衛星放送事業のスカパーJSAT子会社で、顧客管理業務を行うスカパー・カスタマーリレーションズが、コールセンターサービスを外販することが明らかになった。同社はAI(人工知能)を生かした新世代コールセンターを整備。そのノウハウを生かし、2019年夏からAIコールセンターの導入支援事業を本格化する。

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 スカパー・カスタマーリレーションズが提供する支援事業は大きく2つ。1つは自社で構築したIT活用の新世代のコールセンター「スマートコンタクトセンター」と、同等の仕組みの構築を支援するコンサルティングサービスだ。

 矢野経済研究所が19年1月に発表した調査によれば、18年度のコンタクトセンター市場は前年度比1.8%増の4863億円となる予測だ。その後も堅調に伸び、20年度には4995億円になるとみる。EC事業者の増加や、メーカーによるネットを活用した直販強化、ソーシャルメディア経由も含めたマルチチャネルでの問い合わせ対応などが課題となりニーズが拡大している。

 技術の先端を行くAmazon.co.jpやメルカリですら、コールセンターを持つ。「デジタル技術が進んでも、顧客接点としてのコールセンターは必ず必要になる」(スカパー・カスタマーリレーションズの出水啓一朗社長)。デジタル技術の発展により、新たな産業が続々と生まれる中で、需要が拡大しているというわけだ。年間400万件に上る着信件数に対して、高い満足度で対応できるノウハウや仕組みを外販することで、コンタクトセンターソリューション市場で早期に頭角を表すことを狙う。

 スカパー・カスタマーリレーションズがITを活用したコールセンターのデジタルトランスフォーメーションに取り組んだ理由としては、人手不足による人件費の高騰、多様なコンテンツに対する問い合わせに対応できる品質の両面の担保が挙げられる。親会社のスカパーJSATが放送する番組は1万タイトル以上、そこに俳優やサッカー選手などのメタデータを加えると、問い合わせ対象は3~4倍になる。例えば、「特定の韓国の俳優が出演する番組は、何時から放送されるのか」といった問い合わせに対して、新人の従業員であっても速やかに回答できなければならない。

 市場とともに、消費者も変化し続けている。例えば、スマートフォンの普及によって、わざわざ問い合わせなくても自己解決できる手段が広がった。同時に「LINE」やチャットなど、新たなチャネルも拡大している。「(自己解決の)『セルフ』と(問い合わせの)『ノンセルフ』を融合させることが、さらなる生産性の向上では重要になった」と出水氏は言う。これを実現するための手段として、チャットボットやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などのIT活用の重要性が高まった。

IT活用で新世代コールセンター構築

 そこで、スカパー・カスタマーリレーションズはITを駆使した、次世代コールセンターの構築に取り掛かった。これをスマートコンタクトセンターと呼ぶ。フロントでは電話、メール、LINE、チャットなど、問い合わせを受ける窓口を広く持つ。その問い合わせ履歴を基に、WebサイトのFAQコーナーなどのコンテンツを充実させる。このサイクルによって、顧客自身による解決率を高め、問い合わせ件数の減少につなげる。「顧客はまず自分で調べて、それでも解決できない場合に問い合わせをしてくる。それをWebサイトに生かさないと、また同じ問い合わせにつながってしまう」(出水氏)。

電話、LINE、チャットなど複数のチャネルからの問い合わせに対応。その内容を自社サイトのFAQに生かす
電話、LINE、チャットなど複数のチャネルからの問い合わせに対応。その内容を自社サイトのFAQに生かす
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 次に、直接的な問い合わせの最初の受け口として活用するのがチャットボットだ。チャットボットも2段階で活用する。まずは、簡単な問い合わせであればルールベースで回答をする。その内容が複雑化した場合には、AIにバトンを渡す。それでも解決できない場合には有人対応へと切り替えて対応する。

