労働人口の減少が続くなか、正社員だけでなくアルバイトの確保も難しい時代となってきた。リクルート系が開発したシフト管理サービスは、各スタッフが持つ個人スマホと連携して管理を効率化する。煩雑な作業をなくす利便性を提供しつつ、アルバイト市場を支えるデータ基盤を育てる。

受付スタッフの人員を倍増させた田中クリニック(東京・中野)は、シフト管理を効率化するために「Airシフト」を導入した
受付スタッフの人員を倍増させた田中クリニック(東京・中野)は、シフト管理を効率化するために「Airシフト」を導入した

 東京都中野区の小売店が立ち並ぶ商店街。その一角にある田中クリニックでは2018年4月からリクルートライフスタイルのシフト管理サービス「Airシフト」を導入している。患者が増えたことで17年秋から診療時間を拡大したが、受付業務のスタッフが足りなくなった。新たに募集したことで、スタッフは従来の倍となる16人となった。

労働可能時間が短く

 増えたスタッフのほとんどは短時間勤務を希望。「一人ひとりの要望を集めたうえで、調整するのが大変だった」と田中クリニックで事務長を務める田中健介氏は話す。以前は紙の勤務希望表を配布し、日付ごとに午前と午後の時間帯で「勤務希望」「勤務可能」「不可」を記入したうえで提出してもらっていた。田中氏はそれをExcelに転記したうえで、それぞれの要望を考慮しつつ、シフト表を組む。その作業には6時間かかっていたという。

 Airシフトを導入したことで、その作業時間は「半分ほどになった」(田中氏)。スタッフは個人スマホにインストールした専用のアプリで希望時間を入力するので、転記をする必要がなくなった。Airシフトがシフトを自動で組み上げるので、田中氏は習熟度を考慮してベテランと新人を組ませるといった微調整をする。スタッフの評判も良い。同クリニックで5年間勤務している佐藤萌子さんは「電車の中の移動時間など隙間時間に予定を入れられるので、紙で入力していたときよりも楽になりました」と話す。

 リクルートライフスタイルはAirシフトの提供を4月に開始した。開発の背景には、アルバイトの採用が難しくなっていることがある。パーソルキャリアの調査によると、18年9月のパートの有効求人倍率は1.84倍で、5年前の1.26倍から上昇している。大学の勉強に真剣に取り組む学生や、扶養の範囲内で働きたいという主婦層も増えており、労働可能時間も短くなっている。「働き手のほうが強い時代となり、きちんとシフト管理ができないと辞めてしまう」(リクルートライフスタイルAirシフトサービス責任者の沓水佑樹氏)という状況にある。

Airシフトと連携するアルバイトスタッフ用のアプリ「シフトボード」
Airシフトと連携するアルバイトスタッフ用のアプリ「シフトボード」
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 リクルートライフスタイルでは13年からアルバイトやパートをしている人が自分で時間管理をするための無料アプリ「シフトボード」を配布してきた。9月の時点で利用者は約370万人。アプリと連携してシフト管理ができるSaaS型サービスは複数あるが、既に若者を中心に多くのアプリ利用者を獲得しているという点がAirシフトの優位点となる。さらに「シフト管理とチャット機能を一体化させてスタッフと細かな調整をしやすくしている」(沓水氏)ことを特徴とする。チャットの中でYes/Noを回答すれば、そのままシフト表に反映する定型のメッセージも用意している。

 Airシフトの料金は利用人数によって異なる。利用人数が10人までで月額1000円(税別、以下同)で、以降は5人ごとに1000円ずつ上がる。26~30人の場合で月5000円となる。30人までの利用が多いという。

店長の好みを覚える

 一種のAI(人工知能)を使い、シフトの下書きを自動で作り出してくれる機能も備える。何曜日の何時に何人が必要か。各スタッフは何曜日の何時に入りたいのか。当初は、この情報だけでAirシフトが下書きを作る。シフトの作成担当者が手直しをすると、その傾向を学習し、次回からはその内容を反映する。相性の良いスタッフ同士を組ませたい、この曜日は必ずこの人を入れたいといった、担当者の傾向を読み取り、使えば使うほど好みに合わせたシフトが提示できるようになるという。

 シフトの自動作成機能は、オペレーションズ・リサーチと呼ばれる効率的な経路を自動で決定する技法を使って実現している。沓水氏が中心となり、リクルート社内で開発した。

Airシフトの画面。右側にはアルバイトのスタッフとメッセージをやり取りするための欄がある
Airシフトの画面。右側にはアルバイトのスタッフとメッセージをやり取りするための欄がある
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 AIが優先する項目をあらかじめ指定する機能は、あえて搭載しなかった。「シフト管理には好みや癖がある。我々が思う項目を店長さんに提示して選んでもらっても、敬遠されてしまう可能性がある」(沓水氏)からだ。まずは気軽に使ってもらい、緩やかに好みや勘所を学習していく仕組みとした。

 シフト自動作成は実際に作業の効率化につながっている。焼肉店「焼肉家ごんたか」を経営する権享(埼玉県吉川市)代表取締役の堀切達也氏は、従来は1週間のシフト管理に2時間半ほどかかっていたが「シフトの希望が整理された状態で取り掛かれるので、サクサク作ることができ、1時間ほどに作業を短縮できた」と話す。ただ、常にAIの効果が表れるとは言い切れない。田中クリニックの田中氏は「月に1回しかシフト管理をしていないためか、まだAIの効果は実感できていない」と言う。

 サービスを通して獲得したデータは、今後のサービスの強化につなげる。1つのアイデアとして、Airシフト上で利用するチャットボットの開発も視野に入れる。相談を投げかけると「この時間はこの人を入れたらいいですよ」「金曜日はもう1人採用すると楽ですよ」などと「相棒のようなイメージでアドバイスを返してくれる」(沓水氏)という機能にする。

 リクルートライフスタイルはPOSレジサービスの「Airレジ」、決済サービスの「Airペイ」など飲食や小売を中心とした支援サービスを投入している。13年に開始したAirレジは、利用店舗が35万以上に拡大している。Airシフトも数年内に同等の規模に利用店舗を拡大することを目指す。

(写真/新関雅士)