医療ビッグデータをAI(人工知能)アルゴリズムで解析することで、個人レベルで発症前に病気を予測して予防的な介入を行う「先制医療」に大きな関心が集まっている。東京医科歯科大学は、医療ビッグデータの解析ができる医師を養成する学部の設置の検討を始めた。

田中博・東京医科歯科大学名誉教授
田中博・東京医科歯科大学名誉教授

 検討は、東京医科歯科大学名誉教授の田中博特任教授が中心になり進めている。東京医科歯科大学の吉澤靖之学長と、新しい医学部の新設について話し合っている。実現は、4~5年後になるもよう。先制医療によって、無駄な医療費を大幅に削減できる可能性がある。

 田中教授は、「医療ビッグデータを包括的・総合的に解析できる医師の養成によって、個人レベルで発症前に病気を予測して予防的な介入を行う『先制医療』の普及に大きく貢献できる。その結果、個人一人ひとりに最適な医療を施すことができるようになり、国民の健康寿命を延ばし、無駄な医療費を大幅に削減できる」と期待を語る。

 この分野では米国が先行している。田中教授は、「医学博士号と工学博士号の両方を取得するダブルディグリーの推進は、既に米国ではハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)などで1990年代から実施されており、そうした人材が米国の先端医療研究をけん引している」と説明する。

博士課程、修士課程は先行して設置

 田中教授自身、医学博士号と工学博士号の両方を持つ、日本国内では珍しい研究者。2018年4月、東京医科歯科大学は大学院の博士課程および修士課程に関しては、先制医療などに対応できる人材を育成するコースを既に設置済み。疫学や統計学、数理科学などに関する科目を用意しており、田中教授も20年からそのコースの運営に本格的に加わる。

2018年4月に、先制医歯理工学コースや先制医療学コースを新設した東京医科歯科大学大学院の概要
2018年4月に、先制医歯理工学コースや先制医療学コースを新設した東京医科歯科大学大学院の概要

 その先に、統計学や数理科学、機械学習、AI、医療ビッグデータ解析、データサイエンスなどを学ばせる新しい医学部の設置を見据えているわけだ。

 博士課程および修士課程の先制医療のコースを担当している、東京医科歯科大学難治疾患研究所医科学数理分野の角田達彦教授(医学博士・工学博士)は以前、記者に対して同コース新設の狙いと内容について、以下のように話していた。

 「ゲノムデータなど医療ビッグデータを研究することで、これまでの医学研究にはない多くの未知の因子、メカニズムが発見でき、それを用いた医療・健康のための予測システムを構築できる。医療ビッグデータは極めて重要で、多くの方々の協力を得てそれらを実際にどう取得するかということに加え、このように膨大なデータをどう統計的・数理科学的に解釈するかもポイントになる。そのためにまず、臨床統計学や生物統計学を基礎から実践まで、研究・教育できる態勢を作る。そして、体の中の多くの因子それぞれの挙動と、それらの間の関係性を解析しなければならない。それには踏み込んだ数学が必要になるので、数理科学を基礎から医学領域での先端研究まで研究・教育する」

 一方、田中教授は18年から文部科学省の予算を使って、医療創薬分野における人材を育成するプログラム「データ関連人材育成プログラム~医療・創薬 データサイエンスコンソーシアム」を主宰している。田中教授は、この育成プログラムに参加している講師陣にも声をかけ、20年から先制医療コースなどに起用する考えだ。

 国民医療費は42兆1381億円(2016年度)と国内総生産(GDP)の7.81%を占める(厚生労働省「平成28年度 国民医療費の概況」より)。医療費の抑制、削減は個人消費にも大きく影響するだけに、田中教授の取り組みは注目される。

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