SMBC信託銀行が、リアルな支店との連携を強く打ち出す形で2018年7月にWebサイトを大幅リニューアルした結果、新規口座開設数が31%増、口座利用者のWebサイトへのログイン数が80%増となり、当初のもくろみ以上の成果を上げている。
現在のSMBC信託銀行は、三井住友銀行(SMBC)の傘下にあったSMBC信託銀行(旧ソシエテジェネラル信託銀行)に、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)が買収した米シティバンク(シティバンク銀行)の国内リテールバンク部門を2015年11月に統合して発足した。預金2兆4400億円とその顧客、それに32の支店を抱える旧シティバンク銀行の資産を引き継ぎ、新ブランド「PRESTIA(プレスティア)」を掲げてのスタートだった。
ところが、船出からしばらくすると、早くも課題が生じる。まず、既存・新規の両方で外国人の顧客が減り始めた。それに加え、新規顧客、特に若年層の獲得が難しくなってきた。それまでの「シティ」ブランドは顧客獲得に絶大な効果を発揮していたが、プレスティアにはそれだけの威光がなく、さらに「銀行名に“信託”が入ったため、若年層が、当面、自分と関係ない銀行とみなすようになった」(個人金融部門デジタル・バンキング部長の中野浩一氏)からだ。
システムの入れ替えを待ってWebサイトを刷新することに
そこでSMBC信託は、既存顧客の離脱を防ぎつつ、シティ時代とは異なる新規顧客の獲得を目指す。そのための武器として選んだのが「信託、不動産、外貨の3つ」(中野氏)だった。本来ならば、Webサイトにも、この方針が分かるように情報を掲載しなくてはならない。しかし、シティ時代の顧客に対するサービス維持のため、スタート時にはシティバンク銀行の基幹システムやWebシステムをそのまま活用したため、Webサイトの抜本的な刷新が難しかった。やむなく基幹システムなどの入れ替えが完了する2018年7月をターゲットに、Webサイトを大幅リニューアルすることにした。
時間をかけての大幅リニューアルとなるだけに、事前に考えられる課題は解決しておきたい。ではどのようにリニューアルしたのか──。
顧客の要望を丁寧に聞き取ってニーズに合わせた提案が必要になる「信託」と、扱う金額が大きくなる「不動産」を武器に掲げる以上、Web上ですべての取引を完結するのは難しい。顧客には、どうしても支店に来店して行員と話してもらう必要があった。つまり、Webサイトには、顧客に商品やサービスを紹介したり、顧客がログインして預金を確認したり、振り込んだりといった機能だけでなく、支店と連携して来店を誘致する機能が必要になる。そこで、相見積もりを取った複数の企業の中から、「提案の中に、Webサイトで集客して来店誘致へという視点が入っていた」(中野氏)というWebマーケティング支援のメンバーズを選び、2017年7月から、Webサイトの大幅リニューアルを共に進めることにした。
どのページにも「支店の場所」へ飛ぶアイコンを配置
まずはメンバーズからの提案で、新しいWebサイトにはどのページにも、タップすると「支店の場所」を示すページに飛ぶアイコンを配置するようにした。Webサイトの利用客が、実際に自分が訪問できる支店の場所を確認しようと思い立ったとき、ワンタップで見られるようにしたのだ。次いでメンバーズのスタッフが、SMBC信託銀行に事前連絡をしないまま、実際にSMBC信託銀行の支店を訪れ、行員が、どのような態度で、どのような商品やサービスを、どのように説明するかをチェック。その結果、「Webサイトですべての情報を説明する必要はない。Webサイトをきっかけに口座を開設した顧客が実際に支店に足を運べば、行員の説明で十分な理解とサプライズを与えられる」(メンバーズの担当者である川田学UXデザインユニット ストラテジーデザイナー)との結論に至った。
そうなるとWebサイトに最も求められるのは、訪問客の規模を増やし、そこから口座開設へつなげ、支店へ足を運んでもらうことになる。そこで、遅ればせながらWebサイトにレスポンシブル機能を搭載し、利用者がスマートフォンからアクセスしても、スマホ対応サイトとして見られるようにした。スマホを頻繁に利用する主に若い層の新規顧客を獲得し、口座開設後も、支店はもちろん、スマホ経由でWebサイトも利用してもらうためだ。
また、それまで商品やサービスの紹介を前面に出していたWebサイトの構成を改め、「今日の為替レート」や「今日のマーケットリポート」といった日々変わる金融情報をサイトのトップに掲げるようにした。自行のアナリストが特定の顧客にメールで送っているレポートの内容を、1日遅れで掲載するようにしたのだ。Webサイトの情報を毎日変えて、顧客がサイトを訪問するきっかけを増やし、併せて、「外貨に強いSMBC信託」をアピールすることも狙った。
さらに、商品やメニューの見せ方も、「殖やす」「貯める」などの目的でくくった表示から、シンプルなプルダウンメニューに変えた。そのほうが検索に引っかかりやすくなるような手を打ちやすいからだ。加えて、同じ内容を示すときは、同一のアイコンや表現を使うように表記を統一し、見栄えの良さと使い勝手を向上させた。
今後はAIやチャットボットなどの導入も検討
その結果、大幅リニューアルから3カ月が経過した2018年10月には、キーワード検索からのサイト流入数が、スマートフォンサイトで72%、パソコンサイトで78%、それぞれ前年同月比でアップ。セッション数で見たサイトアクセス数も、同様にスマホサイトで27%、パソコンサイトで13%、それぞれ増えた。こうしてサイト訪問者数が大幅に増えたこともあり、Webサイトからの新規口座開設数も、同様にスマホサイトで31%、パソコンサイトで22%、それぞれアップした。中野氏は、「当初の想定を上回る成果を得られた。スマホからのログイン数も80%アップしており、口座開設後にはスマホを利用してやり取りをしたいという顧客のニーズにも、応えられていると思う」と胸を張る。
今後は、潜在顧客や既存顧客のWebサイト訪問頻度を引き上げるため、掲載する情報(コンテンツ)の充実を図る。最近はやりのチャットボットやAI(人工知能)を使って顧客と対話する機能の搭載も検討していく考えだ。そうやって、「顧客の行動などを把握してパーソナライズ対応を進め、ネットで主に対応したほうがいい顧客にはネットで、支店で主に対応したほうがいい顧客には支店で、それぞれ適切に対応できる体制を早期に築きたい」(個人金融部門デジタル・バンキング部の酒井俊祐シニア マネージャー)という。