店舗で来店者に対して店員が接客する。これと同じように、サイトの訪問者に対して一人ひとりを“接客”して、おもてなしする。そんなツールの利用が広がっている。それが「Web接客ツール」だ。同ツールのAI(人工知能)活用による機能強化やサービスの強化を視野に入れた資金調達が相次ぐ。競争のポイントは3つある。

 Sprocket(東京・世田谷)は2018年9月26日、提供するWeb接客ツールにAI(人工知能)を活用した購入確率のスコアリング機能の提供を始めた。また、翌日にはエフ・コード(東京・新宿)がデータ連携などを視野に入れて、ネットオークションデータ事業のオークファン、マイナビなどから約2億8000万円の資金調達をすることを発表した。

 Web接客ツールとは自社サイトの訪問者に対して、必要と推測される情報を適切なタイミングで表示することで、申し込みや消費を後押しするためのデジタルマーケティングツールだ。世に出た当初はサイトの訪問者に対して、データに基づき適切なタイミングでクーポンなどを表示して購入や申し込みを後押しし、サイトの成約率を高めるツールとして提供が始まった。

Web接客ツールに3つの競争ポイント

 このWeb接客ツール市場への参入が相次ぐにつれ、競争優位性を保つために開発会社は機能強化に力を注ぐ。サービス強化のポイントは全部で3つ。「MA(マーケティングオートメーション)化」「運用自動化」「外部データ」だ。

 まず、MA化から解説しよう。Web接客ツールの機能強化の最たる例が、対応チャネルの拡大だ。サイト上での表示だけではなく、蓄積したデータを活用して、メールやLINEなどへの情報発信を可能にしている。また、ABテストやチャットなど、活用方法も広がっている。Web接客ツールは高機能化が進み、MAツールとの境界線がなくなりつつある。

 「ウェブ接客」の商標を所有するプレイド(東京・中央)はWeb接客ツールとしてサービスを開始した「KARTE」を、18年4月に顧客体験を作るプラットフォームへと位置付けを変えた。導入企業が複数のチャネルを横断的に管理して、一貫した顧客体験を提供できるプラットフォームの構築を狙う。

 ところが、急速な高機能化は新たな課題を生んでいる。「機能の拡充によってさまざまな用途に使えるようになった分、使いこなす難度は上がっている」とSprocket代表取締役の深田浩嗣氏は指摘する。そのため、Web接客ツールの導入から運用までを、トータルでサポートできるサービスの需要が高まっている。それに伴い「運用自動化」が2つ目の競争のポイントになっている。Sprocketはまさしく運用自動化に向けた機能開発に力を注ぐ。AIを活用したスコアリング機能の開発もその一環だ。

購入意欲をスコアリング

 Sprocketの開発したスコアリング機能は、サイト訪問者がサイト上の行動から「セッションごとのコンバージョンの確率」「7日以内のコンバージョンの確率」「離脱の確率」「14日以内の再訪問の確率」の予測値をそれぞれAIがリアルタイムに割り出すもの。この予測値をマーケティング施策に生かせる。例えば、コンバージョンの確率が20~40%の訪問者だけを対象に、送料無料のクーポンを提供するといった具合に、施策を実施するセグメントに設定できる。

 これまでもBtoB(企業向け)マーケティングに特化したMAでは、スコアリング機能が提供されていたが、見込み客として個人情報を獲得した後に加点ルールなどを定めてスコア化するのが一般的だった。Sprocketのスコアリング機能は、過去のデータを用いてコンバージョン前から購買意欲を自動的に予測できる点に新規性がある。

SprocketはAIでセッションごとのコンバージョンの確率や離脱の確率などを予測する機能を開発して、Web接客ツールに加えた
SprocketはAIでセッションごとのコンバージョンの確率や離脱の確率などを予測する機能を開発して、Web接客ツールに加えた

 この機能を利用するにはSprocketの導入後、約1カ月間のAIの学習期間を設ける必要がある。過去の購買データからコンバージョンに至りやすい行動や、再訪問に至りやすいページ遷移をAIが学習することで、スコア化できるようになる。過去のデータを基にした実験では「かなり高い精度で予測できることが分かっている」(深田氏)。Sprocketは月額15万円から利用できる。月間のユニークユーザー(UU)数や、設定できるシナリオ数に応じて料金が上下する。

 Sprocketは大手飲食チェーンと共同で、新たなスコアリング機能を活用したマーケティング施策に取り組む。そうして、スコアリングのマーケティング活用のノウハウを蓄積して、他社に横展開できる体制を作る計画だ。

 Web接客ツール競争のポイントで最後の1つは「外部データ」だ。エフ・コードは独自のデータを開拓することで、競争優位性を保つ戦略を取る。通常、Web接客ツールは過去の購買履歴やサイトのアクセスログなど、ツールを利用する企業が持つデータを活用してマーケティング施策を最適化する。過去の購買データなどを使って、サイト訪問者の購買意欲を予測する、SprocketのAIはその代表例だろう。

 しかし、「利用企業のデータだけでは量が少なく、最適化に限界がある」とエフ・コードの工藤勉社長は言う。そこで、工藤氏が目を付けたのがメディア事業者が持つデータだ。今回の資金調達も、メディア企業との関係性の強化の狙いが大きい。オークファンの持つ購買にまつわるデータと、エフ・コードが提供するWeb接客ツール「CODE Marketing Cloud」の利用企業のデータを連携すれば、より高い精度で訪問者の興味関心を分析して、マーケティング施策に生かせる可能性がある。両者はデータ連携の方法を研究・検討していく考えだ。

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