「第一パン」として知られる第一屋製パンが「子どもが食べやすい食パン」をコンセプトにした新ブランドを立ち上げた。2019年3月1日に発売した「emini(エミニ)」は飲み込みやすいしっとりとした生地と軟らかくてかみ切りやすいパンの耳に加え、レンジで温めることを推奨している点が特徴だ。

 第一屋製パン(以下、第一パン)が子どもをターゲットにした背景には、同社が菓子パンに強いという事情がある。

 パン市場は食パンやロールパンなどの「食事系パン」と総菜パンなどの「調理パン」、甘い「菓子パン」の3つに大きく分けられる。第一パンの主力商品はソーセージが入った一口サイズのパンやチョコ味のミニクロワッサンなど、調理パンと菓子パンだ。

 これらの商品は1袋に小さいサイズのパンが複数個入っており、小さい子どもを持つファミリー層の朝食需要が高い。人気キャラクターを使った菓子パンもそろっており、「第一パンといえば子ども向けに強いというイメージがある」と同社経営企画室ブランド戦略グループの松下隆哉グループリーダーは話す。

 そんな同社の課題は食事系パンの強化。「ファミリー層がスーパーマーケットでよく購入する食パンで柱となる商品を作りたかった」(松下グループリーダー)。そこで、自社の強みである「子どもをターゲットにした商品」と掛け合わせ、コンセプトを絞り込んだという。

「子どもが食パンに抱える不満」をリストアップ

 購入者のモデルとして設定したのは、ともに38歳の共働き夫婦で就学前の子どもが2人いる世帯。出勤前の慌ただしい時間に、子どもが進んで食べるような食パンとは、一体どんなパンか。同社の菓子パンにあって、既存の食パンにはない特徴とは何か。

 「甘いものやチョコレート味など、風味があるものが好きだからという理由で菓子パンを好む子どもは多い。だが、甘くないという理由だけで食パンが苦手なわけではないのではないか」。同社商品開発部の鈴木努副部長が考えたのは、「子どもが食パンに抱える不満」をリストアップして、解決していくことだった。

 最初に思い当たったのは、パンの耳の硬さ。「自分自身も、耳のもそもそした食感が苦手だった記憶がある。パンの耳だけ残すという子も多い」(鈴木副部長)。また、トーストしたパンはパサついているように感じ、小さな子どもには飲み込みにくいのではないかと推測。耳の食感を変え、パサつかないしっとりした食感を採用したい。そこで、電子レンジで温めるという大胆な提案を思いついた。

第一屋製パン商品開発部の鈴木努副部長。「eminiを温める際はラップをかけずに1枚ずつ、500ワットの電子レンジで約20秒。この設定を守れば、ほったらかしで調理できるという分かりやすさも売り」
第一屋製パン商品開発部の鈴木努副部長。「eminiを温める際はラップをかけずに1枚ずつ、500ワットの電子レンジで約20秒。この設定を守れば、ほったらかしで調理できるという分かりやすさも売り」

電子レンジで「親の手間を軽減」

第一屋製パン「emini」(6枚入り、8枚入り、各実勢価格148~168円。3枚入り実勢価格は100~110円)。湯種製法によるしっとりとした食感と石臼びき全粒粉入りの香ばしさが特徴。乳化材、イーストフードは使っていない
第一屋製パン「emini」(6枚入り、8枚入り、各実勢価格148~168円。3枚入り実勢価格は100~110円)。湯種製法によるしっとりとした食感と石臼びき全粒粉入りの香ばしさが特徴。乳化材、イーストフードは使っていない

 パンを電子レンジで加熱すると、グルテンの強度が増すのでパンが硬くなりやすい。そのため、パンを温めるのに電子レンジは使わないという人は多いだろう。そこで同社は電子レンジで加熱しても硬くならない製法と配合を研究し、さらに加熱に最適なワット数と秒数、加熱方法を袋に明記した。

 そうまでして電子レンジ加熱を推奨したのには、2つの理由がある。1つ目は、トースターの普及率。「トースターは場所を取るので持っていないという人も多いのではないか。一方で、電子レンジならほぼ全ての家庭にあるはず」(鈴木副部長)。実際に、電子レンジ(オーブンレンジ)の所有率が99.1%に対し、オーブントースターは80.5%という調査結果も出ている(首都圏と近畿圏の20~60代の既婚男女1120人を対象にした、キッチン家電の購入に関する調査。2013年、象印マホービン調べ)。

 2つ目の理由は、後片付けの手間の軽減だ。トーストしたパンはパンくずが出やすいので、食べこぼしを片付ける手間がかかる。食べ方を注意されることで、パンが嫌いになる子どももいる。「その点、温めただけのしっとりしたパンであれば、さほど食べこぼしは出ないはず」(鈴木副部長)。

 ターゲットは子どもといっても、商品を購入するのは親だ。子どもが食べやすい食感、温めの手軽さ、食べこぼしの少なさ。朝の限られた時間の中で親の手間を軽減することを考えてたどり着いたのが、電子レンジ加熱だったというわけだ。

食パンを買う人の多くは「ブランド名」で選んでいる

 第一パンの新しい柱となるべく開発されたemini。だが、そのパッケージには第一パンのロゴは見当たらない。「コッペパンをイメージした第一パンのロゴになじみがある人は多いが、既存のイメージにはないものを作りたかった」と松下グループリーダーは説明する。「食パンを買う人の多くは、メーカー名ではなくブランド名で選んでいるのではないか。eminiを売るにあたって、メーカーが第一パンであることは重要ではない」。

 ロゴの代わりに、第一パンという意味を込めた「1ST BAKING」という文字を採用。パッケージも子ども受けが良さそうな淡いブルーと白を選んだ。購入者からは「子どもが進んで食べる」「いつもの2倍の量を食べた」という声が寄せられているという。

 CMは作らず、広告宣伝も大々的に行うつもりはない。食パンを広めるには、まず食べてもらうことが重要。そう考えて試食販売や店頭での1枚入りのサンプル配布などを行い、認知を広げるつもりだ。

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