CATV向け番組供給のディスカバリー・ジャパン(東京・千代田)は2019年1月から、テレビCMと「YouTube」の動画広告を組み合わせた広告商品の販売を本格化する。日経クロストレンドの取材により明らかになった。YouTubeをまるで自社メディアのように扱う取り組みは、動画メディア構築の新潮流として注目を集めそうだ。

ディスカバリー・ジャパンのWebサイト
ディスカバリー・ジャパンのWebサイト

 ディスカバリーの新たな広告商品はYouTubeに掲載した動画の広告在庫をネットワーク型の広告ではなく、純広告として自社販売する点に新規性がある。グーグルのパートナーセールス制度を活用したもので、YouTubeを動画配信のプラットフォームとして活用しながら、広告枠はディスカバリーが販売する。YouTube上に“自社動画メディア”を築いたとも言える取り組みだ。

 既存のテレビCMの枠と、YouTubeに掲載した動画への広告配信を組み合わせて販売することで、リーチを最大化。YouTubeへの広告配信では、広告主のターゲット層に絞った配信も可能にし、効率的にアプローチできるようにした。

 YouTubeを活用したデジタルメディアを構築するために、ディスカバリーは2018年8月から放送が終了した過去の番組を配信し始めた。YouTubeの視聴者層に適した動画を配信するコンテンツ戦略や、視聴者との関係構築を目指したコミュニケーション戦略が奏功。取り組みを始めた当初は2万7000人程度だったYouTubeのチャンネル登録者数は、4カ月で37万人超に急増した。「デジタル上でのリーチも10倍以上になっている」(ディスカバリー・ジャパンのインタラクティブメディア&マーケティングディレクターのジェニー・ヤン氏)。十分な広告在庫を確保できる規模になったことで、広告の販売に踏み切った。

ディスカバリー・ジャパンのYouTubeのチャンネルは、4カ月間で登録者数が37万人を突破した
ディスカバリー・ジャパンのYouTubeのチャンネルは、4カ月間で登録者数が37万人を突破した

新勢力に押され衛星放送は苦戦

 ディスカバリーは宇宙、科学、冒険、超常現象などをテーマにしたドキュメンタリー番組を衛星放送やケーブルテレビを通じて配信している。国内では700万世帯が同社の番組を視聴している。全世界では27億世帯に番組を届ける世界最大級のドキュメンタリーチャンネルである同社だが、国内では苦戦を強いられている。「日本はテレビメディアが広告媒体として強いと言われるが、視聴率が堅調なのは地上波だけ。CS/BSは厳しい」とヤン氏は言う。

 「Netflix」や「Amazonプライム・ビデオ」といったオンライン動画サービスの登場により、消費者が動画を楽しむ手段の多様化も進む。何らかの手段を講じて、ディスカバリーの視聴者数を拡大しなければ、広告主から広告費を得ることは難しくなる。とはいえ、ケーブルテレビの視聴率が劇的に向上することは期待しにくい。そこで、既存のコンテンツを生かしてオンライン上にメディアを構築することで、オフラインとオンラインを組み合わせた全体で視聴者数を拡大する戦略を打ち立てた。

グーグルと進める特別な取り組み

 ディスカバリーにとって幸いだったのは、広告主の間で視聴率至上主義からの脱却が進み始めていることだ。「視聴率よりも、ターゲット層にきちんと広告が届いているかどうかを重視する広告主が増えている」(ヤン氏)。ディスカバリーは専門的な番組が多いため、視聴者層は比較的絞られている。さらにデジタルメディアはターゲット層を絞った広告配信を得意とする。リーチの少なさをデジタルメディアで補い、かつターゲット層を絞った配信が可能になれば、広告主にとって魅力的な商品になる。

 しかし、ディスカバリーの動画コンテンツはややニッチな内容の番組が多い。自社サイトで配信したとしても、「わざわざ自社サイトまで訪れてもらうのはハードルが高い」(ヤン氏)。既存のファンにしか見てもらえず、新規の視聴者層への広がりは見込みにくいと考えられた。既に視聴者が多数いる“場”に動画を投稿することで、新たな視聴者を獲得する。そのプラットフォームとしてYouTubeに白羽の矢を立てた。

