キリンビバレッジの「キリンレモン」が絶好調だ。2018年4月、発売90周年を機にリニューアル。販売目標は次々に上方修正され、18年1~8月の販売実績は前年同期比でおよそ2倍となった。この好調の理由は何だろうか。
キリンレモンのリニューアル当初、販売目標は年間360万ケースだったが、早々に目標を達成しそうな勢いとなり、2018年7月には目標を500万ケースに上方修正。さらに10月には再度、600万ケースに上方修正した。
「90周年というのは、会社にとってはリニューアルの大きな節目だが、お客さんにとっては、あまり意味はない。社内にもリニューアルには慎重な意見があった」と、マーケティング本部マーケティング部商品担当デザイナーの青木佳菜子主任は打ち明ける。キリンレモンはロングセラーブランドだけに知名度は高い。特に広告やプロモーションを打たなくても、一定の数量は確実に売れる安定したブランドだ。リニューアルに失敗すれば、固定客を失うと危惧する声もあった。
そこで開発チームが取り組んだのは、現状の問題点の洗い出しと、ブランド価値の根本的な見直しだった。キリンレモンは前々回、80周年のリニューアルでファミリー向けにかじを切った。さらに前回、14年のリニューアルでは若年層にアピールしようと、パッケージを高校生と共同開発した。その結果「子供向け」「ジャンク」といったイメージが思っていた以上に強いことが、ユーザー調査の結果分かった。
さらに、ブランド価値を原点まで遡って見つめ直した。90年前、キリンレモンは、「着色料・人工甘味料を使わない」という品質重視の姿勢を貫いた。「現在の炭酸飲料市場は健康志向が強まり、無糖炭酸飲料は年150%以上の成長を遂げている。本来キリンレモンが備えていたナチュラルさが、今の時代にマッチするブランド価値になるのではないかと考えた」とマーケティング本部マーケティング部商品担当の脇山正大主任は言う。
新たなパッケージは90年前のデザインを踏まえてリニューアルした。当時のガラス瓶は「着色料不使用」を伝えるため、透明度の高いものを特注した。今回のペットボトルの容器も、できるだけ瓶に近い形のものを採用。ラベルもかつての紙ラベルと同じように、正面中央だけに図版を置き、透明感を強調するものにした。味は甘さを控え、香りも天然の果実に近いものに変更した。
新たにメインターゲットとしたのは、ナチュラル志向、健康志向の強い20~30代の女性だ。この狙いが当たった。パッケージのナチュラル感が評判となり、SNSに投稿する人が増えた。キリンレモンは従来、ファミリー向けの需要が大きく、スーパーで大サイズのペットボトルを買って家族で飲むというケースが多かった。新たなユーザー層を取り込むことに成功した結果、小サイズのペットボトルの比率が大きく高まり、コンビニでも戦えるブランドになった。