米アマゾン・ドット・コムや米ネットフリックスの攻勢で、サブスクリプション型のネット動画配信サービスの競争は激しくなっている。海外の巨人にどう対抗するか。「U-NEXT」は高めの料金ながら動画の配信数を増やし、電子書籍を統合した。国内勢が他にない特徴を打ち出す生き残り策を加速させている。
いつでもどこでも映画やドラマが見放題。そんな有料のネット動画配信サービスの利用が定着しつつある。国内で利用率が高いのは「Amazonプライム・ビデオ」。調査会社のMMDLabo(東京・港)によると有料ネット動画配信サービスの利用経験は、Amazonプライム・ビデオが19.7%と最も多い。月額325~400円(税込み)のプライム会員であれば利用できることからお得感があり、iOSのApp Storeの評価も5点満点で4.7(2019年2月中旬時点)と高い。
利用率やユーザーの評価でアマゾンが一歩リードする中、月額1990円(税別)と高めの価格設定ながらも、MMDLaboの調査では3位、App Storeの評価でアマゾンに迫る「4.5」を獲得しているアプリがある。USEN-NEXT HOLDINGS傘下のU-NEXTが提供するサービスだ。
ライト層向けでは勝負しない
高評価の背景にあるのはコンテンツの豊富さ。映画やドラマは8000作品、アニメは2000作品以上をそろえ、日本最大級の動画サービスをうたう。毎月1200円分のポイントを付与し、そのポイントで映画の最新作など有料コンテンツも視聴できる。U-NEXTの堤天心社長は「海外の他社サービスはライト層を取り込んでいるものの、我々はそこでは勝負しない」と話す。競合サービスでは物足りないという、映画好きやアニメ好きのユーザーを取り込む戦略を取る。
2019年1月末からは、これまでは別アプリで提供してきた電子書籍のサービスを動画配信と統合した。ポイントを使って書籍や漫画の電子書籍を購入できる。例えば、漫画が原作の映画を見た後に、メニュー画面をスクロールさせていくと「関連ブック」として、原作の書籍が現れる。「他社サービスではありそうでなかった」(堤氏)という使い勝手を訴求する。同じくアプリ上では、追加料金なしで約70の雑誌を読むこともできる。
U-NEXTは、15年に東芝から電子書籍サービスの事業譲渡を受けた。これまで動画と電子書籍でアプリが分かれていた理由はここにある。既存のアプリは設計が古かったため、ユーザーから「動作が遅い」などの意見が寄せられることもあったが、今回のアプリ統合では、動作スピードや安定性の面でも解消を図っている。
通常、電子書籍を読む前には、1冊まるごとのデータをダウンロードしてから、表示するアプリが多い。U-NEXTのアプリでは、「動画の配信技術を電子書籍の表示にも応用している」(堤氏)ことから、漫画や雑誌をストリーミングで表示する。そのため、少ない待ち時間ですぐに読める。
動画だけを見ているユーザーと比べて、動画と電子書籍の両方を楽しんでいるユーザーは「アプリの起動率が高く、エンゲージの面で数倍の差がある」(堤氏)。特に漫画は映像作品と比べて短い時間で楽しめるため、通勤時のスキマ時間に読まれることが多いという。電子書籍の利用が増えていけば、追加ポイントの購入にもつながることを見込む。
GYAO!はキムタク効果で伸ばす
スキ間時間に向けたコンテンツを強化する動きは、他サービスでも広がっている。無料動画サービスの「GYAO!」では、タレントの木村拓哉さんをはじめ、お笑い芸人やアイドルなど1回15分程度で楽しめるオリジナル番組を配信している。テレビドラマ最新作の見逃し配信をすると同時に、本編の1話と1話の間をつなぐ短い追加映像(チェインストーリー)の人気も高いという。
