ミツバチプロダクツというベンチャーが開発したホットチョコレートマシンが注目を集めている。実はこの開発プロジェクトは、パナソニック アプライアンス社の新規事業創造のスキームを活用した案件なのだ。

右は試作機で、パナソニックの一般家庭向けのエスプレッソマシンを改良したもの。レバーを押すとホットチョコレートが出来上がる。左が発売時を想定した商品で、独自開発の機構により、約30秒で出てくるようにした。パナソニックが保有する調理機器向けスチーム技術から着想を得て開発し、業界初の固定型ブレンダーにスチーム加熱を融合した機構を採用(特許出願中)。想定寸法は幅216ミリ、奥行き240ミリ、高さ396ミリで、約10キログラム。価格は25万円(税別)。2019年度の販売目標は400台
右は試作機で、パナソニックの一般家庭向けのエスプレッソマシンを改良したもの。レバーを押すとホットチョコレートが出来上がる。左が発売時を想定した商品で、独自開発の機構により、約30秒で出てくるようにした。パナソニックが保有する調理機器向けスチーム技術から着想を得て開発し、業界初の固定型ブレンダーにスチーム加熱を融合した機構を採用(特許出願中)。想定寸法は幅216ミリ、奥行き240ミリ、高さ396ミリで、約10キログラム。価格は25万円(税別)。2019年度の販売目標は400台
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 商品名は「∞ミックス(インフィニミックス)/ホットチョコレートマシン」(以下、インフィニミックス)。一般家庭向けではなくチョコレートショップやカフェといった店舗向けを狙い、2018年11月1日から受注を開始。19年3月20日前後にも出荷できる見通しが立ったことを、このほどミツバチプロダクツが明らかにした。店舗以外にホテルやスポーツ関連の施設などとも商談を進めているという。

 米アップルでプロダクトデザインやエンジニアの経験を持つダグラス・ウェバー氏が開発に参加して外観のデザインに注力した他、独自の「スチームブレンダー技術」も搭載。手軽にホットチョコレートを作ることができるようにした。チョコレートを瞬時に溶解して加熱時間を短時間に抑え、カカオ豆の香りや風味を逃がさないようにしている。細かく砕いたチョコレートを水に混ぜてスイッチを入れると、約30秒でチョコレートが水に溶け、ホットチョコレートドリンクが出来上がる。業務用のチョコレートだけでなく、市販のチョコレートにも対応可能だ。

 「チョコレートには健康とリラックス効果があるといわれ、国内の消費量も増加している。チョコレートの魅力をもっと広げるため、香りが引き立つホットチョコレートに着目した。日本ではチョコレートを“食べる”のが一般的だが、今後はチョコレートを“飲む”という習慣をつくっていきたい」とミツバチプロダクツ代表取締役社長の浦はつみ氏は話す。

事業化はBeeEdgeが支援

 ミツバチプロダクツが注目される理由は、ホットチョコレート事業の市場開拓という面だけでなく、パナソニック アプライアンス社(以下パナソニック)の新規事業創造のスキームを活用した案件だったことだ。パナソニックと米サンフランシスコに拠点を持つベンチャーキャピタルのScrum Ventures(スクラムベンチャーズ)は、18年3月に共同出資してスタートアップ支援企業のBeeEdge(ビーエッジ)を立ち上げた。ビーエッジが手掛けた最初の支援企業がミツバチプロダクツで、浦氏もパナソニックの社員として家電の営業や商品企画などに従事してきた。

 浦氏は13年にパナソニックのコンシューマー部門商品企画課で「食」の新規商品企画を担当し、15年にはIoT家電「The Roast(ザ・ロースト)」の開発にも携わっていた。ザ・ローストはスマートフォンと連動できる一般家庭向けのコーヒー焙煎機として当時、話題になった商品。生豆を定期頒布する事業も付加するなど、従来の家電とは異なる展開を狙っていたが、価格が10万円(税別)と一般家庭向けには高かった。

 その後、カカオ豆を使うビジネスとして、17年からチョコレートドリンク事業を提案。パナソニックを休職して18年9月にミツバチプロダクツを設立し、社長に就任した。インフィニミックスの商品企画は、ザ・ローストの延長線にあったといえる。一般家庭向けでなく店舗向けにした理由も、市場性やコスト面での判断による。「ザ・ローストの事業で学んだことを今回のホットチョコレート事業にも生かした。新しい文化をつくるには、BtoBに従事する方たちと一緒に推進していくことが必要になると考えた」(浦氏)。

●開発の流れ
●開発の流れ
ミツバチプロダクツの出資比率はビーエッジが83%、浦はつみ氏が17%で、パナソニックの資本は入っていない。インフィニミックスのデザインはダグラス・ウェバー氏のLYN WEBER WORKSHOPS(リン ウェバー ワークショップ)、設計・開発は外部企業のSTUFF(スタッフ)が担当した
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サロン・デュ・ショコラで手応え

 浦氏は以前から発酵食品の事業化に着目していた。その中の1つがカカオ豆だったことがホットチョコレート事業に結び付いた。しかし当初はパナソニック社内に提案しても、ホットチョコレート市場の規模が疑問視されたという。ザ・ローストのプロジェクトが承認された理由は、誰にとっても身近なコーヒーの市場だったからだが、ホットチョコレートは新しい市場。海外では知られていても、国内ではまだ広がっていなかった。そこでパリで毎年開催されるチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」にも15年と16年に自費で行き、ホットチョコレートの将来性を確信。日本でも開催されているサロン・デュ・ショコラの来場者数を例に挙げるなど、ホットチョコレート市場の有望性をパナソニック社内に説明。その結果、試作機を開発して市場を検証できるところまできた。

 17年のパリのサロン・デュ・ショコラには試作機を持ち込み、来場者にホットチョコレートを振る舞いながら、さまざまな感想を集めた。事業化はビーエッジが担当することになったが、浦氏がパナソニックを離れたため、BtoBの市場にも発売できるようになった。18年には国内のチョコレートショップやカフェなども訪問し、試作機を紹介しながら意見を聞いた。単に商品を販売する相手を探すというより、一緒にホットチョコレート文化をつくるパートナーを求めたという。

 商品名のインフィニミックスには、無限大に広がる新しい「食」の市場を開拓したいという思いがある。実際、マシンの刃を替えることで、別の市場も狙えるという。BtoBの次は一般家庭向けにも広げていく方針だ。

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開発と検証のフェーズに入ると、2017年のパリのサロン・デュ・ショコラに試作機を持ち込み、作ったホットチョコレートに対する意見を聞いた。まだホットチョコレートを細かく砕くことができないなどの課題があったが、多くの来場者が関心を示したので、市場に対する自信を深めた。日本より海外でニーズがあるのではないかと考えたが、18年に入ると国内のBtoB市場に注力し、チョコレートショップやカフェなどを訪問しながら、ホットチョコレートの市場に対する意見を聞いた
開発と検証のフェーズに入ると、2017年のパリのサロン・デュ・ショコラに試作機を持ち込み、作ったホットチョコレートに対する意見を聞いた。まだホットチョコレートを細かく砕くことができないなどの課題があったが、多くの来場者が関心を示したので、市場に対する自信を深めた。日本より海外でニーズがあるのではないかと考えたが、18年に入ると国内のBtoB市場に注力し、チョコレートショップやカフェなどを訪問しながら、ホットチョコレートの市場に対する意見を聞いた
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(写真提供/ミツバチプロダクツ)