SNS上で影響力を持つインフルエンサーを活用したマーケティング市場が広がっている。この市場に出版社が参入した。女性向け雑誌「OZmagazine」を発行するスターツ出版は、読者などから募ったインフルエンサー500人を組織化。2019年5月30日からマーケティング支援サービスとして提供を始めた。
スターツ出版が新たに提供するマーケティング支援サービスは、インフルエンサーによる情報拡散、インフルエンサーがSNSに投稿した写真を活用したコンテンツ制作、スターツ出版が運営する媒体の広告商品を組み合わせたもの。
広告主の業種やプロモーションしたい商品やサービスなどに合わせて、スターツ出版が組織化するインフルエンサーの中から適した人材を選定する。スターツ出版は18年からインフルエンサー事業開発を目的に、320万人いるWeb会員の中からインフルエンサーを募集。フォロワー数が300人以上、東京在住で活発にSNSを活用していることを条件に採用した。
並行して、有力なSNS利用者をスカウト。「おでかけ」がテーマであるOZmallの媒体特性に合わせて、絶景写真が得意なインフルエンサーなどに参加を呼び掛けた。「フォロワー数も重要だが、それよりもホテルのアフタヌーンティーに詳しいなど、得意分野を突き詰めている層に優先して声がけした」とスターツ出版WEBソリューション推進部SNSマーケティンググループの中村由照担当部長は説明する。
例えば、参加者の1人であるHitomiさん(@hitomi_pleinelune)は絶景写真を得意とし、約1万人のフォロワーを持つ。こうして集めたインフルエンサー500人を、「東京女子部 produced by OZmall」として組織化した。
金銭の授受はきずなを生み出しにくい
現時点では、スターツ出版とインフルエンサーの間に金銭の授受は発生せず、いわゆる読者モデルに近い存在だ。OZmagazineやOZmallの元々のファンが、公式リポーターという冠の下でいち早く新しい店舗や、広告主の新商品を試せることが活動の動機となっている。「金銭の授受が発生すると、お金の関係になってしまい、きずなを生み出しにくい」と中村氏は言う。
インフルエンサーはスターツ出版が獲得した広告主の案件に応じて、リポーターとして店舗やイベントに参加し、自身のSNSのアカウントで撮影した写真などを投稿する。投稿する際、OZmallのリポーターとして参加していることなどの記載を条件にすることで、閲覧者にステルスマーケティングと誤認されることを防いでいる。投稿された写真や動画は、スターツ出版の編集力を生かしてリポート記事に活用する。
リポート記事は、広告主の要望に応じてWebメディアの「OZmall」やOZmagazineなどの記事広告として掲載できる。スターツ出版は事業化に先駆け、テスト的に高知県東部観光協議会の依頼を受け、観光体験記事を掲載した。同記事は、インフルエンサーが撮影してSNSに投稿した写真で作られている。掲載したコンテンツは広告主のサイトに転載することも可能だ。これらを組み合わせて、広告主のマーケティング活動を支援する。価格は100万円から。
また、スターツ出版の媒体への掲載を前提としない、企業のオウンドメディア向けコンテンツの制作支援も請け負う。プロセスは同様に、広告主が運営するオウンドメディアのテーマに合ったインフルエンサーを選定し、スターツ出版の編集力を生かして記事を制作する。実質的なコンテンツマーケティング支援サービスとしても活用できる。
事業開発で活用した第三者のツール
スターツ出版のインフルエンサー事業のシステム面を支えるのが、ソーシャルメディア活用支援のスマートシェア(東京・港)だ。スターツ出版はスマートシェアが提供する、インフルエンサーの管理ツール「COCO SUITE」とSNS上のコンテンツ管理ツール「OWNLY」を組み合わせて事業を展開する。
COCO SUITEは、登録インフルエンサーに対してリポーター参加などの呼び掛けに使う。その方法は「指名型」と「公募型」がある。絶景写真など、特定分野に特化したインフルエンサーに絞って参加を呼び掛ける場合は指名型、より多くのインフルエンサーに参加を呼び掛ける場合には公募型といった形で使い分ける。もう一方のOWNLYは、インフルエンサーの投稿したコンテンツの管理に利用する。例えば、リポーターとして参加したインフルエンサーの写真や動画をハッシュタグ(#)などで絞り込んで選定し、記事に活用するといった方法で利用する。
InstagramやTwitterなどのSNSが普及し、インフルエンサーが一種のメディアとして影響力を持ちつつある。スターツ出版は既存のメディアに、ファンの拡散力を組み合わせることで、より広くリーチできるマーケティング支援サービスとして開発した。さらに元々の強みである編集力を生かすことで、既存のインフルエンサーマーケティング支援会社との差異化を図る。