参入企業が多く、競争も激しい電子コミック市場で、フィーチャーフォン時代からトップを走るのがアムタス(東京・渋谷)が運営する「めちゃコミック」だ。2018年度は過去最高の売上高を記録した。好調の秘密は何か。電子コミック市場ならではのヒットの生み方とは。アムタスの黒田淳社長に聞いた。

「めちゃコミック」は、『キングダム』『ワンピース』『ピアノの森』『花より男子』などの有名作品からネットのみで配信している作品まである
「めちゃコミック」は、『キングダム』『ワンピース』『ピアノの森』『花より男子』などの有名作品からネットのみで配信している作品まである

 めちゃコミックは、情報システム構築などを手掛けるインフォコムの全額出資子会社アムタス(東京・渋谷)が運営する電子コミックサイトだ。フィーチャーフォン時代にサービスを開始し、「LINEマンガ」(LINE)、「ピッコマ」(カカオジャパン)などアプリを使った電子コミックサービスが台頭した現在も、ウェブブラウザーベースでサービスを提供している。

 そのめちゃコミックの業績が好調だ。17年度の売上高は、海賊版サイトの影響を受けながらも前年度比12.4%増の202.3億円、18年度は同25.5%増の254.0億円になる見通しだ。

男性向けでも女性に売れる? 意外な漫画がヒット

 競合が多い電子コミック市場において、めちゃコミックの立ち位置は、「暇つぶし用コンテンツの1つ」と黒田社長。読者は約8割が女性で、20代後半から30代のあまり漫画を読まないライト層が中心だ。「電子コミックを“巻”単位で販売するサイトも多いが、めちゃコミックは“話”単位。ふらっと来て読める手軽さが、家事の合間や寝る前にちょっと読むのにちょうどいい」と話す。

 そうした会員がめちゃコミックを利用するきっかけは、ほとんどがバナー広告だ。他のサイトで目に付いたバナーからめちゃコミックに飛んでくる。そこで期間限定あるいは話数限定で無料公開されている漫画を試し、会員として定着するパターンだ。『キングダム』『ワンピース』『花より男子』といった有名作品から、ネットのみで配信しているニッチな作品まで、取り扱うジャンルは幅広いが、「会員の多くは、読みたい漫画があらかじめ決まっているわけではない。雑誌やコミックを購入する従来の漫画読者とは明らかに違う」と黒田社長。

会員を誘導するために、バナー広告には一目で興味を引くインパクトのあるコマを採用するという (C)たちばな梓/アムコミ
会員を誘導するために、バナー広告には一目で興味を引くインパクトのあるコマを採用するという (C)たちばな梓/アムコミ

 だからこそ、どの漫画をどこまで無料で公開するか、バナーでどの漫画を推し、その中のどのコマを表示させるかは重要だ。「そこは社内の“目利き”の腕の見せどころ」(黒田社長)。コミックを山ほど読んでいる社員が「めちゃコミックの会員に好かれそう」と判断した作品や作家をピックアップ。バナーで表示するコマも選ぶ。コマはインパクトが大事だが、それだけでは読者に継続して読んでもらえないという。

 無理なく継続させる工夫も不可欠。購読履歴や行動履歴はリアルタイムで集計。作品のリコメンドに生かしたり、退会の予兆がある会員にはポイントを配ったりしてつなぎとめる。「クリックされやすいボタンの大きさや色を試すABテストは、毎日やっている」(黒田社長)。会員別に複数パターンを出し分け、効果が高いほうを随時採用するという。

 これらの仕掛けは、従来の漫画市場とはある種、異なるヒットも生み出した。その例が集英社から刊行されている『金魚妻』(黒澤R著)だ。同作品は、もともと男性向け漫画誌「グランドジャンプ」で連載されていた漫画。だが、作者の黒澤R氏の漫画がめちゃコミックでも好評だったこと、不倫というテーマが女性にも受けそうなことに目を付けて、女性読者が大半を占めるめちゃコミックに掲載。バナー広告を使ってアピールしたところ、人気に火が付き、紙&電子累計で140万部を突破した。「男性向けに描いていた作品が女性に売れたということで、作者や出版社も驚いたらしい」と黒田社長は笑う。

「めちゃコミック」の2018年年間ランキング。一般書店の漫画ランキングとは顔ぶれが全く違う。『天は赤い河のほとり』(1995年から2002年まで連載)のように、電子コミックでは過去の作品の人気が再燃するケースも多い
「めちゃコミック」の2018年年間ランキング。一般書店の漫画ランキングとは顔ぶれが全く違う。『天は赤い河のほとり』(1995年から2002年まで連載)のように、電子コミックでは過去の作品の人気が再燃するケースも多い

