スターバックス コーヒー ジャパンは2019年4月8日、「LINE」上で使えるプリペイドカードの提供を開始した。世界初の取り組みだ。19年上期には、スマートフォンアプリで事前注文し、店舗で受け取るサービス開始も計画する。現在3割強のキャッシュレス比率を早期に5割まで高めることを狙う。

LINEの出澤剛社長(左)、スターバックス コーヒー ジャパンCEO(最高経営責任者)の水口貴文氏(右)
LINEの出澤剛社長(左)、スターバックス コーヒー ジャパンCEO(最高経営責任者)の水口貴文氏(右)

 「なるべく早く、キャッシュレス比率を5割まで高めたい」。スターバックスの濱野努デジタル戦略本部長は日経クロストレンドの取材に対して、こう意気込みをのぞかせた。

 スターバックスのキャッシュレス比率は、既に店舗での購買金額の3割を超える。キャッシュレス比率が約2割にとどまっていると言われる国内において、スターバックスはキャッシュレス化で1歩リードする。キャッシュレス化をけん引したのが、プリペイドカードの「スターバックス カード」だ。ファッションブランドとコラボレーションした特別なカードを販売。元から高いブランド力に第三者のブランド力を掛け合わせるマーケティング施策などで、人気を博した。

 さらに、スターバックス カードを軸にオンライン入金できる仕組み、スマートフォンアプリ化した「スターバックス ジャパン公式モバイルアプリ」、アプリでたまるポイントプログラムなどを開発。ポイントプログラムの会員は提供開始から1年半で330万人に達した。デジタルとの連携で利便性を高め、着実にキャッシュレス化を推進してきた。「店舗オペレーション負荷の軽減や、決済時間の短縮によるレジ待ち時間の低減などにつながっている」と濱野氏はキャッシュレス化推進の利点を話す。

 キャッシュレス比率を5割まで高めるべく、スターバックスは19年上期に、矢継ぎ早にキャッシュレス推進策を展開する。その第1弾が、LINEとの提携だ。19年4月8日、デジタル領域におけるイノベーションの加速を狙い、LINEとの提携を発表。スターバックスCEO(最高経営責任者)の水口貴文氏は「スターバックスの体験価値を高めるうえで、デジタルがなくてはならない存在になっている。LINEと組むことで、スターバックス カード、リワード(ポイントプログラム)を進化させ、キャッシュレスを加速させる」と提携の狙いを説明する。

スタバにとって世界初の試み

 具体策として、LINE上で利用できるプリペイドカード「LINE スターバックス カード」の提供を始めた。LINE上でバーチャルなスターバックス カードを取得できるサービスだ。チャージ(入金)することで、スターバックス店頭で商品購入時の支払いに使ったり、スターバックス カードでの支払い50円(税別)ごとにポイントをためたりできる。チャージは、LINEのスマホ決済サービス「LINE Pay」とスターバックス店頭でのバーコード読み取りにのみ対応する。スターバックスコーヒーは、20年度中に全店にLINE Payを導入する計画だ。

「LINE スターバックス カード」は数回タップするだけで簡単にバーチャルカードを取得できる
「LINE スターバックス カード」は数回タップするだけで簡単にバーチャルカードを取得できる

 「毎月7900万人が利用するLINEにスターバックス カードを載せることで、新たな顧客層を会員として獲得していく」と濱野氏は言う。スターバックスが自社以外のプラットフォームで、スターバックス カードを展開するのは世界初。スターバックス カードの利用者は拡大していたが、さらにアクセルを踏みキャッシュレス化を加速させるための手段として、異例とも言える取り組みを決断した。

LINEで実現する2つの利便性

 スターバックスはLINE上でスターバックス カードを使用可能にすることで、2つの利便性を提供する。1つはカード利用開始の簡易化だ。スマホでスターバックス カードを使うには、専用のアプリをインストールしてID、パスワード、個人情報を登録することが必須のため、登録のハードルが高かった。LINE スターバックス カードはそうした情報の登録を一切不要にした。LINE上にある「ウォレット」タブをタップし、「マイカード」メニューからスターバックス カードを選んで取得するだけ。すぐに使えるようになる。

 「テスト的にモニターに使ってもらったところ、ITリテラシーが低い人にとっても利用のハードルが下がった」(濱野氏)という調査結果も出ており、利用開始の簡易化で新規利用者の拡大が期待できるという。

 LINEとの取り組みで、カードの取得から利用までのハードルを大きく下げる一方で、スターバックスが会員獲得を諦めるわけではない。LINE スターバックス カード会員は、利用時は準会員という扱い。準会員の状態でも支払いやポイントの取得はできるが、ためたポイントをドリンクが無料になるクーポンなどには換えられない。クーポンの取得にはスターバックス会員への登録が必要になる。

 つまりLINEとの提携でカード利用のハードルを下げて、まずは使ってもらう。カードを使う中で、徐々にブランドへの忠誠度を高めて、クーポン取得の段階で会員登録につなげる。会員登録をステップ式に切り替えることで、優良顧客の育成に取り組もうというわけだ。

モバイル注文も19年上期に開始予定

 もう1つの利便性は顧客に適した情報発信。スターバックスはLINEとの提携を機に、LINE上に公式アカウントを開設した。LINE スターバックス カードを取得すると、自動的にこの公式アカウントにも登録される。今年度中には購買データをAI(人工知能)が解析して、顧客ごとに適した情報を届ける1to1マーケティングの実施を予定している。

スターバックスがLINE上に開設した公式アカウント
スターバックスがLINE上に開設した公式アカウント

 この実現に向けて、LINE スターバックス カード利用者の購買データもスターバックス側で取得できるシステムを構築した。1to1マーケティングでは「店でバリスタが接しているような、ぬくもりが感じられるコミュニケーションをLINEの公式アカウントでも実現する」(濱野氏)。AIの開発にも技術力の高いLINEの手を借りる。

スターバックスはLINE上にキャッシュレスとコミュニケーションの2つの基盤を構築し、既存のアプリと連携させて、顧客接点を強化する
スターバックスはLINE上にキャッシュレスとコミュニケーションの2つの基盤を構築し、既存のアプリと連携させて、顧客接点を強化する

 さらに、キャッシュレス化推進策の第2弾として、19年上期に自社スマホアプリで事前に注文して、店舗で受け取れるモバイル注文の展開も予定している。

 日本でも混雑時は、スターバックスの店舗レジ前には長蛇の列ができる。スマホで事前に注文できるモバイル注文は、待ち時間の短縮につながる。また、スターバックスは多様なトッピングを用意しているものの、不慣れな顧客は注文するのに心理的な障壁がある。アプリなら他人を気にすることなく、自分の好きなようにカスタマイズして注文できるため、顧客単価の向上も期待できる。一部の飲食店でも広がりつつある取り組みに、スターバックスもようやく着手する。

 先行する米国のスターバックスでは、18年第1四半期にモバイル注文は売り上げ全体の11%を占める規模にまで拡大している。「国内はリワードの展開などが遅れていたため、その基盤の整備に取り組んできた。リワード会員も330万人の規模になったタイミングで、国内でも(モバイル注文の)展開に踏み切ることを決めた」と濱野氏は言う。このモバイル注文の対応店舗が広がり利用が定着すれば、スターバックスのキャッシュレス化が一層進みそうだ。

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