新聞制作システムの方正(東京・文京)は、青山商事の子会社で販促事業を手掛けるアスコン(広島県福山市)と共同で折り込みチラシの校正を支援するAI(人工知能)を開発した。チラシ画像の分析で校正の手間の半減を目指す。全国のチラシ情報を集約し、AIが価格を提案する機能の開発も視野に入れる。

AIが校正した画像。緑は問題なく確認できた部分、赤は画像か価格に誤りがある部分、青は画像と価格の両方を確認できなかった部分を示す
AIが校正した画像。緑は問題なく確認できた部分、赤は画像か価格に誤りがある部分、青は画像と価格の両方を確認できなかった部分を示す

 開発したAIは、制作したチラシの画像データを読み込み、店舗が作成した基データと照らし合わせて、誤りを発見する。通常、折込チラシを制作する際は、商品の入荷状況による影響などで3~5回の校正作業を繰り返す。

数十種類ものチラシの誤りを探す手間

 大規模チェーンでは競合店の動向に対応するため、同じ商品でも店舗ごとに価格を変える。そのためチラシが数十種類に及ぶこともある。価格や製品の改定やチラシの種類が増えるたびに制作会社の担当者が目視で最新データと照らし合わせ、誤りを探す手間が必要だった。AIでこれらの作業の効率化を目指す。

 AIの仕組みはこうだ。まず制作したPDFデータを画像として取り込み、AIは各商品ごとの枠を認識する。次に枠の中の商品画像を認識し、あらかじめ学習した画像データとひも付く商品の認識番号を導き出す。最後に、枠組みの中の製品名や価格の文字データをAIが読み取り、エクセル上の基データの商品番号と、画像から導き出した商品番号が一致するかを調べる。AIによる分析はチラシ1枚につき約5分で完了する。

 方正とAIを共同開発したアスコンは、全国でスーパーや大手ドラッグストアの折り込みチラシの制作業務を担っている。アスコンが過去1年に手掛けた6店舗のチラシ情報をAIの教師データとして使った。各メーカーの商品画像の他、野菜や肉などのよく利用する生鮮食品の写真もあらかじめ学習させている。

正しく認識できる比率は9割

 チラシの文字は写真や価格を強調する爆発型マークなどの背景と重なっている。特殊な書体を使うことも多い。「ある大手システム会社に聞くと、現在のOCR技術でチラシを読むと4割程度しか精度が出ないと言われた」(方正のメディア事業部営業1部の背古繁夫部長)ものの、今回開発したAIは大量の教師データを読み込ませ、調整を繰り返したことで、チラシの商品画像や価格を正しく認識できる比率は約9割に達している。

 日本新聞協会によると2017年の新聞発行部数は約4213万部で、10年前から2割減。折り込みチラシの売り上げも減少傾向にあり、制作会社は「制作にかかるコストをよりタイトにする必要がある」(背古部長)という状況にある。価格の転記ミスがあれば、店舗の損害を制作会社が賠償することもある。そうしたリスクもAIで低減することを目指す。

 AIの精度は完璧ではないとはいえ、ミスを発見しやすくなる他、基データのリストをクリックするとチラシの中でどの部分が該当するかを指し示す機能などで作業を効率化できる。アスコンのチラシ制作業務の中で校正にかかる作業工程の手間やコストは約2割を占めるという。初校、再校、3校と修正を繰り返す作業には数日間がかかる。特に慎重なチェックが必要となる最終工程を中心に「手間やコストを半減させる」(背古部長)ことを当面の目標と定める。AIはまずアスコンの現場で導入を進める。サービス料金は未定だが、1年後をめどに外部の制作会社への販売も進める。

 方正は中国の北京大学の技術者が中心となって結成した開発会社。日本法人は1996年に立ち上げ、新聞社や出版社向けの制作システムを手掛けている。今回のAIは、中国湖北省武漢市にある関連会社が開発した。方正が国内でAI関連サービスを展開するのは今回が初めて。今後も中国の関連会社と連携し、AIやビッグデータ関連の事業を拡大する。

 チラシのAI分析が広がれば、全国のスーパーやドラッグストアの価格情報を集約できるようになる。値動きや季節要因を考慮してAIが適切な価格情報を提示するといった店舗の業務支援に活用する構想もある。

AIで認識する前のチラシのイメージ。文字が写真や爆発型マークなどのデザインと重なるためOCRで認識しづらい
AIで認識する前のチラシのイメージ。文字が写真や爆発型マークなどのデザインと重なるためOCRで認識しづらい
方正のメディア事業部営業1部の背古繁夫部長
方正のメディア事業部営業1部の背古繁夫部長
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