ソニークリエイティブセンターは、プロダクトやグラフィックのデザインに加え、ユーザーインターフェースやユーザーエクスペリエンスなど、ソニーのデザインすべてを手掛ける。ソニーがビジョンとして掲げる「人に近づく」「感動」をどう実現するのか。同センター長の長谷川豊氏に聞いた。
クリエイティブセンターの役割は?
ソニーのコア技術には、オーディオビジュアルやイメージング、センシング、AI(人工知能)、ロボティクスがあります。こうした技術をそしゃくし、どう編集するかが我々のデザインのアプローチ。ディープラーニング(深層学習)にしても、最終的にユーザーに届けるにはエモーショナルな価値の提供が不可欠です。これまではスタイリングから考えることが多かったのですが、これからは技術をいかにユーザーエクスペリエンスに変換するかが我々が担う役割です。
手掛けるデザイン領域の変化は?
以前はプロダクトデザインを終え、商品が発売された時点でクリエイティブセンターの手を離れていましたが、コミュニケーションデザイン領域の重みは増すばかり。例えば、「aibo」ユーザーのコミュニティーイベントの会場デザインを手掛けるなど、ユーザーとの接点づくりをクリエイティブセンターが継続的にサポートしています。コミュニケーションデザイナーに加えて、デザインとテクノロジーをつなぐ「デザインテクノロジスト」といった人材も増えています。
体験価値に着目した取り組みは?
継続的にミラノデザインウィークやSXSW(サウス バイ サウスウエスト)などのイベントに出展していますが、2018年のミラノデザインウィークでは、イメージングやセンシングの技術を用いた当社の展示「Hidden Senses」に2万5000人が訪れました。重視したのは、具体的な仮説提案の場とすること。つまり、展示品がリアルタイムに動くことです。
あくまで展示品と割り切って、バックヤードのパソコンで動かすこともできましたが、それでは体験価値の創出に役立つフィードバックを得られません。自律して体験を提供する展示品を通じて仮説提案をし、来場者の反応を見たり、コメントをもらったりすることに重きを置いたのが新たな挑戦でした。ミラノデザインウィークでは幅広い年齢層の方々に意見をもらう機会にも恵まれ、協業などの相談も寄せられています。
18年9月に東京の銀座ソニーパークで、「HIDDEN SENSES AT PARK」として展示した際には、それぞれ数人の学生や子供といったグループに体験してもらい、ヒアリングを行いました。銀座ソニーパークでは、ミラノサローネに比べてターゲットを広く取れることが価値。当初からエンジニアと協業したことで、こうしたフィードバックをエンジニアと共有し、リアリティーをもって次のフェーズに進めたのもメリットでした。
今、求めるデザイナー像は?
デザイナーは究極的には、ユーザーを代弁できる人。だからこそ、ユーザーに対して価値を提供できる。プロダクトやグラフィックはクラシカルデザインともいわれますが、そこでの質は絶対です。レッド・ドット・デザイン賞やiFデザイン賞の特別賞は常に獲っていきます。そこにインタラクションの価値を付加し、さらなる価値をもたらすことが我々のデザイナーの役割です。
「高輪ゲートウェイ」駅近くに設置したソニーの新デザイン拠点
19年2月、ソニークリエイティブセンターは東京・田町駅付近のオフィスビルのワンフロアに、サテライトオフィスをオープンした。開設の理由は、中国東方航空の新社屋内のブランドショールームの全体コンセプトや空間デザインなどの包括的なソリューション提案や、カーネギーメロン大学との共同研究開発プロジェクトなど、グループ外の組織と協業する取り組みが近年増えてきたこと。新オフィスは、エリアごとにアクセス権を設定し、社外の人々が立ち入れるスペースを大きく確保したのが特徴だ。
新オフィスに求める機能については、社外のさまざまなオフィスに足を運んでリサーチ。多くの気づきを反映し、「出会いの場」をコンセプトにした。
余白のような空間を設けた
内装設計は、コンセプトに基づき、建築設計事務所のサクマエシマが担当。中央に大きな空間を設け、その周辺に会議などに使うブースを複数、設けることで、人と人の出会いの創出を狙っている。クローズドなエリアには半透明のパーテーションを用いるなど、オープンとクローズドの中間の余白のような空間を設けたのも、出会いや会話の創出を意識した工夫だ。天井を抜き、壁面に建築の下地に使用する木毛セメント板という素材を用いるなど、既存のオフィスとは雰囲気を大きく変えている。
同センターの兵庫邦典氏は、「1つの空間でありながら、居室を不規則に配置することで、それぞれの隙間から差し込む光や見える風景が場所ごとに異なるのもポイント。エントランスにはプロジェクションを用いた映像演出を設置した」と語る。
この場所を選んだのは、品川の本社ビルにあるクリエイティブセンターからの「適切な距離感」を求めて。同センターの山内文子氏は、「本社から離れ過ぎると、組織としての一体感が薄れてしまうと考えた」と語る。開業予定の「高輪ゲートウェイ」からも近く、今後数年にわたり、新しい街の発展を体感できるのも魅力という。
(写真提供/ソニー)