出版社とコラボで紙の雑誌を創刊

 こうした実績を基に、近年では出版社との協力関係も密になっている。その一つが、独占先行配信作品の拡充だ。

 「独占先行はもともと、他社よりも新作投入が遅れがちなめちゃコミックの弱点を克服するために始めた」と黒田社長は明かす。電子コミックには、ページ単位で画面に表示する「版面形式」とコマごとに表示する「コマビュー形式」がある。いち早い新作投入に有利なのは前者。漫画がコミック化されたら、そのページをそのまま電子化すればいいからだ。一方、コマビュー形式は、電子化されたコミックをコマごとにばらす分、時間がかかってしまう。

コマビュー形式では1コマずつ表示、タップで左右に、もしくはスクロールで縦方向にコマを送って読む。端末の性能や通信速度が低かったフィーチャーフォン時代の名残だが、縦スクロールが定着したスマートフォンではむしろ読みやすいと、漫画ライト層に好評 (C)たちばな梓/アムコミ
コマビュー形式では1コマずつ表示、タップで左右に、もしくはスクロールで縦方向にコマを送って読む。端末の性能や通信速度が低かったフィーチャーフォン時代の名残だが、縦スクロールが定着したスマートフォンではむしろ読みやすいと、漫画ライト層に好評 (C)たちばな梓/アムコミ

 このタイムラグをなくすため、アムタスは連載開始前後から出版社と交渉。独占先行作品は、コミック化よりも先に配信を始めている。

 これは出版社にとっても利があった。雑誌掲載からコミックになるまでの空白期間にも配信で利益を上げられるうえ、ヒットすれば、コミック発売の前宣伝にもなるからだ。めちゃコミックでの反応をコミック刷り部数の参考にもできる。「最近は『めちゃコミックで1位を取ったと帯に入れてもいいか』と聞いてくる出版社もある」(黒田社長)。

 独占先行の取り組みは、出版社とコラボした紙雑誌の発行にも発展した。18年12月には双葉社が「めちゃコミックfufu」を、18年11月には集英社が「グランドジャンプ増刊 グランドジャンプめちゃ」を、19年2月にはハーパーコリンズ・ジャパンが「増刊ハーレクイン めちゃコミック号」を創刊している。

左から「めちゃコミックfufu」「グランドジャンプ増刊 グランドジャンプめちゃ」「増刊ハーレクイン めちゃコミック号」
左から「めちゃコミックfufu」「グランドジャンプ増刊 グランドジャンプめちゃ」「増刊ハーレクイン めちゃコミック号」

 紙の雑誌を創刊した狙いは、3誌それぞれに異なる。「めちゃコミックfufu」は、めちゃコミックの紙面化だ。人気作の番外編などを掲載し、ローソンで限定販売。各作品の続話をめちゃコミックで独占先行配信し、同サイトへの誘導を図った。

 「グランドジャンプめちゃ」は隔月刊誌で、前述の『金魚妻』などセクシー路線の人気作を、同誌発売と同時に独占先行配信する。こちらは、もともと男性に強いグランドジャンプと女性に強いめちゃコミックの連動で、男女共に販売を伸ばすのが狙いだ。

 最後の「増刊ハーレクイン めちゃコミック号」は、ハーパーコリンズ・ジャパンのロマンス小説「ハーレクイン」シリーズの創刊40周年を記念し、同シリーズの人気作をコミカライズした。同誌掲載と同時に配信している。

 共通するのは、表紙などでめちゃコミックとのコラボを押し出していることだ。「ブランドを使いたいと言われるようになったことは非常にうれしい」と黒田社長は顔をほころばせる。漫画誌の部数が減少する一方で、出版社にとっても電子コミックの存在感は増しているといえるだろう。

 今後は「読者データを分析し、電子コミックサイトならではのやり方でヒット作を作っていきたい」と黒田社長。ベースにあるのは“逆算”の考え方だ。会員の閲覧データなどを基に、人気が高い既存作のストーリーや画風、バナー広告に使用した際に会員誘導の効果が高かったコマなどを分析。これらを踏まえた漫画をオリジナルで作るという。

『RISKY~復讐は罪の味~』などオリジナル漫画にもヒット作が出てきた (C)たちばな梓/アムコミ
『RISKY~復讐は罪の味~』などオリジナル漫画にもヒット作が出てきた (C)たちばな梓/アムコミ

 独占先行配信中の『RISKY~復讐は罪の味~』(たちばな梓、アムコミ)で実践したところ、同作は18年の年間ランキングで2位に入るほど人気を集めた。「出版社は作家ありき。作家が書きたいと思う漫画を作る。それはそれでいい。めちゃコミックは出版社とは違うアプローチで、会員が読みたい漫画を作っていく」。黒田社長はそう意気込みを示した。

アムタスの黒田淳社長
アムタスの黒田淳社長
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