「貼る」を変える、というコンセプトでコクヨが2019年1月に発売した、接着・粘着用品の新ブランド「GLOO(グルー)」が好調だ。同社によれば、発売2カ月の売り上げは当初販売目標の150%を達成したという。
GLOOは、スティックのりとテープのり、瞬間接着剤、テープカッターという異なる商品を1つのブランドの下にまとめ、ユーザーが「貼る」という行為で感じているストレスや困りごとを機能デザインで解決した商品群。ヒットの要因は主に2つあるという。一つは、異なるカテゴリーの商品を1つのブランドとしてまとめたことで、売り場での面展開が可能になり露出が増えたこと。「キャンパスノート」や「カドケシ」「ハリナックス」など、個別の商品ブランドが強い同社では、複数の商品を1ブランドでまとめて展開することはこれまでにはない試みだった。
もう1つは「機能性に加えて、使っていない時の佇まいも美しいという、別の価値を商品に加えられたこと」(コクヨのステーショナリー事業本部クリエイティブプロダクツ開発部長、三井隆史氏)だ。実はこの商品をnendoに依頼する前に、コクヨではユーザー調査を行っている。文房具は机の引き出しの中にしまって、使うたびに出すもの、というこれまでの認識とは違い、文房具を机の上に置きっぱなしで使うことも多い。「机の上にあっても違和感がなく、プロダクトとして美しいものが求められるようになっていた」(三井氏)。
佇まいの美しさ、というこれまでの文具の文脈とは少し異なる価値を生み出すため、GLOOではあえて外部のデザイナーを起用。その中でも「機能性と美しさを両立できる」としてnendoに依頼したという。
その結果生まれた商品の佇まいの美しさは、ユーザーの新しい購買行動を生んだ。コクヨの亀井典子ステーショナリー事業本部マーケティング副本部長によれば、「特にのりなどは、これまで『必要だから買う』というニーズしかなかった。しかしGLOOはプレゼント用にまとめ買いをする人なども多く、ギフト需要を喚起できた。さらにはハンドメードのクラフトマーケットで実演販売を行うと、そこでの反応がこれまで以上に良い。いつもの買い回しだけではない、『楽しんで買う』というニーズを捉えることができるようになった」と、マーケットの拡大を喜ぶ。
とはいえ、開発に当たっては、これまでにはない商品だからこその苦労の連続だったという。商品の美しさを生み出すためには、パーティングラインを極力目立たせたくない。そのために金型作りは複雑になり、これまでにない工夫が求められた。また、あまり商品説明をしないシンプルな商品パッケージに対して店舗や営業担当者から疑問の声が上がり、理解を得るのにマーケティング担当者が何度も説明を重ねた。さらに、シリーズとして商品を見せるというやり方は、複数の商品を同じタイミングで出荷しなければならないという生産管理面の難しさがあった。
さまざまな担当者が、既存の仕事のやり方を超える働きをしなければ、実現できないプロジェクト。しかし、最終的には「ヒット商品を生むために限界を突破するにはどのように動けばいいのか。新しい仕事のやり方を知る良いきっかけとなった」(三井氏)と、関わったスタッフそれぞれの成長を促す結果となった。
内部からも刺激を与え、社内を活性化
GLOOのプロジェクトは、外部のデザイナーの起用により、外の力を利用しながら社内の組織に刺激を与え、ヒット商品を生み出すことに成功した。しかしこれ以外にも、現在コクヨでは、さまざまな形で社内に刺激を生み出す試みを行っている。
例えば、その一つが、家具部門と文具部門の交流だ。これまで、それぞれの専門性を培うため、互いの部門での交流はあまりなかったというが、近年はあえて協業型の活動を行っている。
「例えば家具部門でデザイナーがオフィスを提案するクライアントと直接やりとりをして、インタビューを行ったり顧客を観察したりして見つけたニーズを文具にも生かすなど、取り組みの“場”を持つようになってきた」(亀井氏)。フリーアドレス化などで資料やPCを持ち歩く人が多いというニーズを捉えた、オフィス内持ち運びバッグなど、近年こうした交流からヒット商品も生まれつつある。刺激をうまく組織の成長に変えて、ヒット商品を生み出し続ける体制を、コクヨは整えつつある。
(写真/吉田明広)