大日本印刷(DNP)は、街中での移動に困っている人と、そうした人を助けたい人をスマホとLINEで結び付ける「ソフトバリアフリー実証実験」を2019年2月1日から3月31日まで福岡市天神エリアで実施。延べ1万人以上が参加し盛況だった。
実証実験は、障害などがあるために移動に困っている人を支援したり、訪日外国人観光客などに乗り換えや道を案内したりして、困っている人を助けることが狙い。今後、社会性のある新規事業を創造するためだ。
こうした取り組みを以前から行っており、最初は2017年12月11日から15日の5日間、東京メトロ銀座線の最後尾車両内で、席に座りたい妊婦の人と席を譲りたい周囲の乗客をつなぐ実証実験を実施した。
18年8月にはJR大阪駅構内で、移動時に段差などで困っている人と手助けをしたい人を結び付ける実験を手掛けた。19年2月14日から2月24日には新宿駅西口エリアでも福岡市と同様に実験。徐々にエリアと対象を拡大している。
仕組みはこうだ。趣旨に賛同して参加する人は、あらかじめLINEの公式アカウント「&HAND」で「友だち登録」を行う。その際、自分が「手助けを必要とする側」か「手助けする側(サポーター)」になるかを選択する。実験実施エリアにはビーコンが設置され、登録を行った人がエリアに入ると、エリアに入ったというメッセージがスマホに届く。これで手助けする、されることが可能な状態になる。
LINEを利用していない訪日外国人にはQRコードで
例えば、車椅子の利用者が段差を乗り越えられなくて困っていると、アカウントを通じて「こうしたことで困っています」というメッセージを発信する。すると、エリア内にいるサポーター登録をした人にメッセージが届く。「自分が手助けします」と名乗りをあげれば、あとは待ち合わせ場所や目印となる服装などを連絡し、落ち合う。LINEを利用していない訪日外国人は、実証エリアに設置したポスターに記載されたQRコードをスマホで読み込むことで、近くのサポーターに依頼を送信できる。
「相互の意思表示のハードルを下げ、社会の中で心のバリアフリーを実現したい」とDNPのABセンターコミュニケーション開発本部&HANDサービスデザイングループ/サービスデザイン・ラボの松尾佳菜子氏は言う。手助けされる側には「こんなことを人に頼んでいいんだろうか」というためらいがあり、困っている人を見かけて手助けしたいと思った人も「知らない人にいきなり声を掛けるのは恥ずかしい」「不審に思われたらどうしよう」など、なかなか一歩が踏み出せない。
その声掛けのハードルをIoTを使って下げ、多くの人が潜在的に持っている「誰かの役に立ちたい」という気持ちを後押しできるようにした。現在は全国で14万人以上が「友だち登録」をしており、福岡市の実験では2月1日から3月24日までに助けたい人が延べ1万1160人、助けを必要とする人が536人も参加した。
今後はLINEを使わずに、GPSを利用するオリジナル開発のアプリへ19年上期中にも移行する予定。これによってビーコンに依存する必要がなくなり、エリア設定の自由度が高まる。
今回の実証実験を推進するグループは、社会の困りごとに注目。今までにないサービスを生み出そうとした。どうやって収益を上げるかが今後の課題になるが、マッチングのサービスの他にも、データを活用したビジネスも検討中。例えば、さらにデータを蓄積することで移動の支障になりやすい場所や迷いがちな場所の特性を明らかにし、街や店舗づくりのコンサルティングやバリアフリーマップの製作といったサービスにつなげることも考えている。
(写真提供/大日本印刷)