東京・秋葉原で開催されたeスポーツリーグ「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」のグランドファイナルにNTT東日本が初めて参画し、パブリックビューイング会場へのライブ配信などを行った。これを足掛かりに、e-Sportsイベントへのシステム提供、受託事業などを積極展開する考えだ。

左から司会の八田亜矢子氏、ノンスタイルの井上裕介氏、優勝を飾ったイタザン オーシャンの3人、ゴールデンボンバーの歌広場淳氏
左から司会の八田亜矢子氏、ノンスタイルの井上裕介氏、優勝を飾ったイタザン オーシャンの3人、ゴールデンボンバーの歌広場淳氏
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 「ストリートファイターリーグ poweded by RAGE」は、カプコンの対戦格闘ゲーム『ストリートファイターVアーケードエディション(ストVAE)』を使ったeスポーツリーグで、プロ選手とハイアマチュア、初心者の3人がチームを組んで戦うリーグ戦だ。

 2019年3月21日に東京・秋葉原で開催された最終決戦「グランドファイナル」には、3カ月間のリーグ戦の上位3チーム──板橋ザンギエフ選手率いる「イタザン オーシャン」、ネモ選手率いる「ネモ オーロラ」、マゴ選手率いる「マゴ スカーレット」──が進出。結果は、予選を1位通過したイタザン オーシャンが勢いそのままに勝ち抜けて優勝を決めた。

NTT東日本の拠点を使って中継の遅延を抑制

 今大会の注目は、NTT東日本がICTサプライヤーとして初めて参画したことだ。同社は大会当日、宮城県仙台市の同社通信ビルにパブリックビューイング会場を開設。同社の閉域網(フレッツ網)とパブリッククラウドを利用し、秋葉原の本会場とパブリックビューイング会場間をつないで、大会の模様をライブ配信した。また、試合の合間には、秋葉原と仙台の来場者がオンライン対戦できる環境も用意した。

 システムを担当した、NTT東日本ビジネス開発本部アクセラレーション担当主査の影澤潤一氏によると、同社は以前からカプコンと付き合いがあり、18年の秋くらいから何らかの取り組みができないか模索していたという。そこで案として挙がったのが、パブリックビューイングだった。影澤氏は、「NTT東日本には約2000の拠点があり、相互に閉域網でつながっている。これを活用すれば、安価で安定した通信環境を構築できると考えた」。

NTT東日本 ビジネス開発本部アクセラレーション担当主査の影澤潤一氏
NTT東日本 ビジネス開発本部アクセラレーション担当主査の影澤潤一氏
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 eスポーツのライブ配信では、閉域網からインターネット網を介してパブリッククラウドにつながる構成が一般的だ。この構成は、インターネットを経由するため、どうしても遅延しやすい。「ゲーム系のイベントでライブ配信をしている様子を見たことがある人なら、現場と配信で数秒から十数秒のタイムラグがあることを経験として知っているのでは」と影澤氏は話す。

 一方、今回使ったのは、閉域網からクラウドゲートウエイを介してパブリッククラウドにつなぐ構成。インターネット網を排すことで、遅延を約10分の1程度に抑えられたという。「秋葉原の本会場とパブリックビューイング会場をインタラクティブにつないで、2元中継のようなことも試みました。従来の構成では、それぞれの会場にいる人同士が中継で会話しようとすると、かなり間が空いて成立しません。でも閉域網なら、会話が成立する程度の遅延で済みます」と影澤氏は説明する。

仙台会場の試遊台スペース、パブリックビューイング会場を閉域網で秋葉原の本会場と接続。少ない遅延で相互の会話もスムーズに
仙台会場の試遊台スペース、パブリックビューイング会場を閉域網で秋葉原の本会場と接続。少ない遅延で相互の会話もスムーズに
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コストや人員も安価に抑えられる

 もともと監視カメラなどで利用されていた閉域網を活用したのも工夫の一つだ。新規のネットワークを一から構築することも可能だが、その場合は莫大な経費が掛かるうえ、各拠点に相当数の人員を派遣しなくてはならない。

 今回は、既存のネットワークに加え、パブリックビューイング会場をNTT東日本のビルとしたため、システム構築コストを大幅に削減、人員も2人程度に抑え、ランニングコストを軽減している。NTT東日本のビルを使わない場合は、閉域網に接続するための回線を引かなければならないが、それでも数十万~100万円程度のコストカットは見込めるという。「いずれの場合も、NTT東日本のシステムとネットワークを利用してもらうことで、安価で安定したeスポーツイベントが開催できます」(影澤氏)。

仙台の会場のプロゲーマーMOV選手と対戦するゴールデンボンバーの歌広場氏。遅延のないプレーと会話に満足した様子だった
仙台の会場のプロゲーマーMOV選手と対戦するゴールデンボンバーの歌広場氏。遅延のないプレーと会話に満足した様子だった
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 特にニーズが高いとみるのが、地方でのイベント開催だ。最近、地方自治体や地方企業がeスポーツへの参入に興味を示しているという話をよく耳にする。しかしながら、通信インフラの整備や、ゲームの権利を保有するIPホルダーへのタイトル使用許諾など、大会を開催するまでにクリアすべき課題は多く、どう取り組めばいいか分からないという企業・団体も多い。そこで「システムだけでなく、IPの許諾、ゲーミングPCや配信用設備の用意などもサポートし、ほぼ手ぶらでイベントを開催できるまでに昇華していきたいと考えている」(影澤氏)という。

 eスポーツイベントを開催するための環境を、NTT東日本が包括的にパッケージとして提供できるとなれば、自治体や企業の参入障壁はかなり低くなるだろう。インタラクティブな通信環境の下、イベントを開けるなら、オンラインでもオフライン並みのeスポーツ大会を開催できる。全国から参加者を募ることが可能だ。さらに複数都市で同時にイベントを開いて、多元中継することもできるようになる。eスポーツで地方創生を狙う地方自治体や企業にとっては、ビジネスチャンスの拡大につながるはずだ。