1990年代から「トップバリュ」の名称で食品や日用品などのPB商品を数多く扱っているイオン。そのイオンがここ数年強化しているのが、合成着色料、合成保存料、防カビ剤など109種類の添加物不使用をうたうシリーズ「トップバリュ グリーンアイフリーフロム(以下、フリーフロム)」だ。

トップバリュ グリーンアイフリーフロムシリーズの新商品「ツナと野菜のスパゲティサラダ」(左上、左下。75グラム入り税別148円、105グラム入り税別198円)、「こだわり野菜のポテトサラダ」(右上、右下。65グラム入り税別128円、105グラム入り税別198円、175グラム入り税別298円)
トップバリュ グリーンアイフリーフロムシリーズの新商品「ツナと野菜のスパゲティサラダ」(左上、左下。75グラム入り税別148円、105グラム入り税別198円)、「こだわり野菜のポテトサラダ」(右上、右下。65グラム入り税別128円、105グラム入り税別198円、175グラム入り税別298円)
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 2019年1月16日、同社はフリーフロムの新商品として「こだわり野菜のポテトサラダ」「ツナと野菜のスパゲティサラダ」の2商品を発売した。調味料の1つであるアミノ酸やハムなどに使われる発色剤を使用していないのが特徴。「ハムを入れる代わりに野菜のカットの仕方を調整して歯応えを出したり、野菜からとったブイヨンでうまみをつけたりしている」と同社は説明する。

 同シリーズは、18年11月にひじきの煮物やきんぴらごぼうなども発売している。だが、これらの和風総菜に比べ、ポテトサラダ、スパゲティサラダは健康志向の高い人が積極的に食べるイメージがない。なぜ商品化したのだろうか。

 「ポテトサラダとスパゲティサラダは総菜の中でも特に人気が高いため、従来品は終売せずにそのまま継続する」(同社)。つまり、店舗によっては従来品のポテトサラダとスパゲティサラダ2品と、添加物不使用の2品、計4品が同時に並ぶこともあり得るのだ。しかし、売れ筋の商品に、なぜあえて「添加物不使用」という付加価値を付けたのか。

ポテトサラダの原材料の従来品とフリーフロムの比較。ハムの代わりにコーンやレタスを加えて歯応えを出している
ポテトサラダの原材料の従来品とフリーフロムの比較。ハムの代わりにコーンやレタスを加えて歯応えを出している
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スパゲティサラダ原材料の従来品とフリーフロムの比較。こちらもハムを使っていない
スパゲティサラダ原材料の従来品とフリーフロムの比較。こちらもハムを使っていない
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消費者からの問い合わせをきっかけにシリーズ化

 フリーフロムがスタートしたのは16年11月。食品添加物に関する問い合わせが増えたことがきっかけだった。「『香料は自然由来のものか』『裏面に表示がないのは無添加ということか』という問い合わせや、『保存料を使用しないでほしい』という要望が、15年だけで約400件にも上った」(同社)。

 これまでも合成着色料や発色剤、保存料を用いない商品を手掛けてきたが、消費者が避けたい添加物や原材料を詳しく調査したところ、漂白剤や高トランス脂肪酸、アルミなどが浮かび上がった。そこで改めて109種類の添加物や原材料をリストアップし、これらを用いないシリーズとして、フリーフロムを立ち上げた。

PB「トップバリュ グリーンアイ」を16年11月にリブランディングし、「オーガニック」「ナチュラル」「フリーフロム」の3ブランドに分けた
PB「トップバリュ グリーンアイ」を16年11月にリブランディングし、「オーガニック」「ナチュラル」「フリーフロム」の3ブランドに分けた
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従来のグリーンアイの基準で不使用としていた62種類に加え、フリーフロム立ち上げ時に47種類を追加。109種類の添加物、原材料の不使用をうたっている
従来のグリーンアイの基準で不使用としていた62種類に加え、フリーフロム立ち上げ時に47種類を追加。109種類の添加物、原材料の不使用をうたっている
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イオンのユーザーを調査した結果、漂白剤や高トランス脂肪酸を気にしている人が多いことが分かった
イオンのユーザーを調査した結果、漂白剤や高トランス脂肪酸を気にしている人が多いことが分かった
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 フリーフロムをスタートしてから約2年で、取扱商品は100品目を超えた。特に人気が高いのは食パン「パン・ド・ミ」。イーストフードや乳化剤、マーガリンを使っておらず、「量販店の食パンは添加物が多いという理由で購入を控えていた人からも支持された。パン・ド・ミの好調により、パン全体の売り上げも伸びた」とイオントップバリュの和田浩二マーケティング本部長は説明する。

