継続的な値下げでクラウドサービスのシェアを獲得してきた米アマゾン ウェブ サービス(AWS)が、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの分析機能を強化し、顧客開拓に本腰を入れ始めた。大創産業(広島県東広島市)も低費用を魅力に感じ競合から乗り換えた。業界勢力図が大きく動く可能性がある。

米アマゾン ウェブ サービスのBIツール「QuickSight」の画面。売り上げなどの予測値をグラフで表示する
米アマゾン ウェブ サービスのBIツール「QuickSight」の画面。売り上げなどの予測値をグラフで表示する

 AWSの「QuickSight」はサーバー管理が不要なクラウド型のBIツール。クラウドサービス上あるいはオンプレミス(自社所有)のサーバーのデータベースと連係させて、商品ごとの販売の推移などを分析できる。料金設定は、管理者ユーザーが1人当たり月額18ドルで、閲覧ユーザーは利用回数に応じて最大5ドル。海外では2016年から、日本では18年5月から提供を開始した。

 18年11月からはQuickSightに機械学習による分析機能が加わった。同機能を利用することで、「組織内に(データ分析の)専門家がいない、あるいは不足している場合でもビジネス上の意思決定がしやすくなる」とアマゾン ウェブ サービス ジャパン エンタープライズソリューション本部長の瀧澤与一氏は説明する。

分析サマリーを言葉で表示

 機械学習の機能面のポイントは2つある。まずは「異常検知」。過去のデータと照らし合わせて、売れ行きが突然下がった場合など、機械学習によるAI(人工知能)が異常と判断したときに管理画面やメールで通知する。例えば、世界で日用品を扱う販売会社の場合、「ロシアのベビー用品の日時収益が予想を下回っています」といった具合に警告を発する。

アマゾン ウェブ サービス ジャパンエンタープライズソリューション本部長の瀧澤与一氏
アマゾン ウェブ サービス ジャパンエンタープライズソリューション本部長の瀧澤与一氏

 次に「将来予測」。データの推移をAIが分析し、季節要因による売り上げの増減などを自動的に加味しつつ、今後の予測値をグラフ上で提示する。折れ線グラフをマウスでドラッグするか、数値で目標値を指定すると、目標とすべき売り上げ推移のグラフをAIが描き直す。「このターゲットを目指すには何をやらなければいけないかといった会議で、マネジャーがメンバーに説明するときに活用できる」(瀧澤氏)といった用途を想定する。

 「自動ナラティブ」と呼ばれる文章の作成機能もある。日々の売れ行きのサマリーや、年次目標に対してどれだけ達成しているかを文章で表示する。「識者はグラフを見て判断できるが全員がそうではない。文章で書かれたほうが分かりやすい人もいる」(瀧澤氏)。現状では、標準で英語のみに対応しているが、カスタマイズ機能を使えば日本語に置き換えられる。

 これらAI機能は、競合も搭載し、BIツール間の競争軸になりつつある。BIツールの中でも操作性や機能の豊富さに定評がある米タブローの「Tableau」は、「過去10年間の売り上げは」などと聞くだけでデータを可視化してくれる機能「Ask Data」を18年10月に加えている。米クリック・テクノロジーズのBIツール「Qlik Sense」は18年6月から特徴的なデータを自動抽出してグラフで提示するAI機能を搭載している。

 ちなみに、Tableauをパブリッククラウドで利用する場合は、閲覧ユーザー向けの「Tableau Viewer」のライセンス料は1ユーザー当たり年間1万8000円(税別)。機能は異なるが、導入のハードルは月額費用が最大5ドルのAWSのQuickSightのほうが低い。

AWSのQuickSightは、日々の分析結果の概要を言葉で表示する機能もある
AWSのQuickSightは、日々の分析結果の概要を言葉で表示する機能もある

 BIツールのAI機能や価格を導入企業はどう見ているのか。100円ショップ「ザ・ダイソー」の大創産業は、18年夏にQuickSightを導入した。同社は国内外に5270店舗を構え、アイテム数は7万に達する。これまではクリック・テクノロジーズのBIツール「Qlik View」をオンプレミスのサーバーで利用してきたが、動作速度や扱えるデータ量が少ないという面で課題があった。

 その時点で扱っていたのは、2カ月分の販売履歴を示すPOSデータと、前日分の在庫データのみ。「業務部門からなんでもっとデータを入れないのかと言われたが、データを追加すると動作が遅くなる」(大創産業 情報システム部システム開発1課課長の丸本健二郎氏)という状況だった。

 クリック・テクノロジーズの日本法人であるクリックテック・ジャパンによると、ビッグデータ分析に関する補助機能も提供しているという。その機能を用いて専用ツールを開発する対処方法もあった。しかし、大創産業内でBIツールを動かすサーバーが冗長化されていなかったため、電源の故障で1週間ほどBIツールが使えなかったこともあり、同社内でシステム見直しの勢いが増した。

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