小学館とディー・エヌ・エー(DeNA)が共同事業として女性向けキュレーションメディア「MERY」を再開させてから2018年11月21日でちょうど1年を迎えた。ブラウザーベースからアプリを軸とした事業へと変革を遂げることで、収益面で徐々に復活の兆しが見え始めている。19年3月の単月黒字も視野に入った。

運営再開から1年を迎えた女性向けキュレーションメディア「MERY」
運営再開から1年を迎えた女性向けキュレーションメディア「MERY」

 MERYはかつて若年女性から圧倒的な支持を集め、一世を風靡したキュレーションメディアだった。月間2000万人が訪れ、月間のPVは4億超え。その存在感は強烈だった。現MERY(東京・千代田)の社長であり、小学館の取締役でもある大西豊氏も「アプリをダウンロードして毎日見ていた。当時、小学館のデジタルメディアを担当していたが伸び悩んでいた。そこに現れたMERYを見て、自分のやりたかったことはこれだったんだと思い知らされた」と羨むほど。

MERY 社長 大西豊氏 1981年株式会社小学館入社。「CanCam」をはじめとした女性ファッション誌で編集長を歴任。2007年に「AneCan」を創刊。09年に取締役就任、デジタル事業局担当。15年5月にマーケティング局担当。17年8月にMERY取締役副社長に就任。18年7月より現職
MERY 社長 大西豊氏 1981年株式会社小学館入社。「CanCam」をはじめとした女性ファッション誌で編集長を歴任。2007年に「AneCan」を創刊。09年に取締役就任、デジタル事業局担当。15年5月にマーケティング局担当。17年8月にMERY取締役副社長に就任。18年7月より現職

 破竹の勢いだったMERYに暗雲が立ち込めたのは16年11月のこと。DeNAが運営していた健康情報キュレーションメディア「WELQ」で、医学的根拠に乏しい記事の掲載や、著作権を無視した写真の転用などの問題が相次ぎ発覚。これを発端に、DeNAのすべてのキュレーションメディアが停止する「WELQ問題」へと発展した。その火の粉はMERYにも降り掛かった。MERYは別会社としてDeNAとは独立した運営方針であることを主張したものの、内部調査から転用などが認められ最終的に閉鎖に追い込まれた。

 再開のめどは立たないものと思われていたところに、救いの手を差し伸べたのが小学館だった。「旧MERYは運営体制など、問題が山積みだったが、『かわいい』を伝えるネットメディアとしては我々よりもはるかに正しい伝え方をしていた」と大西氏は言う。媒体のコンセプト、そして閉鎖を悔やむ読者の声がSNSに多数投稿されるほど愛されていた強いブランド力に可能性を感じて、立て直しを決めた。

再開に向けて社長から厳しい言葉

 再開に向けては奇異の目にさらされることも少なくなかった。「失敗したMERYと組んで本当にうまくいくのかという目が大方だった」(大西氏)。小学館の相賀昌宏社長からは「間違いはできないからね」とくぎを刺されたという。

 一度失った信用を取り戻すのは容易ではない。まず、最大の問題だった記事の制作方法を大きく見直した。旧MERYはネット上に投稿されている写真などを、投稿者の許諾を得ずに記事に転用していたことが問題となった。これを防ぐための仕組みと体制を整えた。ライターは変わらず、読者と同世代の女子大生など、100人超をアルバイトとして雇用している。「等身大でかわいいを発信する。それがMERYの良さ」(大西氏)だからだ。ただし、Instagram上の写真を使う場合には新たに開発したシステム上から、コメント欄を通じて許諾を得るなど、無断転用を起こさない記事作りに取り組んでいる。また、編集体制を築き、編集と校閲の二重チェックにすることで厳しく確認をする。

 ところが、再開当時は編集の意向が強く、経験の少ないライターとの間で原稿の差し戻しが繰り返されて完成原稿が作れないという状況に陥った。「真面目にやり過ぎた」と大西氏。そこで、「余計な手を入れないことにした」(大西氏)。多少、接続詞などに気になる部分があってもあえて手を加えない。「編集の過程で30歳、40歳の言葉になっては読者に刺さらなくなる」からだと大西氏は説明する。こうして効率化を図るなどしたことで、現在は毎日70本の記事を掲載できる体制を整えた。従来はブラウザーベースだったが、現在はアプリを中心に利用者が戻りつつある。

 もっとも、数字だけ見ればMAU(月間利用者数)は最盛期の6分の1以下の300万人、月間PV(ページビュー)も3分の1以下の1億2000万と、以前の規模にはまだ遠い。しかし、記事の作成方法を見直し、広告主の信頼を取り戻したことで広告は満稿状態が続いているという。事業モデルも大きく変えた。

ブランド型に振り切りPV単価2倍超

 収益源は大きく2つ。1つは広告だ。広告商品はすべて予約型のタイアップ広告のみ受け付けており、ネットワーク系の広告は導入していないという。旧MERYはフィード型のネイティブ広告を導入するなど、多角的な収益化を目指した。新MERYではトラフィック量に収益が左右されないブランド型広告に振り切った。例えば、アプリのファーストビューに広告を12時間限定で表示して誘導する記事広告は、5万PV保証で260万円で販売している。トラフィック型からブランド型へと販売する商品を切り替えることで、PVの単価は倍以上になったという。「広告枠も12月までは満稿状態が続いている」とMERYの青木秀樹広告ビジネス部長は明かす。

 18年11月からは動画広告の販売も始めた。こちらはアプリのファーストビューに動画広告を表示する広告商品を40万回再生保証で制作費込み400万円で販売している。ほかにもリアルの支援にも手を広げ始めており、ブランドの店舗設計やイベントとの連携など、「立体的な広告手法を広告主に提供している」(青木氏)と言う。

 もう1つが小学館のWebコンテンツの受託開発だ。MERYの運営で培ったWebメディアを成長させるノウハウや、動画制作力を小学館の運営支援に活用。美容情報サイト「美的.com」や「Precious.jp(プレシャス)」をはじめとする小学館の女性Webメディアは「軒並み利用者数が2~3倍に成長」(青木氏)するなど、シナジー効果も生まれ始めている。

MERYの運営で培ったノウハウを小学館のメディアにも活用。「美的.com」などは軒並み利用者数が2~3倍に増加しているという
MERYの運営で培ったノウハウを小学館のメディアにも活用。「美的.com」などは軒並み利用者数が2~3倍に増加しているという

 「かつてCanCamも、MERYと同じような方法で制作をしていた時代がある」と大西氏は振り返る。見出しこそ編集部門が付けるものの、肝心の中身は読者と近しい層が夕方からアルバイトとして編集部に出社して執筆する。そうした編集体制で読者と共に成長してきた。「Webメディアになり、それになぜ気づけなかったんだろう」と大西氏は悔しがる。忘れかけていた、読者にとって等身大のコンテンツの作り方をMERYに教わった。大西氏はかつて憧れたMERYに小学館の編集力を組み合わせることでブランドの信用を取り戻し、再び成長軌道に乗せることを目指す。

この記事をいいね!する