シリコンバレーの中心地、パロアルト市のダウンタウンにスタートアップのハードウエアばかりを集めた店舗がある。その名も「b8ta(ベータ)」で、約100のプロダクトが展示されており、実際に体験することができる。2018年12月にはニュージャージー州にオープンし、全米14の主要都市に店舗網が拡大。BtoB製品の反応を得るために日本のスタートアップが展示するなど、適用領域も広がっている。
スタートアップはb8taに製品を納入し、月額の「場所代」を支払うことで展示・販売が可能となる。同社は「リテール・アズ・ア・サービス」と紹介している。b8taはWebサイトでも各スタートアップのプロダクトを紹介したり、販売したりすることが可能だ。
b8taの特徴はその立地にもある。は2018年12月時点で、ニューヨーク、シアトル、サンフランシスコ、オースティン、シカゴなど全米の主要都市に14店舗あり、スタートアップ側が出品する対象店舗を選ぶ。ホームセンター「Lowe's」の店舗にもb8taのコーナーを設置している。18年6月には大手百貨店のメイシーズがb8taに出資し、b8taのノウハウを取り込んだ新しいフォーマットに乗り出している。
b8taの購買マネジャーであるジャスティン・ヤング氏は「我々はスタートアップに新しいテクノロジーをマーケットに紹介し、実際に触ってもらう場を提供している。商品が売れた時のコミッションはもらっていない」と説明する。
販促費ではなくマーケ費でいい
BtoB向けのスマートグラスを販売しているウエストユニティス(大阪市)の米国法人は2018年11月初めからb8taで、スマートグラスの「picoLinker」を4店舗で販売している。パロアルトのほか、シアトル、テキサス州オースティン、ニューヨークの店舗である。
米ウエストユニティスのセールス&ビジネスディベロップメントマネージャー、青木光政氏は「我々のようなスタートアップにとって、全米の主要なエリアの中心地で展示できるのは大きなメリットがある。それぞれのエリアで顧客の反応が違うのも見えてきた。我々の社名や製品の知名度を上げる目的もあり、費用は販促費ではなくマーケティング費から出している」と言う。
picoLinkerは現場作業などで利用するBtoB向け製品である。スマホをつないでアプリの画面を小型ディスプレーに表示し、グラスのタッチセンサーで操作できる。
価格は1セット599ドル(取材時は50ドル値引きして549ドルで販売していた)と、BtoC製品に比べると高価ではあるが、11月の販売開始から現在までに5個以上売れている。「我々も驚いているが、BtoBだけでなくコンシューマーと思われる顧客も購入している」(青木氏)。新しいプロダクトに敏感な顧客が数多く来店するb8taならではだろう。
来店客をセンサーで把握し、ファネル分析
b8taの最大の特徴が顧客のリアルな反応を知れることである。
店舗の天井にはセンサーカメラが設置されており、顧客がどのプロダクトにどの程度の時間立ち止まったのかをデータ化している。これらを基に、「立ち止まって興味を示したか」「デモを依頼したか」「購入したか」という、顧客のファネル分析が可能となる。
各スタートアップは自社のプロダクトについての測定データをリアルタイムにWeb経由で知ることができる。それらのデータを基に、出品するスタートアップ側から店舗のディスプレーに表示する価格や説明の表示を変えることも可能だ。
b8ta側はこうしたデータを把握しており、各スタートアップへの助言などに活用している。
今回取材に訪れたパロアルト店で人気があるのが、書いた内容をデジタル化できるペンとノートだ。米ネオスマートペンのプロダクトで、1冊のノートの内容を後から書き足しても、確実にデジタル化できる。専用ノートに微細なパターンが記されており、それをペンの超小型カメラで読み取ることで、どのページのどの場所に書いているのか把握できる。ペンは129ドル、ノートは1冊9.99ドル~で販売している。
この他、米ライトの小型のデジタルカメラも来店者の注目を集めている。16ものレンズを持つことで、豊かな階調表現が可能な、電動ボードや瞑想(めいそう)用のヘッドセットなども人気だという。
米No NDAのスマートカーチャージャーは、クラウドと連係する米国のスタートアップらしいサービスプロダクトだ。
スマホアプリとBluetoothで接続してクルマの駐車位置を教えてくれる。最後にクルマを止めた際の位置を記録し、アプリでその場所を案内してくれるというものだ。シガレットソケットに挿しているので、クルマのバッテリーの状態も取得でき、状態を評価してくれる。さらに運転履歴のドライブリポートを発行してくれる。ガソリン代を公私で分けて管理するような場合に便利だ。
米国ではスタートアップを育てる、ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家がいるだけでなく、b8taのようにプロダクトを実際に披露する場が数多く用意されている。b8ta自身もリテール・アズ・ア・サービスのスタートアップとして投資家から資金を得て成長している。