雑貨や衣類、食品などの通信販売を行うフェリシモが2018年10月に発売した「飲むカレー CARRY CURRY」。3本1セット、約200セットの数量限定で販売したところ、SNSなどで話題を呼び、発売からわずか2週間で完売した。その後、追加生産を行ったが予約が殺到。現在も品薄状態だ。

「飲むカレー CARRY CURRY」(170g、3缶セットで税別1140円)
「飲むカレー CARRY CURRY」(170g、3缶セットで税別1140円)

 飲むカレーはスクリューキャップ付きの缶に入った具なしのカレーで、さらりとした食感と香り高いスパイスを使った本格的な味わいが特徴。サイズは500mlのペットボトルの半分程度。リキャップできてかさばらないので持ち運びしやすいのが売りだ。

 同商品はフェリシモと、15年に東京都が製作した防災ハンドブック「東京防災」のアートディレクターとしても知られるNOSIGNER(ノザイナー)の太刀川英輔氏が共同で開発した。商品誕生のきっかけは、太刀川氏の「レトルトカレーを持ち歩いて外で飲む」という一言だった。

 同社と太刀川氏はこれまでにも共同で商品を手がけた経緯があり、定期的に会議を行っている。17年春ごろ、「新しい朝食」というテーマで会議していたところ、「朝食にカレーを食べる人がいる」という話の流れから、太刀川氏が「外出先でパウチ入りのレトルトカレーにそのまま口をつけて飲んでいる」と告白。さらに同席していた社員のうち数人も同じようにカレーを飲んでいると話し、盛り上がった。

 だが、実際に外でも飲めるカレーを開発できたとしても、どの程度売れるかは未知数。そのため、一度は商品化が難しいという話になった。しかし、「『カレーを外出先で飲みたい』という意見はこれまでに聞いたことがないユニークなもの。お蔵入りさせるのはもったいない」と、同社プランナーの大森規子氏は商品化に至った経緯を話す。忙しくて食事が取れない人に向け、「ただ空腹が満たされるだけでなく、新幹線などの移動時にかっこよく飲める新しい商品を作りたい」(大森氏)という思いもあった。

ユニークな商品生み出すフェリシモ独特の社風

 コンセプトはまとまったものの、容器選びには難航した。真っ先に考えたのは缶だったが「缶飲料は発注ロット数が大きいのでテスト販売には向かないと考えて諦めた」(大森氏)。

 次に思いついたのはスパウト(飲み口)付きのレトルトパック。「いわゆるゼリー飲料のような形状にしようと思った」(大森氏)。だが、高温・高圧で調理するため、飲み口を熱に耐えられるような素材にすると費用がかさむこと、さらにスクリューキャップを開けるためにかなりの力が必要になることから断念。キャップ付きのガラス容器も思いついたが、重い上に割れる可能性もあるため、「持ち運ぶ」というコンセプトにそぐわない。

 最後にたどり着いたのは、やはり缶だった。しかし缶メーカーに直接交渉し、そのメーカーと取引のある飲料工場で中身の充填ができないかどうか掛け合ったが、「カレーを一度ラインに流してしまうとなかなか色と香りが取れないため、引き受けてくれるところがなかなか見つからなかった」(大森氏)。大森氏はそれでも諦めず、最終的に缶メーカーが自社で持っているテスト用の生産ラインを使わせてもらえることに。構想から1年以上の時間をかけてようやく商品化に至った。

「別容器で温めれば加熱も可能だが、常温でもおいしく飲めるように味を設計している」(フェリシモの大森規子氏)
「別容器で温めれば加熱も可能だが、常温でもおいしく飲めるように味を設計している」(フェリシモの大森規子氏)

 容器や工場探しに苦戦し、販売しても売れるかどうか分からない。商品化は見送るという選択肢は思い浮かばなかったのだろうか。「最後まで諦めなかったのは、新しくてオリジナリティーのある商品を作りたいというフェリシモの社風が影響している」と大森氏は話す。

 同社は1965年にハンカチの頒布(はんぷ)会システムによる通信販売会社としてスタートした。頒布会とは会員に向けて商品を定期的に販売するサービスのこと。フェリシモは「定期便」という名称でこのサービスを行っており、売り上げ全体の8割を占める。

 頒布会で販売される商品は生産数が限られるため、「『自分だけが持っている』という特別感を覚えるユーザーは多い。特にハンカチなど縫製するものは小ロットでの生産が可能だったため、大量生産するよりも少量で多品種をそろえるという方針が創業当初からあった」(大森氏)。

 1992年に同社が発売した「500色の色えんぴつ」は毎月20色の色鉛筆が25回にわたって計500色届くというもので、累計11万セットを突破する人気商品だ。ほかにもポーチやタオルなど猫をモチーフにした雑貨などの定期便「フェリシモ猫部」も好調。「フェリシモにはほかでは買えないオリジナティーのある商品がそろっている」というユーザーの声もある。

「500色の色えんぴつ TOKYO SEEDS」(税別2600円、20色入り1セット)。25回に分けて計500本の色鉛筆が届く
「500色の色えんぴつ TOKYO SEEDS」(税別2600円、20色入り1セット)。25回に分けて計500本の色鉛筆が届く
「NIKUKYU NO KAORI ハンドクリーム」(税別1050円)。毎月1個が定期的に配送されてくる仕組み。1回のみの注文も可能
「NIKUKYU NO KAORI ハンドクリーム」(税別1050円)。毎月1個が定期的に配送されてくる仕組み。1回のみの注文も可能

 さらに、頒布会のメリットとしてユーザーとのコミュニケーションが密になる点が挙げられる。同社も更新のタイミングなどでユーザーから意見を聞き、商品開発に生かしている。「ユーザーから直接ニーズをくみ取る」「オリジナリティーを重視する」「小ロットでも作る」。こうした同社の方針が、一風変わった「飲むカレー」の商品化をかなえたわけだ。

 同社では今後、辛さのレベルや風味を変えて飲むカレーを継続販売することを検討しているという。

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