舗BtoB企業がBtoC商材開発を始めた理由

 東洋紡は、繊維を中心に、フィルムや自動車用資材、バイオ・医薬など、多くの高機能素材の開発・製造を行う創立137年の老舗BtoB企業。今回BtoC商材を開発し始めた理由は、人材育成とマーケットの動きを見る習慣づけをするため。

 「マーケットが動くのは、早い。様々なマーケットが動いてから、自らが動くようでは遅すぎる」と東洋紡経営企画部みらい戦略グループマネージャーの飯塚憲央氏は話す。取引先は消費者のニーズなどを把握しているが、BtoB企業にはそのデータや情報が無い。「マーケットがどう動くかは誰にも分からないため、川上から川下まで多くのマーケットを見ておく必要がある」(飯塚氏)と考えた。

 この視点を持つ大切さは、社内で20年ほど前から言われており、事業としてBtoC商材を作ったことがあったという。当時はネット通販等消費者に直接届ける手段が無い。電話通販を使えるかどうかだったため、コストが合わず立ち消えてしまった。

1995年にBtoC商材として発売されたカップ型浄水フィルター「おすみつき」
1995年にBtoC商材として発売されたカップ型浄水フィルター「おすみつき」

20年越しの挑戦をサポートするMakuake

 20年前のような失敗が無いよう、プロジェクトにはMakuake(東京・渋谷)のインキュベーション支援サービス、Makuake Incubation Studio(以下、MIS)を用いた。MISは、Makuakeが2016年に立ち上げた、大企業向けに新製品開発をサポートするサービス。新製品開発をしたい企業と「並走」しながら、商品企画から販売までを一貫してサポートする。

 MISを使うメリットとして、リスクヘッジができる点が大きいという。サポートを受けながら利用できるため、大きな失敗をせずに済む。製品を作ったもののまったく売れず、在庫を大量に抱えることもクラウドファンディングの運用面で防げる。まだプロジェクトの最中なので明言はできないが、マーケットの反響を見ることができ、消費者の声をダイレクトに聞くことができる。「(消費者情報の)データにアクセスできるようになったことは大きい。このデータを持って、取引先にプレゼンすることも今後可能になるかもしれない」(飯塚氏)と期待を寄せる。

 MISを用いて東洋紡が立ち上げたBtoC商材の開発事業を「みらい人財塾」と名付け、社内公募でメンバーを募った。「みらい人財塾」参加に条件はない。ただし、自身の部署での仕事と並行して行わなければならない。Makuakeと話し、20人程度を希望していたが約40人の募集があった。人数が多すぎてもプロジェクトが進まないことから、今回は30人に絞り、「HUGLABO」など6人組5チームを作りプロジェクトがスタートした。

メンバーの部署はバラバラだったことが奏功

 希望するプロジェクトごとにチームを作ったため、HUGLABOチームはメンバーの部署がバラバラでほぼ初対面だったという。HUGLABOのチームリーダーで同社コーポレート研究所快適性工学センターの小松陽子氏は、「営業の人しかいないチームもあった中で、結果的に部署がバラバラでかつ、社内では比較的消費者に近い部署のメンバーがいたことが功を奏した」と振り返る。

 例えば、HUGLABOに用いた抗菌機能繊維について、菌の評価のことは同社の医薬品工場で働くメンバーが、学生時代に学んだ知識を生かした。商品説明やMakuakeのページに載せる文言は、知的財産部の人が過大広告にならないよう入念にチェックした。

 それぞれの専門性を生かせた部分もあれば、それまで全く携わったことのない分野のことももちろんある。例えば商品のデザインは、おしゃれが好きな(フィルムの)デリバリー業務部門の人が中心となった。デザイナーが起こしたデザイン画を見ても、その画が立体になることが想像できず、異例だがデザイン会社に服を試作してもらったという。

BtoCならではの難しさ

 商品は、クラウドファンディングを通じて販売する。この際最も気を付けたことは、「最初に画面を見たときのインパクトだ」と小松氏。

 従来東洋紡は、繊維、素材メーカーで技術が売りなので、技術が良ければ売れるし、直接担当者が取引先に時間をかけじっくり説明できるので商品の良さを分かってもらえる。一方、今回はWebやアプリ上で、目を留めてもらわなければ購入につながらない。「Makuakeで売れている商品やTikTokで人気の動画を見て地道に研究した」(小松氏)。

 また、普段は取引先とも専門用語という共通言語を持って話すことができる。最終的に取引先が商品を作るので、消費者より取引先の利益を考え提案することが多い。消費者のニーズをあまり考えたことがなかったため、「どの層をターゲットにするか、そのターゲットは普段何を考えているのかが全く分からなかった」と小松氏は振り返る。

 そのため、初め「50万円分も売れるかな、犬の服で5500円は高すぎるのでは」とびくびくしていた小松氏。価格設定は、百貨店で売られている高級品から、大量生産されている低コストの商品までを見て市場を調査し、最高級品でなく最安値でもない価格にした。だがこの価格設定は、プロジェクトの売り上げ目標である100万円の達成に重点を置いていたため、十分な利益を得られる価格ではないと小松氏は反省する。

 財布を握っているのは女性が多いと予測したことから、HUGLABOのターゲットは犬を飼っている30~50代女性に定めた。クラウドファンディング開始から2カ月がたち、現段階で支援してくれているのは、男女半々で20代は少なく、50~60代が多い。小松氏は、「子育てが一段落した世代が、子供のように犬をかわいがっているのでは」と分析する。

左から東洋紡コーポレート研究所快適性工学センターの小松陽子氏、同社経営企画部みらい戦略グループマネージャーの飯塚憲央氏
左から東洋紡コーポレート研究所快適性工学センターの小松陽子氏、同社経営企画部みらい戦略グループマネージャーの飯塚憲央氏

 経験してみなければ分からなかった反省を生かし、19年秋頃に、HUGLABOとともにプロジェクトを進めていた別の1期生チームのクラウドファンディングも実施する予定。

 「HUGLABO」など1期生の活動には2つの課題が見えた。1つ目は、プロジェクト実施の期間が短かったこと。18年9月にスタートした1期生の中には、特許を申請するチームなどもあり、短期間では販売まで漕ぎつけることが難しかったという。2つ目は、全チーム足並みそろえて企画から販売まで実施したため、上長やMISのメンバーが面倒を見切れなくなったこと。今後全チーム販売まで進めるかは、検討中だ。

 これらの反省を生かし、「19年夏から2期生を募集したい」と飯塚氏。1期生の活動で、社内での反響は良くも悪くも大きい。社内用に「HUGLABO」のビラも作り、このプロジェクトを社内で知らない人はほぼいない状態。BtoB企業にいながら、BtoCの視点を持った人材を育てるという20年前からの構想が今、かたちになりつつある。

(写真提供/東洋紡)

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