2017年12月に200万円を超えたビットコインは60万円台まで下がり、仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)の調達額は、18年2月から10月にかけて94%減った。しかし、仮想通貨は近未来の広い利用に向けて着実に進化している。

イベント「Money20/20」に出展した仮想通貨「Dash」のブース
イベント「Money20/20」に出展した仮想通貨「Dash」のブース

 米国は10月、カンファレンスのシーズンを迎える。その1つ、ラスベガスで行われる「Money20/20」は「お金の未来」を題目にFinTechの最前線を扱う。12年と、比較的最近始まったカンファレンスだが、今ではシンガポール、中国・杭州、アムステルダムでも開催される世界的な存在へと急成長した。今回も、JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、シティグループといった米大手銀行が参加するなか、仮想通貨とブロックチェーン関連ビジネスも多数登場、総計100時間以上あったスピーカーセッションでも、3日目には「オンラインペイメント革命のための仮想通貨」という専門トラックが設けられた。

 このMoney20/20で感じられたのは、仮想通貨のメインストリーム化である。

ベネズエラで決済に使われる仮想通貨「Dash」

 例えば、目立つ場所に大きなブースを出していた「Dash」。14年に登場した当初は投機家による価格操作が多数行われ、15年の改称まではダークコインと呼ばれた「いわくつき」のコインだったが、継続的な改良を続けており、ビットコインなど他の主要な仮想通貨と比べて取引が早くて安いのが特長。

 取引タイプは2種類あり、コストは0.0005~0.001ドル程度だが取引完了まで15分かかるタイプと、数セントかかるが約3秒で終わるタイプがある。この特長を生かしてペイメントのインフラになることを模索中だ。

 18年のインフレ率が100万%を超すと国際通貨基金(IMF)が予測するベネズエラでは、すでに自国通貨が機能していないと言っていい。そこで、Dashのウオレットアプリを初期導入したAndroid携帯を販売し、これまで仮想通貨を触ったことがない人でも簡単にDashが使えるようにした。すでに3000以上のリアル店舗でDashで買い物ができる仕組みが構築されたと発表されている。

 このDashは2000以上の仮想通貨が名を連ねる時価総額ランキングで、12位に付ける規模まで成長した(出所:CoinMarketCap、18年11月17日時点)。ちなみに、Dashの運営母体は、いわゆるDAO(Decentralized Autonomous Organization=自律分散型組織)であり、営利企業ではない。1000Dash(約1500万円)を預託したMasternodeの運営者による投票で意思決定がなされる。

ビットコイン暴落でも機関投資家ニーズが高まるワケ

 一方、米国を中心とした先進市場で関心が高いのは、機関投資家向けの仮想通貨サービスだ。仮想通貨取引に必要な秘密鍵を預かるのが特徴。また、大規模で高速な取引ができ、複数の担当で1つの口座を運用するなど機関投資家のニーズに応えたサービスを提供する。

 米国最大の仮想通貨取引市場であるコインベースは、今年になって機関投資家専用の仮想通貨取引市場・預かりサービスを開始し、Money20/20ではリスク管理と安全性確保の重要性について力説していた。例えば暗号鍵を生成したラップトップは即破壊し、QRコードに印刷した暗号鍵を世界に分散して保有するといった念の入れようだ。

 そして、Money20/20のキーノートに登場したのは銀行間決済の要になろうとする米リップルの創業会長だった。同社は日本で、住信SBIネット銀行、スルガ銀行、りそな銀行ローンチと組み、個人間送金アプリ「マネータップ」を18年10月に提供開始。数年前から銀行と次々と戦略的提携を発表してきたが、ようやくサービスの提供が始まった段階だ。

 銀行と関係が深いリップルがキーノート役を担った背景には、米国の主要金融機関が、大手顧客の仮想通貨運用ニーズへの対応に迫られているということがある。「仮想通貨は独立したアセットクラス」という認識が広まりつつあるからだ。仮想通貨は、株などの既存アセットとの価格変動の相関が極めて低いため、ポートフォリオの一部に取り込むメリットが大きいと考えられるようになってきている。

 既存の金融プレーヤーも機関投資家向け仮想通貨ビジネスに相次いで参入している。ニューヨーク取引所など複数の取引機関を世界で運営する米インターコンチネンタル・エクスチェンジ(ICE)は子会社Bakktを設立した。12月早々にはビットコイン先物取引を開始予定だ。大手金融の米フィデリティも、機関投資家専門に仮想通貨取引・預かりサービス提供を行う子会社を創設している。

 冒頭で書いた通り今年になってICOによる資金調達は壊滅的に減り、ビットコイン価格は最盛期より7割以上、下がった。しかし、それでもなお、ビットコインの市場価値は10兆円を下らない。これを米国の多くのプロたちは「バブルがはじけても価値を失わない本物の資産の証明」と受け取り、「新たなアセットクラスの誕生」という好機を逃さないために必死な努力をしている。それが、大手金融機関とベンチャー双方の言動から伝わったのが今回のMoney20/20であったと言えよう。