サッポロビールが、インフルエンサーマーケティングで成果を上げ始めた。2018年から導入したマーケティング支援会社インダハッシュ(本社:ダブリン)の仕組みを活用したことが奏功した。18年12月から19年2月までのキャンペーンでは、「大人に乾杯」というブランドイメージを、新規の見込み顧客に刷り込むという狙い通りの展開を達成できた。

黒ラベルリニューアルに伴うキャンペーンのランディングページ(LP)
黒ラベルリニューアルに伴うキャンペーンのランディングページ(LP)

 主力商品の1つ、「サッポロ黒ラベル」の味とパッケージが、ともに2019年1月下旬製造分からリニューアルされた。これに伴い、サッポロビールは、これまでの黒ラベルになじんでいない新規の見込み顧客を獲得し、その層に黒ラベルの良さを訴えて顧客化することを考えた。そこで進めたのが、インフルエンサーを活用したSNS投稿型キャンペーンによるマーケティングだ。

インフルエンサーの投稿をネット広告として配信したイメージ
インフルエンサーの投稿をネット広告として配信したイメージ

 具体的にはこんな具合だ。まず複数のインフルエンサーを起用して、Instagramに黒ラベルに関する投稿を上げてもらう。その中から、黒ラベルのブランドイメージをよく伝えている投稿を選んでネット広告のコンテンツや、キャンペーン専用LP(ランディングページ)のコンテンツに2次利用する。そうして広告やLPを見たユーザーは、18年12月14日から19年2月7日までのキャンペーン実施期間中に、「#大人に乾杯」というハッシュタグをつけて「大人に乾杯」にふさわしい画像をInstagram上に投稿する。これでキャンペーンに参加したことになり、うち50人にオリジナルグラス2脚セットが当たるというものだ。

LPの平均滞在時間が従来の2倍に

 すると、このキャンペーンのLPを訪れたユーザーの平均滞在時間が、約40秒に達した。同社の従来のキャンペーンではLPの平均滞在時間は15~20秒だったから、約2倍の値である。しかも、ユーザーがどんなサイトからLPに流入したかを分析すると、「ラグジュアリー系のサイトから多数のユーザーが訪れていることが分かった」(サッポロビール ブランド戦略部宣伝室シニア メディア プランニング マネージャーの福吉敬氏)。

 従来の黒ラベルのキャンペーンでは、スポーツ関連サイトやニュースサイトからの流入が目立っていた。福吉氏は、「数は開示できないが、これまで黒ラベルにはなじみのない新規の見込み顧客がLPを訪れ、そのうえコンテンツに長く触れてくれた。当初の想定を上回る大きな成果だ」と語る。

 それだけではない。このキャンペーンによって、「サッポロビール社内外の意識変化を確認できた」(福吉氏)という効果もあった。キャンペーンが始まったばかりのとき、いくつかの地方を担当する営業担当者から黒ラベルのブランドマネジャーに、「かっこいい絵柄がInstagramに上がり始めたが、これは仕込んだものなのか」という問い合わせが入ったという。

 これまでなら、営業先である飲食店や小売店の多くは、サッポロビールが宣伝にどれだけ力を入れているか、その力の入れ具合を示す数値としてテレビ広告出稿量(GRP)だけに興味を示していた。しかし、今や飲食店や小売店、最前線の営業担当者も、ユーザーの動向を示す指標として、Instagramへの投稿内容を気にするようになっていることが分かったのだ。「インフルエンサーマーケティングを今後も展開していく意味が高まった」と福吉氏は言う。

インフルエンサー1人ひとりが自分の言葉で語る

 では、なぜ今回のキャンペーンは、当初の想定を上回るほどうまくいったのか──。「広告やLPに2次利用したインフルエンサーの投稿のレベルが高く、それによって一般ユーザーの投稿のレベルも上がり、黒ラベルのブランドイメージを、狙い通りの『大人に乾杯』に持っていくことができたから」と福吉氏は理由を語る。これまでのインフルエンサーマーケティングでは、サッポロビールが用意したキャッチコピーを多少もじったような表現や、黒ラベルを単純にPRするような絵柄ばかりが目立っていた。しかし今回は、インフルエンサーが1人ひとり自分の言葉で語っていた。だからこそLPを訪れたユーザーがこれらの言葉に魅入られ、滞在時間が大きく伸びたのだ。