AIで素人でもプロ並みの対応を可能に

 有人対応の生産性向上にも、AIをはじめとする先端技術を活用する。従業員がAIと協働することで問い合わせに返答する効率性を高めると同時に、専門知識を持たなくても、顧客からの問い合わせに高い精度で回答できる仕組みを整えた。具体的にはAIに俳優名やサッカー選手名、医療用語など、専門的な辞書を機械学習で学ばせる。問い合わせが寄せられると、音声を自動解析。関連する情報を、問い合わせ対応者のディスプレーに表示する。それを伝えるだけで的確に回答できる。「ベテランのノウハウをAIで活用して、新人に使わせる」(出水氏)仕組みで、対応の満足度を向上させる。このスマートコンタクトセンター開発のノウハウを生かし、コールセンターの改革が遅れる企業に対して、導入を支援する。

 とはいえ、スマートコンタクトセンターの設置は企業にとって、大きな投資判断になる。一足飛びに決断できない場合には、2つ目のサービスとして、スカパー・カスタマーリレーションズの保有する、スマートコンタクトセンターのブースを貸し出す。同社は北海道・札幌に設立したラボを持っている。スマートコンタクトセンターに必要な機能がすべて備わっており、そのラボでコールセンター業務を請け負う。ブース数は200席とそう多くはない。3~6カ月の運用後、既存のコールセンターと比較して効果を実感してもらい、本格的な体制構築を提案する。

 スマートコンタクトセンターの効果を実感してもらうには、既存のコールセンターと明確な効果の違いを提示する必要がある。その効果測定にもこれまでの経験が生きる。スカパー・カスタマーリレーションズではコールセンター業務を、さまざまなKPI(重要業績評価指標)で効果測定する。「応答率」や「レスポンスタイム」などを指標として設定する。

 それらの指標に基づいて、改善を重ねて効率性を追求していった。こうした考え方を、スマートコンタクトセンターを売り込む企業にも導入していく。「業務改善に必要なKPIの設定や、具体的な改善策まで手掛けられるのは実務経験のある当社の強みだ」と出水氏は説明する。これも、単なるコールセンター代行業者との差異化のポイントだという。

10分の会話をAIが自動で要約

 さらに今後は、問い合わせ内容のリポートを自動作成するパッケージ商品の提供も検討している。同社はAIベンチャーのレトリバ(東京・新宿)と共同で、電話の問い合わせ内容をAIによる言語処理で自動解析して、要約したり、内容で分類したりする仕組みを開発した。仮に顧客と10分間の会話があった場合に、AIが瞬時に雑談部分を省き、要約した上で、内容に応じて分類する。

 レトリバは自然言語処理の技術を有していたものの、「それをコンタクトセンター用にカスタマイズしなければニーズにそぐわない。実務に使える形で当社に実装した」(スカパー・カスタマーリレーションズの出水氏)。AIを活用したリポート作成を自動化するこの仕組みは、「パッケージ商品化できると考えている」と出水氏は説明する。

 従来、同社はスカパーJSATのコールセンターの受託企業にすぎなかった。「コールセンターは一般的にコストセンターとされている。一方で、プロフィットセンター化するのは、企業として当たり前。外販で収益を上げられるようになる」とスカパー・カスタマーリレーションズの出水氏は狙いを説明する。

スカパー・カスタマーリレーションズの出水啓一朗社長
スカパー・カスタマーリレーションズの出水啓一朗社長
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 スカパー・カスタマーリレーションズのコールセンターの支援事業への参入は、「超」が付くほどの後発といっても差し支えないだろう。トランスコスモスやベルシステム24など、強豪プレーヤーの多い成熟市場となっている。もっとも、勝機がないわけがない。既存のコールセンターを受託する企業との最大の違いは「モジュラー・プロデューサー」という考え方だ。

 企業のニーズに応じて、必要な機能は異なる。オムニチャネル化が課題なのか、あるいは専門知識を有する問い合わせ対応が課題なのか。そういった課題に対してチャネル、クラウドサービス、チャットボット、AIによる有人対応の支援といった各機能をモジュールと捉えて、必要な機能の最適な組み合わせを提案する。それがモジュラー・プロデューサーの役割だ。自社で最適なシステムを組み上げた経験が生きる。ITの活用によって、コールセンターのデジタルトランスフォーメーションに成功したスカパー・カスタマーリレーションズ。その経験を外販するといった動きは、今後、他業界でも現れそうだ。

(写真/山田愼二)