 ここで、デジタル広告に詳しい読者なら1つの疑問が生じるだろう。YouTubeの動画広告はネットワーク型の広告が中心で、自社で広告主をコントロールすることはできないのではないか。実はグーグルは一部の媒体社と協力して、YouTube上に開設したチャンネル上の動画の広告在庫を、定額料金で一定の表示回数を確保できる純広告として販売できる仕組みを用意している。海外では活用する媒体社が増えているが、国内ではまだ非常に少ないという。

 ディスカバリーは欧州で先行してこうした取り組みを進めており、同様の仕組みを国内でも取り入れた。これによりYouTube上の動画でありながら、自社で広告主を獲得して、純広を配信できる事実上の自社メディアとして運用できるというわけだ。

既存のテレビCMの枠とYouTubeの動画の広告在庫を組み合わせて、広告主のターゲット層へのリーチを最大化する
既存のテレビCMの枠とYouTubeの動画の広告在庫を組み合わせて、広告主のターゲット層へのリーチを最大化する

 仕組みは整っていたが、一定規模の視聴者を獲得しなければそもそも販売する広告在庫がない。そこで、ディスカバリーは18年8月からデジタルメディアの構築を目指し、宣伝ツール程度に使っていたYouTubeに本腰を入れて動画コンテンツを投稿し始めた。本格活用に当たり、YouTubeでどんな動画が人気があるかを事前に調査。Twitter上で番組などのスクリーンショットを投稿している層などを分析して、どのようなコンテンツが見られているかを割り出した。「若い男性の間では科学やサバイバルの動画が人気を集めていることが分かった」(ヤン氏)。

視聴者と対話しながら動画視聴

 分析結果に基づき、ディスカバリーは「ジャングル脱出術」「ニッチすぎる 世界のモノ作り」といった番組を中心に投稿している。なかでもヒットしたのが「ザ・秘境生活」シリーズだ。探検家のエド・スタッフォードが辺境の地で10日間のサバイバルに挑戦する企画。18年9月から10月にかけて投稿したところ、若年層の間で話題を呼び、SNSで情報が拡散されたことで再生数を稼いだ。同シリーズは軒並み100万回以上再生されており、人気の動画は再生数が238万回に上る。

 コンテンツ戦略で獲得した新しい視聴者をつなぎとめるために、ディスカバリーが特に力を入れているのがコミュニケーション戦略だ。「再生数や登録者数だけに注目しがちだが、広告主が望むのはエンゲージメントの高い視聴者がいること。それには一視聴者からディスカバリーのファンに変える必要がある」(インタラクティブメディア&マーケティングシニアマネージャーの榊原亜弥香氏)。

 視聴者のファン化を狙い、ディスカバリーは18年10月からYouTubeの「コミュニティ」機能を活用し始めた。コミュニティ参加者限定で注目動画の一部を切り取った動画を先行公開したり、どの番組を見たいかアンケートを採ったりしている。質問にはきちんと返信するなど、参加者と直接コミュニケーションを取ることで、視聴者との距離感を縮めている。

YouTubeの「プレミア機能」を活用して、担当者が視聴者とコミュニケーションを取ることでファンとの結びつきを強める
YouTubeの「プレミア機能」を活用して、担当者が視聴者とコミュニケーションを取ることでファンとの結びつきを強める

 同様の目的で、18年9月に提供が始まった「プレミア公開」機能の活用にもいち早く取り組む。この機能はテレビのように特定の時間から動画を公開して、放送時間だけチャット機能で視聴者同士で会話ができる。プレミア機能で配信する動画は、早送りなどができないため、複数の人が同時に同じ番組を見ながら会話をできる。過去の番組でもまるでライブ配信のように楽しめるのが特徴だ。ディスカバリーはこのプレミア公開機能を使って週3~4回、動画を配信。榊原氏が視聴者とチャットで会話をしながら番組を視聴する。「配信されているシーンに合わせて、裏側などを情報として提供することで楽しんでもらう」(榊原氏)。

 また、ディスカバリーの番組を見ていることを表す「ディスカバる」というハッシュタグを作り、コミュニティ内で浸透させることで、仲間意識を生みだすことを狙った。このハッシュタグがついた投稿が、さまざまなSNSを通じて広がることで、新たな視聴者の獲得につながっている。こうして、視聴者と強い結びつきを作って、ディスカバリーのファンを増やすことで、広告商品の価値向上につなげていく。

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