中部電力が「情報銀行」に本格参入する意向であることが分かった。同社は、2018年12月中旬から日本IT団体連盟が始める情報銀行の認定審査に応募し、事業認定を取得する方針。電力会社で情報銀行事業の認定取得の意向が明らかになったのは初となる。

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 「政府が主導する情報銀行の認定を得ることで、消費者からの信用をさらに高めたい」。中部電力のコーポレート本部の黒木信彦部長は認定取得の理由をこう説明する。

 情報銀行事業は、中部電力の新たな成長分野の1つとして期待が高い。同社は18年3月に、新たな経営ビジョンを発表した。電力やガスの小売りの全面自由化など取り巻く環境が変化するなか、従来のインフラ事業に加え、先端技術を活用し、地域を活性化させる新しいサービスを成長分野として確立することを目標に掲げる。

 その具体策の1つが情報銀行だ。自社の顧客基盤の他、暮らしにまつわるデータを集約し、生活の質の向上につながるサービスの開発を狙う。多岐に渡るパーソナルデータを預けてもらうためには、消費者からの信用が欠かせない。「地域での一定の信頼はあると自負している。身近な事業者にデータを預けられることで不安を取り除き、情報銀行の社会実装を図り、地域内での情報流通を実現させる」(黒木氏)。インフラ事業者である電力会社に、チャンスがあると判断した。

 認定取得に先駆けて、中部電力は18年12月から19年2月にかけて豊田市で、情報銀行事業の実証実験を大日本印刷(DNP)と共同で実施する。両社はスマートフォン向けの情報銀行アプリを開発。同アプリ上で利用者が、自身にまつわるパーソナルデータを管理できる仕組みを提供する。

 実験には中部電力が運営する200万人が登録する会員サイト「カテエネ」から募った441人の調査モニターが参加する。中部電力の契約者であり、かつスマートメーターを設置していることを調査モニターの参加条件とした。

 実証実験は調査モニターから得たデータを実験に参加する事業者に提供。そのデータを参考に事業者が自社の顧客層に向けて、趣向に合った情報を提供できるようにする。事業者には豊田市駅前の商業施設「T-FACE」を運営する豊田まちづくり(豊田市)や、「スーパーやまのぶ」を7店舗展開する山信商店(豊田市)などが参加する。これまで、限られた情報で実施していた、事業者のマーケティング施策の高度化を図るのが狙いだ。

家電ごとの電気使用量も把握可能

 調査モニターがカテエネに登録している年齢、性別、住所といったデモグラフィックデータや、スマートメーターから取得した電力利用データも活用する。中部電力は18年9月から、カテエネ上で家電ごとの電力使用量が分かるサービスを始めている。会員の家庭で、どの家電がどのように使われているかもスマートメーターのデータから分かる。また、測定データをネット経由で取得できる体組成計をモニターに配布。この体組成計で測定した体重、身長、体脂肪や、事前のアンケートで取得した家族構成、世帯年収なども情報配信に活用する。

 これらのデータを集約・分析し、参加事業者がアプローチしやすいように、「プチ贅沢派」「時短派」「節約派」といったセグメントに分ける。このセグメント別に情報を提供できるようにするほか、体組成計のデータを活用して体形や悩みに考慮した食品などを提案できるようにする。

 一方、調査モニター向けには蓄積されているデータのうち、企業に提供したくないデータをアプリ上で自由に設定できるようにする。自分のデータがどの企業に、どんな目的で使われているのかがアプリ上で確認できる透明性を確保する。

 こうしたデータを活用したパーソナライズした情報発信の仕組み自体は、既存の技術でも実施可能。必ずしも情報銀行である必要性はない。あくまで将来の構想への第一歩という位置付けだ。今後、地域に根差した他の事業者と連携して、個人に帰属するデータは中部電力の情報銀行で管理できるようにしていく。地域でパーソナルデータを流通し、活性化につながる基盤の構築を目指す。