コンテンツ強化に加え、18年夏からは木村拓哉さんのCMを配信した効果もあり、「(米アプリ調査会社の)アップアニーの調査では18年10~12月の動画配信アプリの国内ダウンロード数で、GYAO!が1位を獲得した」(GYAO編成本部長兼コンテンツビジネス本部長の有本恭史氏)といった成果も現れ始めた。競合は多いが「アニメや映画を含め、プレミアムな映像作品を無料で視聴できるサービスという点で明確なライバルはいない」(有本氏)と自信を見せる。
ネットフリックスやアマゾンに加え、19年後半には米ウォルト・ディズニーも独自の動画配信サービスに参入するといわれており、競争の激化は必至だ。国内勢も健闘している。テレビ朝日とサイバーエージェントのネット動画配信サービス「Abema TV」は、有料会員を17年末の約8万人から1年で4.5倍の約35.8万人に伸ばした。
「レンタルDVDや衛星放送の市場を動画配信サービスに取り込む動きは、まだこれから加速する」(堤氏)。市場拡大が続けば、海外サービスにない独自性や利便性を打ち出していくことで、国内勢が今後も存在感を示す余地は十分にありそうだ。
「独占配信」の電子書籍も、会員規模は2倍を目指す
電子書籍のアプリを統合した狙いはどこにあるのか。国内外の競合サービスが多数登場する一方で、ネット動画配信サービスの市場は今後も拡大が期待できるのか。U-NEXTの堤天心社長に聞いた。
アプリ統合による反響は。
まだ詳細な分析はできていないが、書籍を利用しているユーザーのアプリ起動率は確実に高まっている。起動率が高まれば、サービスへの帰属意識も高まり、継続率も上がっていく。電子書籍との統合で、有料コンテンツの追加購入による売り上げの伸びも期待できるが、そこが中心ではない。魅力のあるサービスであることを実感してもらい、月額会員を伸ばしていくことを目指す。
国内ネット動画配信の市場見通しは。
伸びしろはまだある。日本は海外と比べると映像ネット配信の普及が遅れており、DVDのパッケージ販売やレンタルが根強く残っている。それでも、若者を中心にパッケージからネットへという流れは着実に進んでいる。衛星放送やケーブルテレビといった市場も取り込んでいけるはずだ。オンデマンドかつマルチデバイスで表示できるというネット動画配信のメリットは大きい。
アマゾンなど海外の動画配信サービスへの対抗策は。
同じことをやっても仕方がない。海外サービスは、ライトユーザーの志向性に合わせたマスの戦略を取っているという印象がある。ある程度の知名度の高い作品がそろい、ボリューム層を捉えている。ただ、それだけで満足できるユーザーは、あまり映画館にも行かないし、漫画も本も買わず、能動的にお金を落とすケースが少ない傾向がある。
U-NEXTが狙うユーザー層は、エンターテインメントをより積極的に楽しんでいる人。例えば、映画やアニメが好きで月に1回はイベントに参加している、という人たちだ。月額料金は1990円と他社よりも高いが、その分は、コンテンツの品ぞろえに投資している。ユーザーからも「他社サービスではコンテンツが物足りなかったので、U-NEXTを使っている」という声をよく聞く。
書籍の品ぞろえは、現状で一部の出版社の取り扱いができていないが、3月末までには他社の電子書籍サービスと同等にしていく。出版社との連携も強化し、紙の漫画のデジタル化やノベライズといった独自の初出し作品を扱っていきたい。将来的には内部に出版の機能を抱えていく可能性もある。
今後の目標は。
デジタル化によって、映像でも書籍でも流通の在り方が変わってくる。原作があり、コミック化や映像化されるという過程で、これまではそれぞれが別ルートで供給されたが、今後は総合的なエンターテインメントのコンテンツを統一されたプラットフォームで扱える。今後は出版社との連携など、より供給側に近づいていくことを模索したい。
そうした取り組みを通して利便性を高め、継続率と満足度の向上につなげていく。今後1~2年で会員規模を現在の2倍にしたい。
(写真/木村輝)