アバターをまとって配信するVチューバー人気が加速。VR(仮想現実)内で楽しむゲームや交流サイトも続々と登場し、仮想空間で活動する「VR市民」は増え続けている。18年にはアバターの展示即売会が誕生し、人々が殺到。仮想空間での新たな消費行動を捉え、セブン&アイ・ホールディングスなどの大手も動き始めた。

 2019年3月8~10日、3日間で延べ12万5000人もの来場者を集める巨大イベントが開催された。多数の人々が詰め掛けたのは、トップアーティストのライブツアーでも、巨大音楽フェスでもない。ネット上のVR(仮想現実)空間で開催された「バーチャルマーケット(以下、Vケット)」だ。

Vケットは、米国発のソーシャルVRプラットフォーム内の特設ワールドで開催。参加者は3Dアバターをまとって自由に歩き回れる。HMDがない場合でも、パソコンで参加が可能だ ©Virtual Market
Vケットは、米国発のソーシャルVRプラットフォーム内の特設ワールドで開催。参加者は3Dアバターをまとって自由に歩き回れる。HMDがない場合でも、パソコンで参加が可能だ ©Virtual Market

 Vケットは、VR法人と銘打つHIKKY(東京・渋谷)が18年8月に世界で初めて開催したVR展示即売会。HTCの「VIVE」やフェイスブック傘下オキュラスの「Oculus Rift」などのVRヘッドマウントディスプレー(HMD)を着用すれば、アバターに身を包んであたかも会場にいるような感覚で展示ブースを回れる。クリエーターが出展している3DアバターやVRサービス内で使える装飾品などの3Dオブジェクトが販売され、個人や小規模グループが同人誌やオリジナルグッズを持ち寄る即売会「コミックマーケット」のVR版ともいえる。19年3月のイベントはその第2弾に当たる。

 18年の第1弾は1日のみの開催ながら、約80のグループが出展。今年3月の「バーチャルマーケット2」では、3日間に会期を拡大し、出展グループは400以上に膨れ上がった。「米国や韓国など、海外からの来場者も少なくない」(HIKKY代表の舟越靖氏)。

Vケットの第2弾「バーチャルマーケット2」は、3日間にわたって開催。世界各国から人々が会場に詰め掛けた ©Virtual Market
Vケットの第2弾「バーチャルマーケット2」は、3日間にわたって開催。世界各国から人々が会場に詰め掛けた ©Virtual Market

アバターの試着や小道具の試用など新たな買い物体験も

 いざ、VRゴーグルを装着して特設会場に入ると、空間の多彩さに驚かされた。Vケット2では、大空を泳ぐ巨大なクジラの背にあるエントランスを含む、6つの会場を用意。サイバー感のあふれる近未来的な空間や、中世ヨーロッパの街並みを感じさせるレトロな空間など、さまざまな世界に一瞬でワープできるのは仮想空間ならではだ。

仮想空間内のエントランスを抜けると、個性的で多彩な世界が複数存在している。瞬時にワープしてさまざまなエリアに行けるのはVRの魅力だ ©Virtual Market
仮想空間内のエントランスを抜けると、個性的で多彩な世界が複数存在している。瞬時にワープしてさまざまなエリアに行けるのはVRの魅力だ ©Virtual Market

 会場には各サークルのブースが設置され、VR空間で利用できる3Dモデルを展示。アバターに加えて、武具や生活雑貨などの小道具も多数並んでいた。

 VRゲームなどの場合、アバターはサービス側で用意されているものを使うことが基本。だが、「“仮想空間で生きる”ユーザーの増加に伴い、アイデンティティーや自己表現のためにオリジナルのアバターを求める傾向が強くなっている」と舟越氏は語る。

 ただ、アバターを一から作るには、3Dモデリングに関する専門知識が必要不可欠。そんな中、Vケットでは簡単にアバターを購入でき、誰でも自分好みのスタイルに変身できる。アバターは、見るだけでなく、その場で“試着”が可能。小道具も手に持って試せるなど、VRならではの新しい買い物体験が得られた。

3Dアバターやオブジェクトを展示・販売するブース。購入は、設置されたQRコードなどを読み込んで外部サイト経由で行う ©Virtual Market
3Dアバターやオブジェクトを展示・販売するブース。購入は、設置されたQRコードなどを読み込んで外部サイト経由で行う ©Virtual Market

