凸版印刷は2019年4月13日から7月15日まで、東京・文京の印刷博物館P&Pギャラリーで「グラフィックトライアル2019 -Exciting-」を開催中。過去にない印刷技術でグラフィックデザインの新たな可能性を追求する実験(トライアル)企画だ。
同企画は、第一線で活躍する4人のクリエイターと凸版印刷が協力し、用紙や色数、インキなどの制約を超えて通常の印刷と異なる方法でクリエイターのイメージを伝えるもの。06年からスタートしており、14回目の今回は来場者がブラックライト(紫外線)を照射するとカラーの文字が浮かび上がる作品もあるなど、体験型の展示手法を新たに取り入れた。
クリエイターには、シンガポールを中心に活躍するデザイン会社WORKのアートディレクターであるテセウス・チャン氏、日本のデザイン会社Allrightのグラフィックデザイナーである髙田唯氏の他、サン・アドのアートディレクターである葛西薫氏、凸版印刷からはアートディレクターの山本暁氏が参加。テーマは「刺激的、ワクワクする」などの意味を含む「Exciting」だ。
会場には、実験の結果である最終的な作品だけでなく、完成に至る過程も展示。プロセスやテスト刷り、印刷技法も共に見せていくことで、作品の背景や使用した技術も理解できるようにした。
新しいインキを開発して「黒」を極める
チャン氏の作品「Colour Noise」では、「タイベック」というデュポン社が独自開発した高密度ポリエチレンの不織布に印刷している点が特徴。不織布とは、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものをいう。主に建築資材や医療用包材などに使用され、印刷素材としては知られていない。そんな印刷に適しているかどうか分からない材料で、どこまで鮮やかに発色できるかを実験した。色を相対的に際立たせるため、黒を重ね刷りするなどして検証したという。一方で、タイベック上で黒をより黒く発色させる方法も研究。インキメーカーの協力で、黒の原料となるカーボン量を増やしたインキを新たに開発した。オフセット印刷とインクジェット印刷で黒を重ね刷りすることで、黒の奥行きや質感を追求した。
髙田氏の作品「見えない印刷」では、光の3原色であるRGB(赤、緑、青)を印刷で表現しようとした。蛍光インキを使うことで、紙による印刷でありながら蛍光マーカーやモニターで見るような発色にした。いわば、紙がモニター画面になったようなイメージだ。赤や緑の蛍光インキは既にあるが、青の蛍光インキはまだない。そこで偽造防止などに使われる蛍光メジウムというインキに注目。これを青の蛍光インキとして活用してみたところ、通常の蛍光インキと比べて発色が異なるため、紙によっては色調に難点があった。そこで赤や青に近い色の蛍光メジウムも使用した結果、うまく発色したという。
葛西氏の作品「興奮」は、35ミリメートルのネガフィルムを5枚のB1サイズに引き伸ばして制作した作品。「拡大すると荒く不鮮明になる」という画像の性質を逆手に取り、高解像度を必要としない粗さで実験したところ、時代感や空気感を表現できた。
山本氏の作品「オフセット印刷の不良」では、オフセット印刷の仕組みを用いて偶発的な表現が生まれる点に注目。「濡れた紙に印刷する」「裏抜けする紙に印刷する」「意図的に版ズレを起こす」「凸凹のある紙に印刷する」などの実験を通じて、オフセット印刷の新たな表現を探った。
(写真/丸毛 透)