「無印良品」を展開する良品計画が東京・銀座にホテルを開業した。「MUJI HOTEL」の出店は国内で初。客室では、自社の家電やインテリアなどを置くほか、照明などをタブレットで操作できるシステムを導入し、一歩先を行く暮らしを提案する。ホテル向けに開発したバスタブとシンクの商品化も進める。

客室数は79室でセミダブルやツインなど9種類を用意。宿泊料金は1万4900~5万5900円(税、サービス料込み)。写真は部屋数が44と最も多い客室(TYPE C)。間口の狭い部屋を広く見せるため、壁掛けテレビを箱で覆うなどの工夫を施している。室内で使われているフロアライト、Bluetooth対応の壁掛けスピーカー、時計、アロマディフューザー、グラス、ドライヤーなどはホテルの下にある店舗「無印良品 銀座」で購入できる
客室数は79室でセミダブルやツインなど9種類を用意。宿泊料金は1万4900~5万5900円(税、サービス料込み)。写真は部屋数が44と最も多い客室(TYPE C)。間口の狭い部屋を広く見せるため、壁掛けテレビを箱で覆うなどの工夫を施している。室内で使われているフロアライト、Bluetooth対応の壁掛けスピーカー、時計、アロマディフューザー、グラス、ドライヤーなどはホテルの下にある店舗「無印良品 銀座」で購入できる

 「無印良品」ブランドを展開する良品計画は2019年4月4日、東京・銀座にホテル「MUJI HOTEL GINZA」をオープンした。同社のホテルは、中国の深セン、北京に次ぐ3店目。

 読売新聞東京本社と三井不動産が銀座3丁目に開発した複合ビルの地下1階から6階に世界旗艦店「無印良品 銀座」が、6~10階にホテルが入る。客室は全79。良品計画がコンセプトと内装監修を担当し、建築設計とホテル運営を手掛けるUDS(東京・渋谷)が、北京のホテルに続いて企画・内装設計を手掛け、同ホテルを運営する。

 良品計画の松﨑曉社長は、「アンチゴージャス、アンチチープがホテルのコンセプト。日常生活の延長で過ごせるホテルを実現した」と話す。(関連記事「MUJI HOTELを設計・運営、リノベーション時代の生き残り戦略」、「ホテルだけじゃない 良品計画が道の駅やコワーキング空間を展開」「無印良品の新旗艦店、見どころは『青果売り場』や『弁当販売』」)

 良品計画は、MUJI HOTELを店舗に併設することで、店舗の売り上げ増を狙うと同時に、新商品開発に活用する。

 例えば、フロアライトやBluetooth対応の壁掛けスピーカーといった家電やアメニティーなど、客室に自社商品を多く使用している。宿泊客にこれらの商品の良さを実感させることで、そのままホテル下の店舗での購入に誘導できる。実際、深センと北京のMUJI HOTELでも同様の形態を採用しており、併設する店舗の売り上げは好調に推移しているという。「先行する2店のホテルよりも、備品として無印良品の商品を多く使っており、現時点でのMUJI HOTELの完成形になった」と松﨑社長は期待を込める。

 良品計画のこうした狙いを実現するには、ホテルのデザインから接客まで一貫して無印良品らしさを表現する必要がある。UDSの梶原文生会長は、良品計画の金井政明会長と20年以上前からの知り合いで、以前から無印良品ブランドのホテルについての構想を聞かされていたという。同社は、8つの直営ホテルを含め、ホテル設計と運営の豊富な実績があることからMUJI HOTELを任されることになった。梶原会長は、「無印良品の思想を体現した、無印良品らしいホテルを実現することを第一に考えた。特に簡素でありながら、良質な内装にはそれが現れている」と説明する。

フロントの壁面には、かつて都内を走っていた路面電車の敷石を墨汁で着色したものを使っている。「街や生活の記憶を残したまま、再利用していくところも無印良品らしさの一つ」(UDS梶原会長)
フロントの壁面には、かつて都内を走っていた路面電車の敷石を墨汁で着色したものを使っている。「街や生活の記憶を残したまま、再利用していくところも無印良品らしさの一つ」(UDS梶原会長)

無印良品らしさは細部に宿る

 実際に客室を見ると、無印良品らしさが随所に表現されている。代表的な例が、バスルームだ。バスタブとシンクは、UDSが北京のMUJI HOTELに合わせて開発したものを銀座にも導入した。これらの素材には、人工大理石を使用しており、マットな質感に特徴がある。平面と角R(角の丸みの半径)で構成されたシンプルなデザインに無印良品らしさを感じる。