流通大手「セブン」もマーケティングツールとして注目

 VR空間でのショッピングが秘める可能性を見越し、大手企業も続々と参戦している。例えば、セブン&アイ・ホールディングスは、自社ネットショッピングサイト「オムニ7」のブースをVケット2で初出展。人気キャラクター「東雲めぐ」が店員に扮して接客し、飲む(動作をする)と一定時間特殊効果が得られる3Dオブジェクト、「カフェセブン」を配布。自社サイトで販売している商品のオススメ情報を表示して「オムニ7」へ誘導するなど、マーケティングツールとしての活用を模索している。

「東雲めぐ」が商品を紹介。3Dオブジェクト「カフェセブン」を、来場者に無料で配布した。「カフェセブン」を飲むと、特殊効果が現れる ©Virtual Market
「東雲めぐ」が商品を紹介。3Dオブジェクト「カフェセブン」を、来場者に無料で配布した。「カフェセブン」を飲むと、特殊効果が現れる ©Virtual Market

 その他、TSUKUMOブランドを展開するProject Whiteやマウスコンピューターなどのパソコン関連メーカーに加え、エイベックスといったエンタメ関連企業も出展。「幅広い業種から協賛や出資をしたいという声が掛かっている」(舟越氏)。

セブン以外にも多数の企業がスポンサーとして参加。さまざまな趣向を凝らしたブースを展開していた ©Virtual Market
セブン以外にも多数の企業がスポンサーとして参加。さまざまな趣向を凝らしたブースを展開していた ©Virtual Market

VR空間で生まれる新たな消費に企業が熱視線

 多数の時間をVR空間上で過ごす人が増える中、リアルとバーチャルをシームレスに行き来する新たな生活スタイルが生まれている。舟越氏は、この新トレンドを平行世界を指す「パラレル」と現実世界を表す「リアル」を組み合わせて、「パラリアル」と命名。「仮想空間はリアル世界の代用ではなく、あくまでも平行世界。今後は仮想空間での消費が活発になる」と舟越氏はみる。

Vケット2の参加者の様子。アバターを介して、コミュニケーションが生まれている ©Virtual Market
Vケット2の参加者の様子。アバターを介して、コミュニケーションが生まれている ©Virtual Market

 パラリアルな生活スタイルが根付くと、商品に新たな付加価値が生まれると期待されている。例えば、ボールペン1本がリアル世界で200円だった場合、その製品を買うとVR上で使える3Dオブジェクトや特殊な演出が付与されるのであれば、500円以上の高値で売れる可能性も。商品は物理的な形のあるものとVR世界で使えるデータがパッケージとなり、仮想空間を彩る“VR映え”が新たなヒットのキーワードになるかもしれない。

第3弾イベントでは東京都をVR化?

 HIKKYは、今後も定期的にVケットを開催する計画だ。19年9月21〜25日には、第3回となる「バーチャルマーケット3」を5日間で開催する予定。全6テーマ・15ワールドに会場を拡大し、出展者は過去最多の600サークル規模になるとみられる。

「Vケット3」は9月に開催予定 ©Virtual Market
「Vケット3」は9月に開催予定 ©Virtual Market

 Vケット3では、新たな取り組みとして、リアルとVRの融合を掲げる。新しい取り組みとして注目なのが、「東京都VR化計画」。東京都を舞台にさまざまな実験イベントを行うという。

 具体的な内容はまだ非公開だが、例えば、現実の都市を仮想空間に再現し、その中で現実では難しいインタラクション性のある演出を行うなど、VRならではのマーケティング手法が試される可能性がある。反対に、位置情報などを活用し、現実の街と仮想空間をつなげる取り組みなども想定される。企業の参加も大きく増える見込みで、来たるべくVR時代の消費を占うイベントになりそうだ。

 2045年。誰もが「仮想の姿」であるアバターをまとい、VR世界を自在に闊歩する――。18年4月に公開されたSF映画「レディ・プレイヤー1」でスティーブン・スピルバーグ監督が描いた未来は、意外にすぐそこに迫っている。その新潮流の発火点は日本かもしれない。

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