無印良品を展開する良品計画の2020年に向けた店舗戦略の一端が明らかになった。 従来の物販店舗に、ホテルやコワーキングスペース、農産物販売など+αの機能やサービスを組み合わせた新しいタイプの店舗開発を拡大する考えだ。

2019年4月、東京・銀座にオープンする「MUJI HOTEL GINZA」。良品計画は、コンセプトの立案と内装デザイン監修を担当し、建築設計会社のUDS(東京・渋谷)が企画、内装設計、運営および経営を手掛ける。18年6月に中国・北京に開業した「MUJI HOTEL BEIJING」の企画、内装設計、運営もUDSによるもの
2019年4月、東京・銀座にオープンする「MUJI HOTEL GINZA」。良品計画は、コンセプトの立案と内装デザイン監修を担当し、建築設計会社のUDS(東京・渋谷)が企画、内装設計、運営および経営を手掛ける。18年6月に中国・北京に開業した「MUJI HOTEL BEIJING」の企画、内装設計、運営もUDSによるもの

 良品計画は、19年4月、東京・銀座にホテル「MUJI HOTEL GINZA」を開業する。同ホテルも同社が進める「店舗+α」の出店戦略の一環だ。読売新聞東京本社と三井不動産が銀座3丁目に開発する複合ビルの地下1階から6階に世界旗艦店「無印良品 銀座」を出店。店舗の上の10階までを全79室のホテルとする。ホテルのレストランとフロントは6階にあり、店舗とホテルを空間的に連続させて、客を無印良品の世界にいざなうよう演出している。

 ホテル内では、家具、家電、アメニティーなど自社商品をふんだんに使い、無印良品が提案する生活スタイルを表現する。そうした商品群を通して無印良品の魅力を体感した宿泊客が、そのまま下の店舗で商品を購入するという仕掛けだ。

 同社は、今回のホテル開業に合わせて、ホテル仕様のタオルを開発。それを一般向けにアレンジして発売する計画もある。ホテル運営によって得た知見を今後も商品開発に生かしていく。

 こうした「店舗+ホテル」という業態を世界各地で展開する。すでに、中国の北京と深センで、MUJI HOTELをオープンさせている。特に最初に立ち上げた深センでは、この業態の可能性に手応えを感じているようだ。同地域は開発が急速に進むエリアだが、「従来の店舗だけでは出店が難しい立地だった」と同社の執行役員でソーシャルグッド事業部長の生明弘好氏は説明する。それでも、店舗とホテルを組み合わせることで、「物販の業績は好調で、ホテルの予約も取りづらい状況」(生明氏)を作り出している。

 欧州や米国の現地企業からもMUJI HOTELの出店オファーが入っており、現在、実現性を検証している段階だという。20年に向けてMUJI HOTELが世界各地に広がる可能性は高そうだ。

地方では地元密着の出店も模索

 良品計画は地方でも「店舗+α」の戦略を推し進めている。

 東京都心からクルマで走ること1時間半。房総半島の中心付近を抜ける国道沿いに「里のMUJI みんなみの里」がある。いわゆる道の駅だ。

 良品計画は、千葉県鴨川市から管理者の指定を受け、18年4月27日に同施設をリニューアルオープンさせた。無印良品の店舗と飲食業態「Café&Meal MUJI」に地元農産物や加工品などの物産販売所を組み合わせたところに特徴がある。「無印良品の店舗単体では難しくても、農産物販売所を併設することで事業として成立する」と生明氏は語る。

 興味深いのは、同施設に食品加工機器などを備え、地元企業や生産者が利用できる「開発工房」も併設したところだ。地元での事業創出をサポートし、地域活性化に貢献する狙いがある。

良品計画が指定管理者として運営する道の駅「里のMUJI みんなみの里」(千葉県鴨川市)
良品計画が指定管理者として運営する道の駅「里のMUJI みんなみの里」(千葉県鴨川市)
みんなみの里では、無印良品の店舗と飲食業態「Café&Meal MUJI」に加え、地元農産物や加工品などの物産販売所が併設する。施設内には、地元企業や生産者が商品開発などに利用できる食品加工機器も設置し、地域活性化の拠点としての役割も果たす
みんなみの里では、無印良品の店舗と飲食業態「Café&Meal MUJI」に加え、地元農産物や加工品などの物産販売所が併設する。施設内には、地元企業や生産者が商品開発などに利用できる食品加工機器も設置し、地域活性化の拠点としての役割も果たす

 同社は他にも千葉県内で廃校を利用して、新しいスタイルの事業拠点を2カ所立ち上げた。

 その一つは、千葉県夷隅郡大多喜町で13年に廃校になった旧老川小学校の校舎を改装したコワーキングスペースだ。地元在住のフリーランスの事業主らの利用を見込んでいる。他にこの場で料理やものづくりのワークショップを月に2回開催するなど、地域住民の交流の場としての役割も果たす。こうして地元住民との距離を縮めつつ、将来的には物販も始める考えだ。

 もう一つは千葉県南房総市にある旧長尾幼稚園・小学校。WOULD(千葉県南房総市)と良品計画が共同で立ち上げた多目的スペースで、宿泊施設やシェアオフィス、レストランなどを運営する。

 良品計画は、この校庭を利用し、同社が開発した広さ約9平方メートルの小屋「無印良品の小屋」と農園をセットにして販売している。価格は、300万円(税込み、以下同じ)で、他に管理費が月額1万5000円からと施設設備費50万円が必要。都会に暮らす人がセカンドハウスとして利用することを想定している。

 市町村合併により地方を中心に廃校が増加。同社はこうした遊休施設を活用し、新たな機能を付加した店舗を増やしていく計画だ。「将来的には、医療施設を併設した店舗など地域の課題を解決できる店舗形態を開発したい」と生明氏は語る。

 同社が新しいタイプの店舗形態を模索する背景には、20年に向けてさらに加速する少子高齢化と人口減少がある。これらの要因で市場は確実に縮小し、良品計画のようなSPAを含めた小売り企業を直撃する。もはやターミナル駅近くや商業施設に店舗を構えて客を待っているだけでは、成長できないのは明らかだ。店舗に+αのサービスや機能を盛り込み、消費者の生活の場に店舗をどれだけ近づけられるかに、小売りの生き残りが懸かっている。

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