日野自動車は、IoTデータを活用してバスやトラックが搭載するディーゼルエンジンの異常を、機械学習アルゴリズムによって予測する取り組みを開始した。車両1台1台の使われ方に合わせた「トータルサポート」の提供に結びつけて、顧客満足度の向上に役立てたい考えだ。

大型トラック「日野プロフィア」
大型トラック「日野プロフィア」

 国内ではバスやトラックのメーカーとして知られている日野自動車は、ICTを活用した顧客サービス「HINO CONNECT」の提供を2018年4月に開始した。HINO CONNECTでは、対応したバスやトラックに搭載した通信端末を使って、ドライバーへの各種情報提供や緊急時の車両位置特定、運行管理者への車両状態の通知など、情報のやり取りを実現する。そうした基盤の上で日野自動車は、IoTデータを活用してバスやトラックが搭載するディーゼルエンジンの異常を予測する取り組みを開始した。

 米テラデータが開催したプライベートイベント「Teradata Analytics Universe 2018」(18年10月14~18日、米ネバダ州ラスベガスで開催)の講演で明らかにした。

 日野自動車は、17年に発売した新型「日野プロフィア」「日野レンジャー」と、同年に改良を加えて発売した大型観光バス「日野セレガ」に通信端末を搭載し、いわゆる「コネクテッドカー」のサービスの下地を整えてきた。GPSによる位置情報や車載の各種のセンサーから得られる車両IoT情報を、4Gのモバイル通信で収集するものである。

 登壇した日野自動車 情報企画部分析グループの熊崎千晴氏は「『もっと、はたらく トラック・バス』をスローガンとして、トラックやバスを作るだけでなく、IoTやビッグデータを使って新しい価値を社会に届ける会社への変革を目指している。多様化する顧客に対して、効率的に安全で環境意識をもって仕事ができる環境を届けたい」と方向性を語る。

予測で突然のダウンタイムを減らす

 HINO CONNECTでは、安全装置作動の通知機能、省燃費運転サポートのためのツールであるエコツリーレポートのウェブ閲覧機能、緊急時車両位置のウェブ閲覧、車両状態通知機能といった機能を提供する。その上で、今後の顧客サービス向上の一つの方策として、車両運用のダウンタイムにつながるような異常を予測、予知する手法を開発している。「ロケーションデータ、メンテナンス記録、不具合のコード、事故のログを、テラデータのデータウエアハウスを使って管理している。こうしたデータを分析することで、ダウンタイムなく車両が働けるようなサービスを提供したい」(熊崎氏)と話す。

 日野自動車が今回のデータ分析を通して最終的に目標とするのは、車両の異常や不具合によるダウンタイムを削減し、業務を最大限に遂行できるような顧客のアップタイムの最大化である。突然の修理で稼働できないような事態を防ぐために、事前に不具合を予測して修理したり、メンテナンスの必要性を予測して予防メンテナンスのスケジュールの提案をしたりできるようにする。車両1台1台の使われ方に合わせた「トータルサポート」の提供の一貫として、顧客満足度の向上に役立てたいもくろみである。

排気ガス除去フィルターのデータを収集

 不具合の予測の検証に用いたのは、ディーゼルエンジンから発生するすすなどの排気ガスを除去するフィルターの状態のデータと、不具合が生じた状況を含む車両のIoTデータである。ディーゼルエンジンはその構造上、すすなどの粒子状物質(PM)を排出してしまう。それらのPMなどの灰を含んだ排気ガスは、ディーゼル排気微粒子除去フィルター(DPF=Diesel Particulate Filter)に通すことで浄化している。

 一方、DPFにたまった灰は高温で焼却されるのだが、運行しているうちにDPFが詰まって本来の性能を発揮できなくなり、不具合につながることがある。こうしたDPFの状況と不具合の関係をデータ分析で予測し、事前にメンテナンスのタイミングを提示できるようにしようというのだ。

 熊崎氏は、「収集したIoTデータから、不具合を予知、予測する方法の検討を行った。不具合が起こる前に予測することを目的とし、まず車両に生じた不具合を状況別に分類するモデルを作成した」と語る。不具合を分類するための分析ステップでは、オープンソースの統計解析向け言語のR言語を用い、教師あり機械学習アルゴリズムのサポートベクターマシン(SVM)で学習して分類のモデルを作成した。

 次に、不具合発生の将来予測については、ARIMA(Autoregressive integrated moving average、自己回帰和分移動平均)モデルを使った。分類と同様にSVMでモデルを作成し、次に不具合が発生するスケジュールを予測することにした。

日野自動車が取り組む異常予知の概要
日野自動車が取り組む異常予知の概要

 実際にデータとして利用したのは、HINO CONNECTの機能を社外提供に先行して装備した車両19台。新車ではなく、それまでにも実際に運行していた車両のデータで、2年分収集した。運用中の車両ということもあり、19台のうち7台に不具合が生じ、このデータを学習させることで、不具合を分類するモデルと、不具合発生のタイミングを予測するモデルを構築した。「現時点では、モデルを作って、検証している段階」(熊崎氏)とのことだが、データ分析した結果からDPFに関連する不具合の確率を算出でき、次の点検のタイミングを提案する目標の達成へ手応えを感じているという。まだ商用サービスの提供に向けた検証段階だが、今後の実用化への期待が高まる。

データ活用の成果を環境や交通安全にも

 日野自動車はDPFの詰まりからくる不具合の予測モデルだけでなく、さらに幅広くデータ分析の活用を目指している。「最終的な目標は、突然の不具合を防ぎダウンタイムを短縮できるような、メンテナンスの提案。DPFだけでなく、他のシステムでも予測モデルの構築を始めている」(熊崎氏)。適切なメンテナンスのタイミングを提案するには、予測の正確度を高める必要があり、またDPF以外の不具合についての予測モデルの確立も求められる。その点は、今後の開発や検証に委ねられることになる。

 さらに、「IoTで得られるビッグデータは、アフターサービス以外の分野でも活用していかなければならない」と熊崎氏は語る。画像データ、事故の情報、不具合の情報など、ビッグデータとして活用するデータの範囲を広げて統合して分析することや、異なる分析メソッドを適用した分析も必要だと見る。

 バスやトラックは法人を対象にするだけに、データ分析から得られた情報は、ダウンタイム削減などの業務の効率性の提供にとどまらず、環境や交通安全などの社会課題の解決にもつながる可能性がある。熊崎氏は、「R&D部門、マーケティング部門、生産部門などとも連携し、バスやトラックから得られるIoT情報を活用して社会とパートナーとしてつながっていけるような新しい機会を生み出していきたい」と、データ分析が自動車メーカーの変化につながるような将来を見据えている。