イーデザイン損害保険(東京・新宿)は2019年1月から、データに基づきデジタル広告とテレビCMの予算の適正配分を予測する取り組みを始めた。テレビCM一本やりのマーケティングに限界を感じ、ネット動画広告の活用を本格化。1年をかけてデータを蓄積し、予測モデルの本格運用を始めた。

イーデザイン損害保険が制作したYouTube向け動画広告
イーデザイン損害保険が制作したYouTube向け動画広告

 イーデザイン損保は、デジタル広告とテレビCMの予算の適正化に取り組み始めた。過去1年間のテレビCM放送データや屋外広告の出稿実績、デジタル広告出稿量と、保険の見積もり申し込み件数のデータを統合的に分析。どの広告が最も見積もり件数の増加に寄与したかを割り出し、そのデータを用いて、予算配分を予測する。

 この予測値を基に、成果につながるメディアの広告宣伝費を厚くして、再びその成果を評価する。イーデザイン損保はPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回す体制を構築し、本格運用を始めた。

イーデザイン損害保険は2019年1月から、データに基づくデジタル広告とテレビCMの予算の適正化に取り組み始めた
イーデザイン損害保険は2019年1月から、データに基づくデジタル広告とテレビCMの予算の適正化に取り組み始めた

 体制構築に先駆け、イーデザイン損保はおよそ1年をかけて、ネット動画広告を活用し、広告効果のデータを蓄積してきた。データがなければ、AIを学習させられないからだ。17年末からグーグルのYouTube向け動画広告を中心に、ネット動画広告の活用を強化。複数のクリエイティブでABテストを実施した。ブランド名での検索数を増やすことを目標にPDCAを回し、約1年間にわたって動画広告のデータを蓄積した。

新聞も屋外広告も効果なし

 「マス広告の限界」。イーデザイン損保をデジタルマーケティング強化へと進ませた理由だ。「13年ごろからマス広告の効果は横ばいになってきた」。デジタルマーケティング強化の背景を、マーケティング部の木村允昶マネージャーはそう振り返る。

 イーデザイン損保は、東京海上ホールディングスとNTTファイナンスが共同出資するネット自動車保険会社として09年に設立された。創業後のマーケティング施策はマス広告が主軸。新会社ゆえにブランド認知率ゼロからのスタートだ。ブランド認知率を高めることが最優先だった。若者のテレビ離れが叫ばれてはいたものの、保険の対象者層にリーチするうえで、テレビほど効率的なマーケティング施策はなかった。積極的な出稿の甲斐もあり、わずか3年でブランド認知率は90%に達した。

 その一方で、大きな壁にぶつかる。「いくらテレビCMを放送しても、純粋想起率が8~9%止まりで一向に上がらなくなった。新聞広告や屋外広告も出稿したが、やはりぱっとしなかった」(木村氏)。ブランドが認知されていても、いざ保険加入を検討し始めた消費者に想起してもらえなければ、選択肢にすら入れない。「コモディティー(汎用的)な商品のため、ブランド想起率が重要になる」(木村氏)。競合の中でも、とりわけブランド想起率が高かったのがソニー損害保険だった。ネット損保の黎明期から事業を展開しているソニー損保は消費者の支持率が高く、後発のイーデザイン損保は攻めあぐねていた。

 この状況を打開し、想起率の向上が期待できる施策として木村氏が目を付けたのが、グーグルが提供するYouTubeの短尺動画広告「バンパー広告」だった。バンパー広告はYouTubeに6秒間のスキップできない動画広告を配信できるサービス。木村氏は「ブランド想起にはサウンドロゴが効果的」と考え、短尺の動画広告に親会社の東京海上グループのサウンドロゴを採用し、記憶に残る広告クリエイティブ制作を目指した。「YouTubeは主に動画の閲覧を目的に利用する。そのため、音声ありの利用者が多いことが期待できた」(木村氏)ことから、他の動画広告よりもサウンドロゴを用いるのに向いていると判断した。

劇画風アニメの広告効果は?

 ブランド想起率の向上により狙う成果は、ブランド名での検索数の増加率だ。「自動車保険」といった、検索回数の多い「ビッグワード」と呼ばれる検索キーワードは、競合がこぞって検索連動型広告を出稿するため入札単価が高騰している。一方、自社のブランド名での検索なら単価が安い。想起率を高め、ビッグワードからブランド名検索に移行させられれば、結果的に広告効率も上がるというわけだ。動画広告閲覧後のブランド名検索数を「ビュースルーサーチ」を指標に、動画広告の接触者と非接触者でブランド名検索数の押し上げ効果を分析した。

 バンパー広告向けのクリエイティブ制作は、動画広告の活用支援を手掛けるViibar(東京・品川)の協力を得た。まず、素材としてタレントを起用した広告、イラストを使った広告、そして劇画風アニメ広告の3つを制作。さらにそれぞれの広告クリエイティブに価格訴求や、走行距離が短い人向けなど、伝えるメッセージを組み合わせ、全部で9つを制作した。

劇画風のアニメを起用したイーデザイン損保の短尺動画広告
女性のイラストを起用したイーデザイン損保の短尺動画広告

 配信するターゲット層も複数用意して比較した。例えば、自動車保険の関心層や、引っ越しを検討しているようなライフステージの変更層などが対象だ。また極力、純粋な広告効果を分析するため、イーデザイン損保のWebサイトの訪問履歴を持つ層は配信対象から除外した。こうして17年11月から2カ月にわたって配信した。

 すると、すべてのターゲット層でアニメを起用した広告クリエイティブの方が2倍以上、動画閲覧後にブランド名検索を促す効果が高かった。「意外性があり、心理的に印象に残ったことが検索行動につながったのではないか」と木村氏は見る。ただし、ライフステージの変更層についてはそもそもの効果が低かったため、1カ月配信した段階で配信対象から外した。

 18年1月以降は金融商品の関心層など、新たな配信対象者を加えたうえで、既存のテレビCMの素材を活用した広告クリエイティブと比較。その結果、テレビCMの素材を起用した広告クリエイティブの検索数の押し上げ効果が、アニメを起用した広告を上回った。「繁忙期のため、テレビCMの出稿量も増えた。相乗効果が利いたのではないか」(木村氏)。バンパー広告で一定の効果が見込めたことから、18年3月以降は通常尺の15秒の動画広告も活用し始めている。

 こうして、1年間かけてネット動画広告の活用を進めてきた。データはすべて、マーケティング分析ツール「XICA magellan(サイカ マゼラン)」に蓄積している。マゼランは複数のマーケティング施策のデータを統合的に分析できるツール。イーデザイン損保はこのツールにテレビCMデータ、検索連動型広告やディスプレイ広告のデータ、見積もりの申し込み件数などのデータを蓄積。統合的な分析から、見積もり件数を最大化するためのデジタルとテレビCMの適正な予算配分予測に取り組み始めた。19年はこの予測モデルの活用を本格化。マーケティング費用の効率的な活用を目指す。

■修正履歴
広告クリエイティブの説明に誤りがありました。本文は修正済みです。[2019/1/22 14:30]

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