2019年春の流通業のデジタル関連機構改革では、成長が続くEC市場への対応、店舗運営の効率化を支えるデジタル化、顧客関係の強化を図る組織の新設、強化が目立った。イオン、パルコ、伊藤忠商事などの取り組みを紹介する。
企業の組織の新設、改称、統合は、各社の戦略をいち早く知り、その進捗をうかがい知る絶好の機会だ。特に多くの企業が力を入れるデジタル関連部門を中心に、19年春の機構改革動向を業界別に3回にわたって取り上げていく。今回は流通業界だ。記事最後には延べ12社のリストを一覧にした。
イオンは19年3月1日付で、ディベロッパー事業担当兼デジタル事業担当の下に、ネット事業担当とICT事業担当を新設した。ECプラットフォームの構築、データマーケティング、リアル店舗のデジタリゼーションなど、デジタルシフトの中でさまざまな成長機会があるため、それぞれの推進スピードを上げるべく、ネット事業とICT事業の担当を設置した。相乗効果を生むとともに、デジタルシフトを加速度的に推進する。
デジタル事業担当に選任された吉田昭夫代表執行役副社長は、ディベロッパー事業担当との兼務によりEコマースビジネスの強化に加え、イオンが保有する店舗、商品、インフラなどの強みと融合させることで、顧客の利便性を高め、イオン独自のビジネスプラットフォームを構築する。
イオンが17年12月に発表した中期経営計画の実行スピードを加速するため、グループCEO下に新たに吉田氏を含む3人の代表執行役副社長事業担当を配置した。この権限移譲によって、中期経営計画で変革の方向性として掲げた「デジタルシフト」「アジアシフト」「リージョナルシフト」と、それらを支える「投資シフト」を進めていく。デジタルシフトではグループ売上高に占めるデジタル比率を、16年の0.7%から20年には12%まで一気に上げることを目標としている。
パルコ、顧客政策の強化へ人員1.5倍増
パルコは19年3月1日付で、グループICT戦略室をグループデジタル推進室に改称した。在籍人数は従来の組織から、およそ10人増員の約30人となる。「18年度までに策定した戦略構想を基に、グループ各社のデジタルトランスフォーメーションを具体的に推し進める意図で改称した」(パルコ)。
同社は中期経営計画で、「ICT活用による顧客政策進化」の強化を掲げる。オフラインとオンラインの購買データを統合し、そのデータを基に店頭接客、チャットやECをはじめとするWeb接客体験の向上、そして顧客満足度の向上を狙う。こうした戦略をより具体策として実行に移すのが、新たな組織の役割だ。
具体策の1つが、19年秋のハウスカード会員向けサービスの変更。現在はカード決済で購入額から5%を割り引くが、購入金額108円ごとにたまるポイント制度とする。カード情報を、パルコのスマートフォン向けアプリ「POCKET PARCO」に登録することで、さらに1ポイント上乗せする。カード情報とアプリの利用データをひも付けて管理するのが狙いとみられる。
さらに今後、CRM(顧客関係管理)システム基盤の刷新なども予定しており、「グループ各社事業のCRM担当との連携を密にし、戦略的な情報収集分析を行う機能を強化した」(パルコ)。
伊藤忠商事はCDOを新設
伊藤忠商事は19年4月1日、CDO(最高デジタル責任者)を新設し、CIO(最高情報責任者)と兼務するCDO・CIOを置いた。同職にはポータルサイトのエキサイトの社長経験もある野田俊介氏が就任した。 CDO・CIO管下にビジネス開発・推進部、IT企画部を置き、さらに次世代ビジネス推進室を新設した。
伊藤忠は中期経営計画「Brand-new Deal 2020」のなかで、すべてのカンパニーによる新技術を活用してビジネスモデルを進化させる「商いの次世代化」を基本方針の1つに掲げる。ユニー・ファミリーマートホールディングスを起点とした生活消費分野のバリューチェーンの価値向上、次世代モビリティ社会などを見据えた新技術によるビジネスモデルの進化を目指している。
延べ12社のデジタル関連機構改革 一覧表

●2019春・デジタル機構改革 記事一覧
・デジタル機構改革 パルコは人員1.5倍、伊藤忠はCDO新設[流通編]
・デジタル機構改革 日清は直販強化、ミツカンは戦略本部[製造編]
・ANAの新事業「アバター」とは何か デジタル機構改革19社まとめ
(サービス編)