居酒屋「金の蔵」がスマートフォンアプリを活用し、月額4000円の定額制飲み放題サービスを開始した。お得感を打ち出すことで、自前のアプリをダウンロードさせる狙いがある。オウンドメディアとしてのアプリをさらに強化して、「ぐるなび」などのグルメサイトに依存した店舗運営からの脱却を進める。
外食チェーンの三光マーケティングフーズが運営する居酒屋「金の蔵」では、店員にスマートフォンの画面を見せて、飲み放題を注文する客が増えている。同社が2019年3月5日に開始した月額4000円(税別、以下同じ)で毎日飲み放題を利用できる「プレミアム飲み放題定期券」だ。同サービスを利用するには、まず店の公式アプリをダウンロードし、アプリから飲み放題定期券を購入する。使用できるのは同一店舗で1日に1回。別店舗であれば同じ日に使用できる。
金の蔵のプレミアム飲み放題サービスは、2時間1800円。これに対して、飲み放題定期券を毎日使った場合、1日当たりの金額は130円ほどで済む計算だ。頻繁に来店する客ほどお得になる。
同社は、金の蔵の公式アプリの運用を18年2月20日に開始。同アプリでは、割り勘計算や割引クーポン配信などの機能を搭載していた。開始から1年間のダウンロード件数は、順調に伸びて約3万弱になった。これに、お得感を打ち出した飲み放題定期券を開始すると、伸びが加速し、直後の1週間で4000ダウンロードを達成した。
ただ開始から日が浅く、認知度も低いため、飲み放題定期券の購入件数は、120とまだ少ない。そのため、店舗では専用のPOPを作成し、店員が客に見せて説明し、盛んにアピールしている。金の蔵では、アプリをダウンロードして会員登録したら、お通し代290円が毎回無料になる特典や、月額290円でファーストドリンクが無料になる「ファーストドリンク定期券」を19年4月12日に追加。アプリのメリットを相次いで打ち出している。
同店のターゲットは20~30代の社会人で、客単価は2200~2300円と比較的安価だ。そうした客にとって、アプリをダウンロードするだけで、客単価の1割以上を占めるお通し代が無料になるインパクトは大きい。飲む量が少ない客の場合、ファーストドリンク定期券を購入すればビール(390円)だけで元が取れる。
追加注文するので客単価は変わらず
これだけ大盤振る舞いをして、果たして店はもうけを出せるのか。「支払額が割り引かれる分、お客さまは料理やドリンクを追加注文する傾向がある。そのため定期券を導入しても客単価はこれまでと変わらないはず。アプリを使うお客さまの1回当たりの粗利はやや減るが、全体として来店頻度が上がり、売り上げが増えるので、店の粗利は増加する」と同社金の蔵ビジネスユニットマネージャーの福田啓佑氏は説明する。
同社がこうしたアプリ強化を進める要因の1つに、グルメサイトからの流入減がある。「ぐるなびやホットペッパーなどのグルメサイトからの予約件数がここ数年急速に減っている。お客さまは店がグルメサイトに掲載する情報よりも、実際に来店した人がコメントを多く投稿している食べログやSNSを店選びの参考にしている」と福田氏は説明する。
多くの外食企業と同様に、同社もグルメサイトからの集客に依存していた。若者を中心としたアルコール離れにグルメサイトの効果が薄れたことが重なり、既存店の売り上げは、前年比で95~98%と低調だ。「コンビニやファミレスに客を奪われている状況があり、新規客を開拓するのは難しい。今いるお客さまに熱心なファンになってもらい、来店頻度を増やすことが大切」と福田氏は語る。そのための起爆剤として、お得なサービスを詰め込んだ自前のアプリを導入したのだ。
こうしたグルメサイトに支払う金額は、多い店で月額40万~50万円に達する。同社の店が最も多かった時期には、年間数億円に膨れ上がったこともあったという。一方、アプリの運用は、インサイトコア(東京・港)のアプリプラットフォーム「Insight Core」を活用している。こちらは、ユーザーがアプリを起動した回数によって課金される仕組みで、現在の支払額は、金の蔵全店で月額9万8000円。グルメサイトに比べて大幅に安い。アプリは低コストで運用できるのに加えて、客の来店頻度を高める効果が高いとみて、同社は力を入れていく。晩酌セットの定期券や友達も一緒に飲み放題ができる定期券などのバリエーションを増やす他、将来的には、アプリから料理やドリンクを注文し、決済まで完了する機能を持たせる構想を描く。「アプリを他の業態にも広げ、グルメサイトの利用は今後縮小していく」と福田氏は語る。
飲み放題サブスクで売り上げが1.5倍に
居酒屋を中心に全国で350店舗を展開するアンドモワ(東京・港)は、飲み放題サブスクリプションをいち早く導入して成果を上げている。同社が運営する「柚柚」(秋葉原駅前店)や「北六」(神田駅前店)など30店(現在は32店)で18年2月5日、「月額定額制飲み放題サービス」を開始した。
同サービスは、専用のカードを購入すれば、期間中250種類のドリンクが2時間飲み放題になるというもの。期間は、30、60、90、120日の4種類があり、価格はそれぞれ3000、5000、7000、1万円(いずれも税込み)。当初は紙のカードのみだったが、現在はアプリでも提供している。これまでにカードとアプリの合計で9000件を販売した。
同サービスの利用者は、「月平均3、4回来店し、平均単価はその他の客と変わらない」(同社広報担当)。本サービス開始前の17年10月に柚柚(秋葉原駅前店)でテスト導入したところ、売り上げが前年同月比154%に跳ね上がった。売り上げへの寄与が大きく、反響も大きかったことから本格導入に踏み切った。同社は、自社が運営する全店で利用可能にすることを検討している。
ヘビーユーザーが満足し、売り上げ増に貢献する飲み放題サブスクは、今後多くの飲食店に広がる可能性がある。