売り上げに貢献したテレビCMや動画広告が視聴者に与える感情の変化や、注視度を脳波で分析して、クリエイティブを評価し、次のクリエイティブ制作に生かす。そんなサービスを2019年3月27日に始めるのが、マーケティング支援会社サイカ(東京・千代田)だ。米国発の脳波ベンチャー Spark Neuro Japan(東京・渋谷)との提携によって提供可能にした。
サイカが提供するマーケティングデータ分析ツール「XICA magellan(サイカマゼラン)」は、売り上げデータや広告の配信データなどを取り込むことで、どのマーケティング施策が特に売り上げに貢献したかを分析し、適正な予算配分を提案してくれるツール。小売企業であればPOS(販売時点情報管理)データ、ECサイトの購買データ、テレビCMのGRP(述べ視聴率)や動画広告の視聴回数、ディスプレー広告のインプレッションの推移などをツールに取り込むことで、自動的に分析されて、売り上げ貢献度の高い施策が分かる。その分析結果から、最適な予算配分が提案されるため、次の広告施策の参考になる。効果測定がしづらかったテレビCMや、屋外広告といったオフラインでの施策の分析に、導入する企業が多い。
とはいえ、導入企業だけで分析までこなすのはハードルが高い。そこでサイカがデータのリポーティングや分析結果から、マーケティング施策のアドバイスといったコンサルティングサービスを提供している。ただし、広告予算適正化については提案はできても、クリエイティブの最適化までは提案できていなかった。今回の提携はここを補うのが目的だ。「これまで、俳優を使った方がいい、機能訴求をすべきだといった点はすべて仮説だった。売り上げとの相関性だけでなく、効果の有無でクリエイティブ比較をして特徴的な差分が導き出せれば、次にクリエイティブ制作をする示唆になる」とサイカの平尾喜昭社長は説明する。その評価に脳波を使う点で、従来のクリエイティブ評価とは手法が大きく異なるのが特徴だ。
「注目度」と「感情の起伏」を分析
提携相手である Spark Neuro Japanは、視聴者の脳波から動画素材のシーンごとに「注目度」と「感情の起伏」、2つの変化を分析する技術を持つ。脳波を使う利点は「バイアスがかからないことだ」と、Spark Neuro Japanセールズ&マーケティングデイレクターの林恵一氏は言う。
林氏は以前、外資系自動車メーカーでマーケティング責任者を務めていた。その経験から、グループインタビューやネットを通じた調査は他者の意見に影響されたり、回答する環境で左右されたりといったバイアスがかかり、「常に信用していいものか分からなかった」(林氏)と、当時を振り返る。身体データである脳波で効果測定することで、極力バイアスのかからない効果測定ができるようになるという。
調査では被験者を集め、動画素材を閲覧してもらう。被験者には、16個のセンサーがついたヘッドセットを装着してもらう。このセンサーが脳波の動きを感知する。「瞬きやつばを飲み込むだけでも脳波は反応するが、そうしたノイズを除去して、純粋に動画の視聴による脳波の変化だけを分析できる」(林氏)技術を開発した。
脳波からは、動画のどのシーンを注目して閲覧したかを分析する他、感情がポジティブとネガティブ、どちらに働いたかも分析する。単純な分析ではある。「人間の感情は複雑だが、プラスとマイナスの差異を取るだけでも、十分コンサルティングに使える」と林氏は説明する。
こうした分析結果を用いて、最も注目度が高まるシーンに企業ロゴや製品名など、認知を取りたい要素を加えるなど、クリエイティブの改善に活用できる。 Spark Neuro Japanは過去に、ある自動車メーカーのテレビCMを分析したことがある。京都の町並みをさっそうと走るクリエイティブだったが、多くの視聴者は京都の町並みを自動車が走ったCMだったと認識はしていたが、メーカーや車種は覚えていなかったという。
この場合、テレビCM自体は印象に残りやすかった。後は注目度が高まるポイントで、製品名などを打ち出せば改善できる可能性がある。このように、「CMはクリエイター主導で制作されるケースが多く、映像表現は主観的だった。データで証明することで、ヒットの確率を上げられるはずだ」(林氏)。
また、テレビCMを再編集して短尺動画などに活用する際には、脳波の分析から男性の注目度が高まる点を切り出して、ターゲットを絞って配信する活用法もある。
調査は30~60人の被験者を集めて脳波を集める。「40代以上の富裕層」といった特定の層だけを被験者として集める場合、調査会社と共同で被験者のリクルーティングを行う。リポートまでトータルで1カ月程度を要するという。価格は集める被験者の数などで前後するが、数百万円程度となる。