 パン・ド・ミの好調の理由には、1斤148円という値段の手ごろさもあるだろう。「高付加価値の商品であっても値ごろ感が重要」というのが同社の考え。添加物を使っていないというメリットの裏に値上がりというデメリットがあれば、ユーザーはついてこないからだ。そこで新発売のポテトサラダ、スパゲティサラダともに、100グラム当たりの価格を従来品の1.1〜1.2倍に上げるにとどめた。

オーガニック愛好層とそれ以外の「中間」がターゲット

 確かに、イオンのような量販店で買い物をする人が価格を重視しているのは間違いない。そもそもPBはナショナルブランドに比べて低価格であることが支持されて拡大してきた。だが、一方で、オーガニックなどの高付加価値商品は「高くて当たり前」という認識を持つ人が多いのではないだろうか。

 有機栽培の野菜は手間もかかる上に収穫量、生産数も少ないため、一般的な食材に比べて価格が高いものが多い。オーガニックをうたう加工食品も同様だ。それでもオーガニック食品の専門店やネットスーパー、宅配業者は年々増加している。矢野経済研究所によると、17年の国内オーガニック食品の市場規模は前年比2.3%増の1785億円。今後も年1〜2%の成長が予想される。健康志向の高まりから、「高くてもオーガニックがいい」という人が増えているということだろう。

 では、添加物不使用を支持するのは、一体どんな層なのだろうか。「子育てをきっかけに添加物に関心を持った人からシニア層まで、ターゲットは幅広い」と和田本部長は話す。シニア層の支持に期待するのは、昨今の食品添加物を巡る報道の影響もある。

 一方で、女性の社会進出などもあり、出来合いのものを買って食べる中食需要も増えている。「食の安全を考えると添加物は入っていないほうがいいが、利便性には代えられない」と考えて総菜を購入している人も多いはずだ。そうした層に、「すぐに食べられて添加物不使用」というフリーフロムの総菜は響くのかもしれない。

フリーフロムは「引き算のPB」

 イオンの既存ユーザーをターゲットにしているのも大きい。「オーガニックでないとダメ」という人であれば、総菜を買うにしても専門店で買うはず。イオンを訪れる人で、「できれば入っていないほうがいい」と考える層を狙うのであれば、価格を抑えざるを得ないというわけだ。実際に、「添加物を気にする人は増えているが、『パンはフリーフロムを買ってもそのほかは通常の商品でいい』という人もいる」(和田本部長)。野菜はオーガニックではないが、総菜はフリーフロムを買うという人も出てくるかもしれない。また、添加物に対するこだわりがない人は1、2割の値上げにも敏感。従来品を終売しないのにはそうした事情もあるのだろう。

 高付加価値PBが増える中、セブン-イレブン・ジャパンの「セブンプレミアム ゴールド」は、ナショナルブランドの価格を大きく上回る商品をラインアップしながらも、素材や製法が「最上級」であることをうたい、付加価値をいくつもプラスしていく戦略で成功した。対するフリーフロムは「消費者が気にしそうなものを入れない」という引き算の戦略といえる。

 新商品のポテトサラダ、スパゲティサラダは全国の「イオン」「イオンスタイル」など約800店舗で展開。今後は傘下のスーパーマーケット「マックスバリュ」や都市型の小型スーパーマーケット「まいばすけっと」でも販売する予定だ。スーパーなどのスペースが限られる売り場では、売れ行きによって商品ラインアップが左右される。大型店以外でのフリーフロムの取り扱いが今後どう変わっていくのかも気になるところだ。

イオントップバリュの和田浩二マーケティング本部長
イオントップバリュの和田浩二マーケティング本部長
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(写真/アフロ)