経営赤字が続いていた米シアーズ・ホールディングスは2018年10月15日、米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請し、事実上倒産した。その破綻の真相を米国在住の流通コンサルタントである後藤文俊氏が読み解く。
創業から125年の歴史を持つ米シアーズ・ホールディングスが破綻した。百貨店シアーズとディスカウントストアのKマートは裁判所の管理下に置かれ、店舗売却や負債の圧縮、レイオフなどに取り組み、事業の継続を模索する見込みだ。

この破綻の原因は、米アマゾン・ドット・コムなどEC企業の台頭や、ディスカウント店の攻勢で客を奪われて、業績が低迷したことではない。シアーズが巨大化し過ぎたが故に身動きが取れなくなったわけでもない。一言で言えば、買い物客がシアーズやKマートに行きたくなくなったからだ。消費者はシアーズの店舗を避けていた。これは10年ほど前から両社をウォッチしていれば、専門家やコンサルタントでなくても分かることである。
今回のシアーズ破綻についてネットなどでもさまざまなコメントが出ている。だがアマゾンとの競合や、デジタル時代の業界変化などを理由に挙げる人がいたら、それは的外れだ。そうした人はシアーズやKマートの売り場に行っていないか、行っても何も見ていない。店舗に行って売り場の様子を見れば、破綻の理由は、子どもでも分かる。
シミだらけ、デコボコのフロアを放置
当たり前だが、お客にも店を選ぶ権利はある。どんなに安くても古びて、活気のない店には行きたくないものだ。商品について質問しようにも、見渡す限りスタッフがいない店で買い物をしたい人はいないだろう。
例えばロサンゼルス郊外のロングビーチにあるシアーズに行くと、フロアのあちこちがシミだらけで、全体的に黒ずんでいる。店内を歩くとフロアが劣化してデコボコになっていることにも気がつく。ワックスをかけて研磨もしているようだが、それでも老朽化は隠せない。ともかくシアーズの店舗は経年劣化がひどいのだ。私自身、このシアーズの近くのKマートに立ち寄った際、お客ばかりかスタッフの姿もまるで見えず、その無人店舗ぶりに、思わずぞっとした経験がある。

もちろんシアーズの中にも、やる気のある従業員はいたはずで、売り場を改修するよう上司に掛けあったりしたこともあっただろう。だが一向に実現せず、それにあきれて仕事熱心な従業員ほど辞めていく。現場の士気やモラルは低下し続ける。

つまり、シアーズの破綻は自らが招いたものなのだ。その“主犯”は店舗に一切お金をかけないシアーズのCEO、エドワード・ランパート氏である。
名門の米エール大学を卒業し、ゴールドマン・サックスに入社。26歳の時には自身のヘッジファンドであるESLインベストメント(ESL)を設立している。キャリアのほとんどを投資家として過ごし、その面では大成功している。だが小売りの経験は全くない。人にモノを売るにはセンスが必要だが、小売業にとって大切な店舗に投資をしないことから見ても、彼は投資家であって、小売業のトップに欠かせないモノを売るセンスはなかった、と言わざるをえない。
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