愛知県の中部国際空港(セントレア)が飛躍の時を迎えている。相次ぐ新規就航で路線が広がり、旅客数が増えているだけではない。2018年10月に斬新な複合商業施設を開業し、19年には空港に愛知県国際展示場を併設する。航空機に乗らない人をも取り込む、新しい空港の形がそこにある。
2005年2月の開港から13年余り。中部地方の空の玄関口、セントレア(愛知県常滑市)が真価を発揮し始めた。18年10月28日、スターフライヤーが台湾の桃園国際空港へデイリー便、10月30日にはLCC(格安航空会社)のタイ・エアアジアXがバンコク線を開設。19年1月16日には、タイのLCCタイ・ライオン・エアが乗り入れる予定。いずれもセントレアにとって、初就航である。
他空港に比べて発着枠に余裕があることもあり、セントレアを選ぶ航空会社が急増している。実は旅客数は05年度に1235万人を記録したのをピークに低迷を続けていたのだが、このところ少しずつ持ち直し、18年度には初めて1300万人に達する見込みだ。
インバウンド客の増加で、他の空港も旅客数は伸びているが、セントレアは、飛行機に乗らない人をも取り込み始めている点に特徴がある。
大きな転機は、18年10月12日。駐車場にほど近い場所に「FLIGHT OF DREAMS(フライト・オブ・ドリームズ)」という商業施設をオープンしたことだ。目玉は「ドリームライナー」の愛称を持つボーイング787型機の常設展示。全長60m弱、重さ100t強、787シリーズのなかでも貴重な初号機「ZA001」を間近で眺められる。
初号機がセントレアへと贈られたのは、中部エリアが航空部品を製造し、米ボーイングに出荷しているからだ。実機を丸ごと1機展示しているだけでも珍しいが、チームラボがその実機の周りに鮮やかな映像美を重ねた。
花火が打ち上がる。クジラの群れが縦横無尽に動き回り、実機を際立たせる。使われているプロジェクターの数は93台。「1つの映像作品としては、おそらく世界で類を見ないほど大掛かり」(チームラボの猪子寿之代表)なプロジェクションマッピングだ。4階の観覧エリアから眺めると、壁と床の境界がなくなって見え、787型機と共に空を飛んでいる感覚を味わえる。
施設の見どころは、これだけではない。ボーイング創業の地、米シアトルの街並みを再現したフードテラスや物販店が立ち並んでいるのだ。
シアトルの老舗クラフトビール醸造所「ザ・パイクブリューイング レストラン&クラフトビアバー」や、チョコレート専門店「フランズチョコレート」、すしの名店「SHIRO KASHIBA」など、日本初上陸、新業態尽くしのラインアップ。翼の真下や航空機を眼下に収めるアングルで東京にも大阪にもないグルメを味わえる、特別なひとときが過ごせる。
地元愛知県出身で米大リーグシアトル・マリナーズのイチロー選手のユニホームも展示。航空ファン垂涎のグッズを集めた米国外初のボーイングストアもある。フライト・オブ・ドリームズは、旅行しない人をも呼び込むのに十分なポテンシャルがある。
空港を観光スポット化する取り組みは、セントレアが初めてではない。例えば、羽田空港国際線ターミナルには江戸の街並みを再現したグルメ街「江戸小路」がある。伊丹空港は18年4月、開港以来の大規模なリニューアルで生まれ変わり、ワイン醸造所併設のバルなど個性的なショップがオープンした。19年4月に民営化を予定する福岡空港も「ラーメン滑走路」など、レストラン街を充実させている。
空港をアトラクションに
このように、食を切り口に空港の商業施設化を進める動きは全国的に広がっている。セントレアはこの流れをさらに先鋭化させ、「テーマパーク」というべき空間を作り上げることで、空港のアトラクション化に弾みをつけた。
フライト・オブ・ドリームズの年間集客目標は150万人。しかし、セントレアを運営する中部国際空港の友添雅直社長は「早期に300万人まで増やしたい」と先を見据える。目標を達成できる明確な青写真があるからだ。
LCCの就航増に対応し、まずは19年上期中にLCCターミナルを新設する。19年9月には国内最大級、6万平方メートルの展示面積を誇る愛知県国際展示場をオープンさせる。新ターミナルも国際展示場もフライト・オブ・ドリームズに連絡通路で直結させる計画だ。
なかでも展示場を併設するのは国内の国際空港では初の試みで、セントレアに足を運ぶきっかけになる。LCCターミナルとつながれば、出発、送迎前後のついで利用も見込める。「LCCターミナルは安く作るのが大前提。これまでのターミナルのように多数の店舗を入れられない代わりに、このフライト・オブ・ドリームズを利用してほしい」(友添氏)。
台風で見せた潜在能力
セントレアの受け入れ能力の高さを図らずも世に示した出来事があった。18年9月上旬、列島各地に大きな爪痕を残した台風21号である。関西国際空港のメインターミナルやA滑走路が浸水し、離発着できなくなった期間、受け皿となったのがセントレアだった。伊丹空港や神戸空港には国際線を受け入れるためのCIQ(税関、出入国管理、検疫)設備がなく、セントレアに白羽の矢が立った。
将来的な就航便の増加を見越し、セントレアを擁する空港島は、今まさにホテルの開業ラッシュを迎えている。10月1日には「セントレアホテル」に客室数160室の新棟「Pacific Side(パシフィック サイド)」がオープン。11月1日には初の外資系ホテル「フォーポイントバイシェラトン名古屋 中部国際空港」が進出した。19年には東横インも新棟をオープンする予定で、空港島内のホテルは、計3500室弱と17年末時点と比べて倍増する。
セントレアは名鉄名古屋駅から特急「ミュースカイ」(片道1230円)で最速28分。決して市街地から近くないが、斬新なテーマパークを核に、ホテルの誘致やイベントホールの整備など、“街づくり”を思わせる再開発を進めることで、息を吹き返そうとしている。いかに人々を呼び込み、滞在させるか。空港関係者ならずとも学ぶべきことがある。
(写真/川柳まさ裕)