経済産業省はデザイン経営を主導する「高度デザイン人材」の育成プロジェクトを推進中だ。研究会を発足させ、2018年度はカリキュラムなどを討議。19年度から具体的に取り組む。ビジネスパーソンの新たな資格制度につながる可能性もある。
高度デザイン人材の育成は、経産省・特許庁が18年5月に発表した「『デザイン経営』宣言」で提言していた政策の1つ。新たな発想で事業課題を創造的に解決できる人材のことで、ビジネスやテクノロジー、デザインといった専門領域の垣根を越えたスキルの習得を目指す。
研究会は19年2月28日までに3回開催し、このほど概要が固まった。哲学やアートなども視野に入れたカリキュラムを想定しており、デザイン思考だけを学ぶものではない。デザイン経営といっても従来の経営コンサルティングとは異なるカリキュラムになりそうだ。19年度には研究会の内容をまとめた報告書やカリキュラムのガイドラインを発表したり、啓発に向けたイベントなどを開催したりする計画。今後の大学や企業の人材育成に役立つようにする。
デザイン経営を支える5つのスキル
研究会では、デザイン経営に関連したカリキュラムを備える欧米や日本の大学を調査して参考にした他、有識者にヒアリングを重ねた。調査対象に挙がったのは米イリノイ工科大学フィンランドのアールト大学、英ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの他、日本では九州大学、千葉工業大学など。デザイン経営では何が必要なのか、そのための人材はどんなスキルを持つべきかといった点を議論して、高度デザイン人材に対するイメージを固めた。その結果、デザイン経営を支える人材には「サービスデザイン」「デザインストラテジー」「ビジネスデザイン」「デザインマネジメント」「ビジョンデザイン」といった5つの方向性があることが分かってきた。
最も重要なのは1つ目の、サービスデザインだ。簡単に言えば「顧客体験を統合的にデザインするアプローチ」することであり、潜在する課題を見つけながら、感性も踏まえつつ、製品やサービスの実現につなげる。関係する企業間の利益も意識するなど、多くの知識が求められるという。 UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインの知見はもちろん、マーケティングやIoTに関するスキルも必要になる。幅広い視野で新規事業を開発したり、業務プロセスを改善したりできるようにする。例えば、エンジニアがデザインの視点を学んだり、逆にデザイナーがエンジニアリングを学んでスキルを身に付けたりする場合もある。いずれにせよ、サービスデザインを実行するには、あくまで顧客体験を起点に考えることが基本になる。
この他、デザインストラテジーとは、「ビジョンの構想からプロジェクトの遂行まで、企業戦略とデザイン戦略を合致させる」ようにすること。企業戦略をデザイン戦略で支援することも含まれる。ビジネスデザインとは、「デザインの戦略的価値を理解し、デザイナーのマインドとアントレプレナーシップの融合によって、社会的に価値がありビジネス的・商業的に成功する製品やサービスを開発し、市場に導入する能力やスキル」のこと。
デザインマネジメントとは「デザイン資源を戦略的に活用する経営手法」のこと。チームの中でリーダーシップを発揮できる人材、もしくはマネジメントできる人材の育成を推進する。ビジョンデザインとは「社会やテクノロジーのトレンドから未来の姿を提示し、問いを創造しながら未来の体験をプロトタイプして表現する」こと。このためには、社会的な視点を持ちながらも、従来の価値観や信念、考え方にとらわれることなく、さまざまな代替の可能性を提案できる人材が求められる。
これらの5つのスキルのカリキュラムをそれぞれ作るというより、まずはニーズが高いと思われるサービスデザインを中心に進めていくという。今後は新たな資格制度の設立に踏み込む可能性もありそうだ。デザイン経営に必要なスキルが明確になり、身に付ける人が増えれば、企業にとってブランディングやイノベーションを実現しやすくなるに違いない。