パナソニック アプライアンス社が2018年3月に発売したデジタルカメラの最新機種「DC-GX7MK3」が注目されている。今までのデザインを見直し、より“カメラらしさ”を高めたからだ。プロカメラマンにもヒアリングを行い、アマチュアカメラマンの「趣味の道具」としてのプロダクトデザインを追求した。
家電ではなく趣味の道具としてのプロダクトデザイン
もはや、ありきたりの商品では売れない──そんな時代の新しい家電の姿を示すのが、パナソニックのミラーレスデジタルカメラ「LUMIX」の「GXシリーズ」だ。GXシリーズは、LUMIXのミドルクラス機。「趣味で写真を撮るアマチュアカメラマン」がターゲットだ。初代モデルから追求してきたのが、よりカメラらしさを高め、より趣味の道具としての魅力を増すこと。近年では、さらに「カメラらしさ」を追い求める。それが、アマチュアカメラマンに響く価値と考えるからだ。
高性能なカメラ機能を備えたスマホの普及により、安価なコンパクトデジタルカメラは姿を消しつつある。デジタルカメラの国内出荷台数を見ると、ミラーレスの出荷台数は右肩上がり。2018年1~6月は、一眼レフを初めて上回った。各社が新製品を立て続けに投入するミラーレスが今、デジタルカメラの主戦場になっている。
18年3月に発売した最新機種「DC-GX7MK3(以下、GX7MK3)」は、先代の「DMC-GX7MK2」よりも性能が高く「DMC-GX8」よりコンパクト。機能は先代2機種の「いいとこ取り」とした。
●レンズをさらに中心に寄せた
●右下のLUMIXロゴを排除。よりカメラらしい印象に
カメラらしさを高めるGX
GX7MK3を見れば、モデルを重ねるごとに、GXシリーズが“カメラらしさ”を高めてきたことが分かる。デザインセンター パーソナルデザイン部の政野耕治シニアプロダクトデザイナーは「ディテールにこだわり、形状と使いやすさをブラッシュアップしてきた」と語る。政野氏は一眼レフデジタルカメラやビデオカメラなど、光学機器を多く手掛けてきた。
GX7MK3のデザイン開発は、過去のカメラのリサーチから始まった。ライカなど、過去100年ほどで名機と呼ばれた6モデルに、カメラらしさのヒントを見いだそうとした。そこから分かった共通点の一つがプロポーション。名機と呼ばれるモデルは、どれもボディーの縦横比が1:1.618…の長方形。黄金比に当てはまるものが多かった。さらに、ボディーの水平垂直が直線なのも共通点だ。ここに、趣味の道具としてのカメラのあるべき姿が見えてきた。もう一つがレンズ位置だ。名機のレンズは、中央に近い位置にある。デジタルカメラのレンズは、グリップと逆側の本体端に寄せたものが多く、それがデジタルカメラらしさにもなっていたという。
GX7MK3のプロダクトデザインには、こうしたリサーチ結果を反映した。サイズを黄金比に合わせ、レンズ位置も先代モデルより中央に寄せた。先代モデルでは、小さく見せるため本体側面の上方を微妙にカーブさせていたが、すべての線を水平垂直にそろえた。ボタンなどのレイアウトも見直し、背面のボタンを少し大きくするなど、操作性の向上も両立させている。
並行して、プロのカメラマンへのヒアリングも行った。そのなかで「ダイヤルが軽い」との指摘があった。デザインセンター パーソナルデザイン部 PA課の小宮幸昌課長は「ダイヤルが回りにくいとダメとされるのが家電の世界。カメラだと硬いほうが好まれると気づくまでに、時間がかかった」と言う。ここにも、カメラらしさを高める秘訣があった。
政野氏は「今後もカメラらしさを突き詰める」と言う。「同じ黒の塗装でもさまざまある。素材や質感など、突き詰めようとすればキリがない」と続ける。
あらゆるものが行き届いた時代。モデルチェンジのたびに、形や色を変えるだけのプロダクトデザインはもう終わったといえる。趣味性が高い提案型商品にふさわしい価値をもたらすには、本質を鋭く深く突くデザイナーの観察眼が欠かせない。
(写真提供/パナソニック アプライアンス社)