デザインを大きくリニューアルした大幸薬品の「クレベリン」が好調な売り上げを見せている。ウイルス除去関連製品の市場は、2018年第4四半期(10月から12月)で前年同期比9%の伸び(インテージ調べ)。そうしたなかで、同社のクレベリンの店頭販売は同17%増と市場の伸びを大きく上回る成長を記録した。

大幸薬品のクレベリン。左がリニューアル前、右がリニューアル後のパッケージ
大幸薬品のクレベリン。左がリニューアル前、右がリニューアル後のパッケージ

 一部店舗では品切れも起こるなど、予想を超える売れ行きとなっているという。大幸薬品の中澤健一郎マーケティング本部感染管理マーケティング部マネージャーによれば、好調の要因はブランドロゴからパッケージまでのデザインを一新したことで、ドラッグストアで大きな陳列スペースを取れるようになったため。そしてロフトやハンズのような、これまでは参入ハードルが高かったチャネルにも扱ってもらえるようになったためだ。

大幸薬品の中澤健一郎マーケティング本部感染管理マーケティング部マネージャー(写真/谷本 夏)
大幸薬品の中澤健一郎マーケティング本部感染管理マーケティング部マネージャー(写真/谷本 夏)

 ドラッグストア以外にもチャネルが広がったのはなぜか。今回のクレベリンのリニューアルによって、機能のみを訴えた「衛生品」という位置づけの商品から、人々が健康・快適に暮らすための必需品という「生活の道具」へと消費者の認識が変わったためではないかと、中澤マネージャーは分析する。

 例えば、その1つが、インテリア用品として、どこにでも置けるようなシンプルなボトルだ。「C」の文字がウイルスを食べているような様子を想起させる新しいロゴマークをデザインし、ボトルはこのマークだけを表示した真っ白なデザインにした。「今回のブランド刷新に当たって、ユーザーの家庭訪問調査を実施した。その結果、写真立ての真後ろにボトルを置くなど、家の中で目に入らないよう隠して使う人が多いことが分かった」(中澤マネージャー)ことを受けてのデザインだ。

すべての容器を白で統一し、中央にロゴマークを置くだけのデザインとした
すべての容器を白で統一し、中央にロゴマークを置くだけのデザインとした

徹底して「分かりやすさ」を重視

 商品を隠して置くと、消費者はその存在を忘れてしまう。この状態だと、商品を使用しているという実感が湧きにくく、ブランドに対するロイヤルティーが育ちにくい。さらに、ユーザーは使用期限を過ぎてもずっと置き続け、買い替えをなかなかしてくれないという問題も抱えていた。

 リニューアル後のシンプルでインテリアにも溶け込むボトルは、わざわざ隠す必要がない。中澤マネージャーは「センスのよいインテリアの写真を共有するSNSを見ると、新しいクレベリンが映り込んでいる部屋の写真を見かけるようになった。明らかにその印象が変わってきている」と、隠す商品から見せる商品へと様変わりしたことを実感する。買い替え需要の増加を検証できるのはこれからだが、少なくとも、忘れ去られやすい存在から脱却したことは確かなようだ。

別売りの容器カバーを新たにデザイン
別売りの容器カバーを新たにデザイン
取り替え時期が分かる目印を付けた。だるまのような形状で、カバーに絵を描いて自由にカスタマイズできる
取り替え時期が分かる目印を付けた。だるまのような形状で、カバーに絵を描いて自由にカスタマイズできる

 現状、デザインの効果は、店頭でのタッチポイントとなるパッケージをリニューアルしたことによるところが大きい。まず、クレベリンの商品名表記をローマ字からカタカナに変更。さらに、パッケージに記載する情報については、商品ブランド名をパッケージ上部の一番目立つ部分に置いた。次に、置き型なのかスティックなのかなどの商品分類、機能の説明、容量や個数、最後に企業名というように、商品を購入する際に消費者が必要とする情報の重要度順に上から並べ、情報を整理した。二酸化塩素の拡散をイメージさせる円模様など効能感を感じさせるような工夫も凝らし「徹底して『分かりやすさ』を重視するパッケージに作り替えた」(デザインを手掛けたnendoの佐藤オオキ氏)。

nendo 佐藤オオキ氏(写真/丸毛 透)
nendo 佐藤オオキ氏(写真/丸毛 透)

 また、清潔な青の印象を浸透させるため、これまで付けていた同社のシンボルである赤いラッパのマークをパッケージから外している。同社の主力商品である正露丸ブランドを象徴する赤いラッパのマークは、これまでそのまま企業のロゴとして機能していた部分があった。しかし「今後の事業拡大を考えるに当たり、どのような製品にも正露丸をイメージさせるラッパのマークが適切なわけではない」と佐藤氏は提案。結果的に、このマークの位置づけをクレベリンのリニューアルを機に改め、正露丸ブランドだけに使うマークとして定義し直した。

箱は清潔感を感じさせる青で、分かりやすく情報を整理。置き型、スティック、スプレーなどの種類によって、箱の上ぶたの色を変えている
箱は清潔感を感じさせる青で、分かりやすく情報を整理。置き型、スティック、スプレーなどの種類によって、箱の上ぶたの色を変えている

 発売から10年がたち「およそ半数の方に知っていただいている」(中澤マネージャー)というクレベリンのブランドを、さらに成長させるために行ったデザインによる大手術は、大幸薬品の企業ブランディングの在り方まで見直す良いきっかけとなった。クレベリンだけではなく、同社は今後もさまざまな商品のブランド刷新を検討していく予定だという。

課題
ウイルス除去・除菌ブランドとして、さらなる飛躍を図りたい

提案
・パッケージの情報を整理して消費者の“戸惑い”をなくす
・機能性に特化した衛生用品ではなく、生活に必要な道具らしさを

(写真:Akihiro Yoshida)

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