「キャッシュレスでストレスフリーな滞在体験」を提供するのが米ディズニーワールドの「マジックバンド」だ。空港に着いた瞬間からホテルのチェックインやパーク内の支払いや予約まで、すべてがマジックバンドとスマートフォンで完結する。中国とは異なる形で未来のキャッシュレス社会を実現している。

東京ディズニーリゾート(TDR)の新たなスマートフォン向けアプリが来場者の間で話題になっている。2018年7月に発表されたアプリで、紙のガイドマップや、ウェブ、アプリなどでばらばらに提供されていた情報や機能が、1つのアプリに集約されて便利になった。特に人気なのが、パーク内で販売されているグッズをスマートフォンで購入し、自宅へ配送できるサービスだ。パーク来場当日にのみ購入可能で、パークに行った人だけが買える限定感がある。お土産を購入するための時間も持ち帰りの荷物も減らせると好評だ。
日本のアプリも便利だが、世界中のディズニーパークの中で、圧倒的に便利で快適とダントツに評価が高いのが、米フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート(WDW)で使われている「マジックバンド」だ。
WDWは世界最大級のテーマパーク。4つのパークと2つのウオーターパークを有する。年間来場者数は東京ディズニーリゾートの2倍の約6000万人。その大半が州外からの客で、多くは合計3万室以上ある27の直営・公式ホテルに1週間近く滞在し、パーク内で遊び回る。
パーク訪問前にファストパス予約
そうした夢の国の“住民”に、「キャッシュレスでストレスフリーな滞在体験」を提供するのが、Webサイトとマジックバンドが連動する「My Disney Experience」だ。13年に導入され、機能と使い勝手は毎年進化している。実際にどんなストレスフリーな体験ができるのか。
まずは、パークでの時間を目いっぱい楽しむための計画、予約機能だ。My Disney ExperienceのWebサイト上で、詳細なプランニングができる。ホテル、レストランやショーの予約などに加えて、うれしいのがパーク訪問前にファストパスの予約ができること。パーク内で予定が変われば、スマホで簡単に予約の変更もできる。
訪問者は各自、マジックバンドをホテルやパーク滞在中にずっと手首などに付けている。RFIDのチップが組み込まれており、これが各自の「デジタルID」となり、Webサイト上で登録した予約情報、入力したクレジットカードなどの支払い情報などと本人とを結びつける役割を果たす。
マジックバンドはパーク到着前に自宅へ郵送することもできる。事前に受け取っておくと、フロリダの空港に着いた瞬間から、ストレスフリーな体験が実現する。空港にある機械にマジックバンドをかざすだけで、そのままシャトルバスに乗ってパークへGo。空港から滞在ホテルへの荷物の移動の心配も要らない。遊び終わってホテルの部屋に戻ると、荷物が待っていてくれる。
便利と好評なキャッシュレス払い
パークに到着したら入場ゲートにこのマジックバンドをタッチする。ファストパスを予約した時間になったら乗り場に向かって、ゲートの前にある専用機器にタッチ。ショーも、レストランも、ミッキーとのグリーティングも、Webサイトで予約をすればバンドを付けて向かうだけでいい。
スマホの電池切れや紛失にも対応している。パーク内のKIOSKという端末で、自分の予約情報を確認できる。バンドさえあれば、パーク内を心配なくスムーズに回れる。さらに、ホテルのキーにもなる。
こうした予約管理に加えて便利だと好評なのが、バンドを使ってのキャッシュレスな支払い機能である。パーク内、ホテル共に、レジにある端末をバンドでタッチすると支払い完了。パーク滞在中は現金もカードも全く持ち歩かなくていい。
子連れにうれしい機能が、バンドごとに利用限度額を設定できること。子供たちに各自のバンドを渡しても利用限度額が設定されているため、1日いくらまでという制限つきで、自由に買い物をさせられる。バンドをタッチしてポップコーンを買うなんて、子供たちにはまさに夢の体験だろう。

このマジックバンドは、ディズニーホテル滞在者や年間パス保有者には無料で提供される。一般の来場者も購入可能で、ファストパスを含めた予約機能などを使いたいために、マジックバンドを入手する来場者が圧倒的に多いようだ。
価格は12.95ドルから。キャラクターなどがプリントされたものは22.99ドルで販売されており、コレクション性の高い限定デザインのものもディズニーファンには人気だ。Webサイト上で事前にカスタマイズした場合は、名前を印字したマジックバンドが届く。
来訪者の情報をリアルタイムにキャストへ
導入から約5年が経過した現在、スタッフのサービスの向上にも使われ始めた。来訪者の情報をリアルタイムにキャストに提供して、カスタマイズした質の高いサービスを実現しようというのだ。実際に始まったサービスは、リピーターに「お帰りなさい」と声をかけるなど、まだシンプルで限定的だが、今後は「私の気持ちや好みを理解した夢の国ならではのサービス」が可能になるのだろう。
マジックバンドの情報から、来場者の好きなキャラクターや子供の誕生日、その日の滞在プランなどをキャストがリアルタイムに把握し、パーソナライズされた会話やサービスをする。そんな未来が到来すると予想される。
もう1つの進化は、ディズニーはあまり公にしていないが、パーク設計や商品開発にデータを活用する可能性だ。
来場者の大半が家族で、1週間程度をパークとホテルで過ごすディズニーワールドでは、位置や決済を含め、膨大なデータが収集できるはずだ。バンドから分かるデータは、滞在したホテルとその期間、パーク滞在時間に加えて、利用した店舗や通過ゲート、アトラクション、キャラクターとの交流などパーク内での行動と移動の詳細データだ。
こうしたデータが、パークのゴミ箱の置き場所、化粧室への誘導など、魅力的で過ごしやすいパーク設計を考えるうえで、有効な情報になるだろう。
購買データも分析できる。購入したグッズや食べ物の種類や金額のデータと、行動データと属性データを掛け合わせれば、より顧客理解を深められ、商品開発に役立てることができる。こうしたリッチなデータを、消費財メーカーなどに販売することも検討できるかもしれない。
夢の国でのストレスフリー、キャッシュフリーな体験と仕組みが、今後さらなる発展を遂げるのか楽しみだ。それと同時に、日本でも普及が進むキャッシュレス決済サービスが、こうしたストレスフリーな体験を実現するものになってほしいと一消費者として願う。