MUJI HOTEL用にUDSが開発したバスタブ(上)とシンク(下)。素材はマットな質感の人工大理石で、平面と角Rが印象的ないかにも無印良品らしいデザイン。商品化の準備を進めている
MUJI HOTEL用にUDSが開発したバスタブ(上)とシンク(下)。素材はマットな質感の人工大理石で、平面と角Rが印象的ないかにも無印良品らしいデザイン。商品化の準備を進めている

 UDSのCOMPATH(設計部門)ゼネラルマネージャーの伊東圭一氏は、「無印良品らしいバスタブを探したが見つからず、新たに開発することにした。平面やRの取り方は無印良品の商品デザインを参考にした」と説明する。このバスタブとシンクは、「良品計画のデザイン室と商品化の準備を進めている」(伊東氏)と言う。他にもサイドテーブルやベッドとしても使用できるソファなど、UDSがMUJI HOTEL用に開発した製品があり、これらが何らかの形で新商品に生かされる可能性がある。一方、良品計画は、客室のデザインを住宅やオフィスに応用したいというニーズがあることを想定し、インテリアなどの相談に応じるサービスも予定しているという。

UDSがMUJI HOTEL用に開発したベッドとしても使用できるソファとサイドテーブル
UDSがMUJI HOTEL用に開発したベッドとしても使用できるソファとサイドテーブル

 客室で備品類を無駄なく、美しく収納する工夫にも無印良品らしさが見て取れる。当初のビル計画では、店舗の上階はオフィスになる予定で建築が進んでいた。しかし、途中でホテルに用途変更したため、天井が通常のホテルの客室よりも高い。一方で、部屋数を確保するため、客室の間口が狭く、奥に長い設計になったことから、手狭に感じるという問題があった。伊東氏は、「少しでも部屋を広く感じられるように、設備を目立たなくしたり、備品を効率よく収納したりする工夫を施した」と話す。

ベッドサイドの照明を壁に埋め込んで目立たないようにしている
ベッドサイドの照明を壁に埋め込んで目立たないようにしている

 例えば、壁掛けテレビは、角度を変えられるアームで固定されているが、その上下左右をパネルで覆っている。そうすることで、テレビ本体やアーム部分、配線を見えなくしている。大型の機械類が壁にあると宿泊客に圧迫感を与える。こうした目立つ備品の存在感を小さくすることで室内を広く見せている。ベッドサイドの照明は、壁に埋め込み、使用するときにはパネルを開く。未使用時には壁に隠れるので、ベッド周りが広く見える効果がある。

 小物類の収納にも工夫がある。グラスやカップ、バスルームの歯ブラシなどを細かく仕切られた引き出しの中に、整頓している。これも多様な収納用品を販売する無印良品らしいアイデアと言える。

カップやグラスやアメニティーなどの小物類は引き出しの中に仕切りをつけて、きれいに収納できるようにしている
カップやグラスやアメニティーなどの小物類は引き出しの中に仕切りをつけて、きれいに収納できるようにしている

照明やエアコンをタブレットから操作

エアコンなどを操作するためのタブレットのインターフェース。シンプルなアイコンをUDSと日本デザインセンターが共同で開発した(写真提供/良品計画)
エアコンなどを操作するためのタブレットのインターフェース。シンプルなアイコンをUDSと日本デザインセンターが共同で開発した(写真提供/良品計画)

 銀座のMUJI HOTELで新たに導入した機能にタブレットを活用した操作システムがある。これは部屋に設置したタブレットによって、照明やエアコン、カーテンの開閉、アラームの設定を可能にしたもの。このタブレットに搭載したIP電話アプリ「Skype」でフロントと通話できるため、客室には通常の電話機を設置していない。

 将来的には、「このタブレットから無印良品の商品を注文できるサービスも検討している」(伊東氏)。銀座の旗艦店では、従来の無印良品の商品に加え、パンや弁当などの食品類も充実。これらの商品をタブレットから注文できて、短時間に届くようになれば、宿泊客にとっての利便性はさらに高まり、店舗の売り上げ増にも貢献する。

 伊東氏は、「MUJI HOTELでの暮らしは、従来のホテルとも、家とも違う。消費者のインサイト、つまり『求めていたのはこういう生活』と気付くような、新しいスタイルを実現している」と語る。良品計画が掲げる「感じ良いくらし」は、銀座の旗艦店とホテルの登場で、新しい段階に足を踏み入れたと言えそうだ。

UDS COMPATH(設計部門)ゼネラルマネージャー 伊東圭一氏
UDS COMPATH(設計部門)ゼネラルマネージャー 伊東圭一氏

(撮影/高山透)

■修正履歴
リード文のホテル運営に関する記述を修正しました。 [2019/04/12 16:00]