大阪の老舗オフィス家具メーカー「イトーキ」が、東京・日本橋に本社を移した。ベールを脱いだ新本社は、集中するため、アイデアを出すため、電話をするためと、業務ごとに細かく空間を分けたのが特徴。斬新かつ大胆なレイアウトで、一歩先行く「新時代の働き方」に挑む。

イトーキが東京・日本橋の新本社内に開設した「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」
イトーキが東京・日本橋の新本社内に開設した「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」

 1890年、大阪・高麗橋に伊藤喜商店として創業。ゼムクリップやホチキス、英文タイプライターの輸入販売に始まり、オフィス家具メーカーへと業容を拡大してきたイトーキが、日本の働き方に一石を投じた。2018年12月3日、東京・日本橋の新本社に「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」と題したショールームを開設したのだ。

 場所は、日本橋高島屋の新館が入る「日本橋高島屋三井ビルディング」。イトーキは、完成して間もないこの超高層ビルに、東京都内に分散していた4つの拠点、約800人の社員を集約。オフィスそのものをショールーム化し、「XORK Style(ゾークスタイル)」と名付けた新たな働き方の実践を始めた。

イトーキの新本社が入る日本橋高島屋三井ビルディング
イトーキの新本社が入る日本橋高島屋三井ビルディング

「XORK」に込めた意味

 「XORK」という見慣れない言葉は、いったい何を意味するのか。東京本社移転準備委員会のプロジェクトリーダー藤田浩彰氏は「WORKのWを、1つ次のアルファベットであるXに置き換えた。働き方を次のステージへと進化させるという意味を込めた」と語る。

 その最たる特徴は、業務ごとに仕事場を分ける「シングルタスク」を形にした点にある。社員の業務を10種類に分類し、それぞれに最適な空間を設計した。

 例えば、1人用のスペースとして、外部との接触を遮断した「高集中」がある。この他、「アイデア出し」「情報整理」「知識共有」「電話/WEB会議」の専用スペースをそれぞれ設け、会話しながら作業を進める「コワーク」や「2人作業」「対話」、さらには仕事から離れてリフレッシュする「リチャージ」や、特別な設備を必要とする「専門作業」の空間も確保した。

3人以上でアイデアを出し合うスペース(左)、会話しながら共同作業するのに適した「コワーク」(右)
3人以上でアイデアを出し合うスペース(左)、会話しながら共同作業するのに適した「コワーク」(右)
リフレッシュするためのスペース(左)座禅を組み、心身を整える空間も設けた(右)
リフレッシュするためのスペース(左)座禅を組み、心身を整える空間も設けた(右)

 全てを足し合わせると、93もの個室があり、800人というオフィス人口を考慮しても、極めて多い。思い切ったレイアウトは、世界基準になり始めている、ある1つの考え方に基づいて生まれた。

世界的企業が導入する「ABW」

 いつでも、どこでも、誰とでも働ける「ABW(Activity Based Working)」という概念だ。オランダのコンサルティング企業ヴェルデホーエン(Veldhoen)が提唱した考え方で、イケアやレゴ、ボルボなど、欧米を中心に300以上の導入事例がある。

 イトーキは18年10月、ヴェルデホーエンと業務提携に向けた基本合意契約を交わした。本社の移転を機に、日本ではまだ珍しい「空間機能」という考え方をオフィスに持ち込んだ。

 自席を与えられ、そこで全作業を行うという従来の働き方を覆し、業務(=Activity)ごとに最適な空間を設けるのがABWである。それを形にしたのが、先述した10種類の空間だった。

アプリで「見える化」

 こうしたオフィス設計が実際に成果を上げているかどうかは、アプリによって随時「見える化」する。新たに開発した、その名も「働き方変革アプリケーション」は、GPSやセンサーで社員の位置情報やオフィスの使用履歴をビッグデータとして収集。10種類の業務ごとに活動量の割合を棒グラフで示し、自らの働き方を把握できるようにした。

社員の活動量や働き方を「見える化」したアプリの仕組み
社員の活動量や働き方を「見える化」したアプリの仕組み

 空間機能と並んで取り入れたのは、「空間品質」という考え方である。米国の公益法人が提唱した「WELL認証」という評価システムで、働く者の健康、快適性に世界で初めて着目したことで知られる。空気、水、食物、光、フィットネス、快適性、こころという7分野で、社員の健康につながる取り組みを推し進める。

 例えば、高性能フィルターを入れることで、オフィス内のPM2.5の値を大幅に低減。社内食堂で提供する食事や飲料の糖分は30グラム以下に抑える。音漏れを防ぐ「サウンドマスキング」という設備に関しては、「通常の会社では10カ所程度」(イトーキ)のところを、オフィス全体に237カ所も配し、作業に集中できるようにした。

いかに「自己裁量を高める」か

 イトーキの調査によると、働くうえでは自己裁量が大きいほど、社員は「生産性が高い仕事をしている」と満足する傾向にある。しかし、日本において自己裁量の大きい社員数は、自己裁量が小さい社員数の4分の1程度という結果が出た。働き方や働く場所を自由に変えられるABWに基づくオフィス設計こそが、現状を変えるうえで有効だと、イトーキは判断した。

 日本では、伝統的に組織や部署ごとに机を配する「島型オフィス」が主流で、近年、自ら座る席を選べる「フリーアドレス制」が広がってきた。フリーアドレス制が在席率を基に設計されているのに対し、ABWは理想の活動割合を基に、業務ごとに空間を設ける点で、大きく異なる。ゾークスタイルは、果たして成功するのか。

 イトーキの平井嘉朗社長は「使い込んでいくことで、オフィスへの投資がいかに価値あることかを示し、新たな発見を生み出す挑戦を続けたい」と力を込めた。

「ITOKI TOKYO XORK」の開設を祝うイトーキの平井嘉朗社長
「ITOKI TOKYO XORK」の開設を祝うイトーキの平井嘉朗社長

 課題として容易に想像できるのは、オフィス内で使われる場所、使われない場所が分かれかねない点にある。藤田氏は「社員が今から何をするのか、まずは10の仕事に分けて考えるのが課題になる。トレーニングし、アプリでデータを分析しながら、バージョンアップしていきたい」と、先を見据えた。社内で試行錯誤を繰り返すことでノウハウを積み上げ、他の企業にも新しい働き方として提案していく考えだ。

 新本社では、空間を細分化するだけでなく、「まとめる=ソーシャライズする」仕掛けにも力を入れた。広々とした11階のカフェは、健康食を提供するだけでなく、社員同士が協力して調理し、チームビルディングに役立てるなどの活用も検討している。また、テレワークも本格的に解禁し、自宅の他、カフェやシェアオフィスで働くことも認める。

 イトーキのキャッチフレーズは、「明日の『働く』を、デザインする」。そんな使命を帯びて誕生したゾークスタイルを広げることは、イトーキがオフィスコンサル企業へと飛躍する契機になる。

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