オンキヨーは、ウェアラブル端末で自然対話型のAIアプリケーションを活用するための新サービスを来春に開始する。同社の首掛け型スマートスピーカーにNTTドコモのAIエージェント構築システム「ドコモAIエージェントAPI」を組み合わせ、音声対話サービスなどを実現。商業施設でのフロアガイドなどに活用する。

開発中のスピーカーを業務向けに展開

 オンキヨーは2018年、米国ラスベガスで開催された家電・ITの展示会「CES」に出展した際に、AI(人工知能)アシスタントを内蔵するネックバンド型のスマートスピーカー「VC-NX01」の試作機を発表した(関連記事)。今回のサービスでは、この試作機をブラッシュアップし、AIを生かしたサービス現場での活用を提案する。

オンキヨーが試作したネックバンドのスマートスピーカー「VC-NX01」
オンキヨーが試作したネックバンドのスマートスピーカー「VC-NX01」

 12月18日に開催された記者会見では、活用事例として「お買い物コンシェルジュ」サービスのデモを行った。大型商業施設に買い物に訪れた客にスマートスピーカーを貸し出し、AIアシスタントを介してフロアガイドやタイムセールの情報、催事などの案内をタイムリーに届けるような使い方を想定している。

 例えば、ユーザーが「妻の誕生日プレゼントを探している。何がお薦め?」とAIアシスタントに話しかけると、「奥様の趣味は?」と尋ね返したり、その答えを基に「ランニングに最適な贈り物はスポーツウォッチです」「3階の家電量販店に売っています」といった具合に提案したりする。連続する自然な対話を続けた先に、目的の品が探せるサービスだ。時間などによって、AIアシスタントから「そろそろランチの時間ですね」と次の行動を促してくることもあるという。何気なく出かけたショッピングでさまざまな発見が得られるように、AIアシスタントが手取り足取り、面倒を見てくれるイメージだ。

 現在はBluetoothでスマートフォンに接続して使う仕様だが、商業施設などで使う場合はモバイル通信機能を内蔵して単体で通信できるようにするなど、使用環境やサービスに合わせた柔軟なカスタマイズが可能だという。

 オンキヨー B2B本部 AI/IoT事業推進室の宮崎武雄室長は、「オンキヨーが得意とするスピーカーの設計技術を搭載しているので、(肩に載せて使う)開放型のリスニングスタイルでも音が聞こえやすい。ユーザーの声を拾うマイクの精度も高く、ハンズフリーでの音声操作がスムーズで快適」と語る。

オンキヨー B2B本部 AI/IoT事業推進室の宮崎武雄室長
オンキヨー B2B本部 AI/IoT事業推進室の宮崎武雄室長

 また、今回発表した製品はまだ試作段階だが、2018年初頭に発表されたものに比べて外観をシンプルにした。約100gという“軽さ”が特徴で、肩にスピーカーを乗せていても負担を感じない。プロダクトデザインを担当したオンキヨーの小笠原菜摘氏は「サイズを軽く、コンパクトに抑えるだけでなく、本体に搭載するボタンの配置も“Easy to Use”を意識した」とこだわりを説明した。

VC-NX01は軽いため、首に載せてもあまり負担にならない。写真はプロダクトデザインを担当した、オンキヨー マーケティング本部 デザイン部 デザイン1課 デザイナーの小笠原菜摘氏
VC-NX01は軽いため、首に載せてもあまり負担にならない。写真はプロダクトデザインを担当した、オンキヨー マーケティング本部 デザイン部 デザイン1課 デザイナーの小笠原菜摘氏

 ウェアラブルタイプのスマートスピーカーは耳を塞ぐイヤホンと違い、周囲の環境音に注意を向けながら音楽や音声ガイドを聴けるのが利点。音声操作を組み合わせれば、コミュニケーションデバイスや音声入力デバイスとして効果的だ。耳の位置の直下に音の出口を配置すれば小さな音量でも明瞭に音が聞こえるし、マイクもユニットの数や配置を工夫することで音声入力にレスポンス良く反応する。

オンキヨーはネックバンド型はハンズフリーでの音声入力操作ができるため、手作業をしながら使えるスマートデバイスとして理想的な形と説明している
オンキヨーはネックバンド型はハンズフリーでの音声入力操作ができるため、手作業をしながら使えるスマートデバイスとして理想的な形と説明している
オンキヨーが得意とするスピーカーとマイクの技術が試作機に搭載されている
オンキヨーが得意とするスピーカーとマイクの技術が試作機に搭載されている

ドコモのエンジンで快適な日本語対応を実現

 近年のオンキヨーはAI関連事業に積極的だ。2017年からGoogleアシスタント、アマゾンのAlexa、アップルのSiriなどAIアシスタントを内蔵するスマートオーディオの開発を加速。さまざまなAI技術を全方位で取り込む「マルチAI戦略」をコンセプトに掲げ、2018年のCESでは独自のAIプラットフォーム戦略「Onkyo AI」を発表している。

 「Onkyo AI」が目指すのは、AIにまつわる各段階の技術をすべて内製することではない。一般にAIアシスタントの音声コマンド処理には、マイクから入力された音声の発話意図と語彙を認識する段階、それを機械が理解できるテキストに変換する段階、クラウド上のソフトウエア処理と組み合わせて応答メッセージを作る段階、それを音声化し応答を戻す段階などに分けられる。Onlyo AIでは、これらの段階ごとにさまざまなベンダーのAI技術から最適なものを選び、自社の製品やサービスに合わせて組み合わせる。そのノウハウや成果をBtoB、あるいはBtoCの領域に展開する考えだ。

 VC-NX01の試作機ではこれまで、米サウンドハウンドのAIエンジン「Houndify」や東芝デジタルソリューションズの音声合成技術「RECAIUS」などを組み合わせた独自のAIプラットフォームを搭載していた。それに対し、今回発表したウェアラブル型のスマートスピーカーではNTTドコモのAIエージェントAPIに置き替えている。

 これは、NTTドコモのAIエージェントAPIが、日本語での対話型音声会話処理に強みを持っているため。NTTドコモ イノベーション統括部 クラウドソリューション担当の秋永和計担当課長は、AIエージェントAPIは日本語独特の抑揚に着目し、発話意図と語彙の正確な認識、それによる自然な対話が可能だと胸を張る。AIエージェントAPIに含まれるエンジンは、ドコモのスマホに搭載されていた「しゃべってコンシェル」、現在提供されている「my daiz(マイデイズ)」など、ユーザーの手元で“実戦”を経て鍛え上げられてきた技術だからだ。

NTTドコモ イノベーション統括部 クラウドソリューション担当 担当課長の秋永和計氏
NTTドコモ イノベーション統括部 クラウドソリューション担当 担当課長の秋永和計氏

 記者会見で紹介されたデモは「お買い物コンシェルジュ」だったが、他にも外国人労働者への業務支援や病院でのカウンセリングでの活用などが想定されている。オンキヨーとNTTドコモはともにPOC(概念実証)とフィールドでの実証実験をなるべく早く実現したいと口をそろえた。また、オンキヨーの宮崎氏は、「同じ日本を拠点にするNTTドコモと連携できることで、オンキヨーのAI周りの技術やビジネスの開拓がさらに加速できるだろう」と意欲を示した。

この記事をいいね!する