LPを再構成したインフルエンサーたちからの投稿。タップすると詳細が読める仕組み
LPを再構成したインフルエンサーたちからの投稿。タップすると詳細が読める仕組み

 インフルエンサーの投稿レベルを高く保てたのは、「インダハッシュの仕組みを活用できたことが大きい」と福吉氏は言う。アイルランドのダブリンに本社を置き、世界約80カ国でインフルエンサーマーケティングの支援を専門に手掛けるインダハッシュは、インフルエンサーと企業のマッチングを手掛ける競合他社とは異なる仕組みを、いくつも備えている。

企業のリクエストに応えて投稿できる人間を10分の1に絞り込み

 まず、企業のリクエストに応えて投稿できるインフルエンサーの数を、フォロワー数や、一定期間に自身が投稿した数、エンゲージメント率といった独自の条件で審査し、絞り込んでいる。その中から企業のリクエストにマッチしそうなインフルエンサーにのみ声をかけて、投稿を促す仕組みだ。専用アプリを自身のスマートフォンにインストールしたユーザーは世界約80カ国に約900万人いるが、企業のリクエストに応えて実際に投稿に参加できるのは、「10分の1の約90万人だけ」(インダハッシュ・カントリーマネジャーの野村肇氏)。ちなみに日本で企業からのリクエストに参加できるインフルエンサーは約2万人である。

 加えて、実際に投稿するインフルエンサーに、可能な限り分かりやすく、企業のリクエストを伝える努力をしている。インダハッシュの場合、投稿するインフルエンサーとはスマートフォンだけでコミュニケーションを取る。そこで、スマホ上に示した企業のリクエストの内容が、本来の意図から外れていないように常に気を配る。今回の場合は、サッポロビールと広告会社が打ち合わせをする席にインダハッシュの人間も常に同席し、内容の把握に努めている。ここで得た内容をどのような言葉でインフルエンサーに伝えるかは、「マーケティング支援企業のノウハウ」(野村氏)というわけだ。

投稿内容の事前チェックと10年間の2次利用ができる

 さらに、インダハッシュの仕組みには、企業にとって重大な使い勝手の良さが2つある。

 1つは、インフルエンサーが投稿する前に、内容の事前チェックが可能な点だ。通常のインフルエンサーマーケティングであれば、企業や広告会社が事前にいくら説明しても、意図と全く異なる内容の投稿が出てしまうことを止められない。インダハッシュの場合は、投稿内容の“下書き”の段階で、インフルエンサーが広告主企業に内容を見せるのがルール化されている。もしも意図と異なる内容になりそうな場合は、事前にストップをかけるか、修正を依頼することができるわけだ。

 もう1つは、インフルエンサーが投稿したコンテンツについて、10年間、著作権料を追加支払いすることなく広告主企業が2次利用できる点だ。インダハッシュは、インフルエンサーにギャラを提示するとき、2次使用料込みの金額を示し、了解を得られたインフルエンサーにだけ投稿を依頼する仕組み。だからこそ、投稿内容をネット広告やLPのコンテンツに、スピーディーに再利用することができる。

 「インダハッシュの仕組みがなかったら、こちらのリクエストの意味をよく分かったインフルエンサーを登用して投稿のレベルを高く保つことも、スピーディーな2次利用展開もできなかった」と福吉氏は振り返る。実はサッポロビールは3年前から、インフルエンサーマーケティングに取り組んできた。しかし、狙い通りの投稿がされなかったり、サッポロビール自身が取り組みのゴール(目標)をうまく設定できていなかったりで、高い成果を上げられたとは言い難い状況が続いていた。

 福吉氏は言う。「インフルエンサーにくっついているフォロワーの数が多いだけでは意味がない。いくつかの取り組みから、サッポロビールの目指すライフタイルと、インフルエンサー自身のライフスタイルが共通していて、かつそのライフスタイルに共感するフォロワーが、それほど大人数でなくていいから、しっかりついているインフルエンサーを起用することに意味があると分かった」。インダハッシュを活用することで、狙い通りのインフルエンサーマーケティングを実際に実施できるようになったというわけだ。

 ブランドマネジャーとの協議は当然必要になるが、今後もサッポロビールは、黒ラベルはもちろん他のブランドについても、インダハッシュの仕組みを活用しながら、インフルエンサーマーケティングを実施していく考えだ。

■修正履歴
記事掲載当初、サッポロビールが実施したキャンペーンの期間に誤りがありました。本文は修正済です [2019/04/24 15:00]

(写真提供/サッポロビール)

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