カメラ解析AI(人工知能)スタートアップのVAAK(東京・港)は、2018年10月から書店やコンビニエンスストアなどの協力の下、レジなし店舗の実証実験を開始することが明らかになった。同社は映像解析技術とディープラーニングを活用した無人店舗構築サービス「VAAKPAY」の開発を進めている。実証実験を経てアルゴリズムなどに改善を加えた後、19年春の本格展開を目指す。

 VAAK(バーク)は防犯カメラの映像から不審な人の行動をデータ化して、事前に万引きを察知する万引き防止のためのソリューション開発を目指して設立された。ソフトバンクグループ子会社で、ディープラーニングを活用した起業家を支援するディープコアが出資する一社だ。

 防犯カメラの映像から顧客行動と不審者の行動、そして過去の犯人が取った万引きと相関性の高い行動などを学習データとして、ディープラーニングや機械学習を組み合わせてAIに学ばせる。約10店舗に実験的にカメラを設置して実証実験を進めており、これまで、2万件以上の動画を学習させているという。「万引きを起こしやすい店舗、箇所を徹底的に分析する」(VAAK代表取締役の田中遼氏)。

 学習によりバッグやポケットに商品を入れる、店内できょろきょろするといった不審行動をAIが検知した時に、「万引き防止の見回り強化中」といった音声を店内に流したり、事前に予測して私服保安警備員(万引きGメン)を配置したりすることで、万引きを防ぐことができる。

センサー不要でレジなし店を実現

映像解析技術とディープラーニングでレジなし店舗を実現する「VAAKPAY」
映像解析技術とディープラーニングでレジなし店舗を実現する「VAAKPAY」

 この万引き防止のソリューションの開発で培った技術を応用して、18年4月から開発を始めたのがVAAKPAYだ。VAAKPAYはスマートフォンで利用できる決済アプリ。導入店舗には、アプリに表示したQRコードを店内のカメラに読み込ませて入店する。これにより入店者を把握する。入店後は商品を手に取るだけで、自動的にアプリ上のカートにその商品が追加される。そのまま退店すれば、アプリに登録済みのクレジットカードで決済が完了する。

 まさしく、和製Amazon Goを実現するための決済サービスである。要は万引きに相関性の高い不審行動を検知するのではなく、どの棚の商品を取ったかを検知することに防犯カメラの映像解析技術を使ったわけだ。既存のカメラの動画と映像解析技術のみを組み合わせるため、専用のセンサーなどを用意しなくても導入できるのも特徴と言えよう。

 VAAKは、このVAAKPAYの本格展開に向けた実証実験をコンビニや書店と始める。実験は特定のビルの入館証を持つ従業員だけが入店できるなど、利用が限定的な店舗で実施する。利用者が限定されるため、意図的な不正などによって盗難されるといったリスクを抑えられるという。既存の映像解析技術だけでは商品を手に取ったことは分かるものの、それが具体的にどの商品かまでは分からない。そこで、最初の1週間は退店時にバーコードを読み取ってもらう。この商品データと、動画で解析する行動データを掛け合わせることで、誰がどの商品を取ったかをAIが把握できるようにする。

VAAKPAYを利用すると、商品を持って店を出るだけでアプリに登録したクレジットカードで決済が完了する
VAAKPAYを利用すると、商品を持って店を出るだけでアプリに登録したクレジットカードで決済が完了する

 「多い店舗では1週間で1000人が来店すると想定している。1商品当たり10人分の購買データが集まればそれなりの精度で解析可能になるはずだ」と田中氏は言う。VAAKの自社内に設置しているデモスペースでは、既に高い精度でどの商品を手に取ったかを把握して、自動的にアプリ上でカートに入れられるようになっている。

 VAAKPAYはコンビニや小型のドラッグストアなどでの活用を想定している。「特に深夜帯のコンビニの無人化のニーズが高い」(田中氏)。ただ、棚の商品を入れ替える場合、新商品の学習データが必要になる。そのため、なるべく商品の入れ替わりが少ない店舗から導入を進めていく。決済方法は今後、携帯電話の利用料金と共に支払えるキャリア決済など、複数の手段に対応していく方針だ。

 今後はデジタルサイネージなどと連係したマーケティングサービスの開発にも取り組む。「来店者のうち計画購買をするのはわずか2割。その他の8割は来店してから、店頭で気になったり、商品を見て思い出したりして購入する非計画購買といわれる」(田中氏)。そこで、店内の行動とVAAKPAYの購買データを組み合わせて解析して、デジタルサイネージにお薦め商品を表示するなど、リアルタイムなマーケティング施策に活用できる仕組みの実現を目指す。

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