台湾に本拠を置くAI(人工知能)ベンチャーのエイピアーが、新しいマーケティングソリューションの提供を8月から始めた。名前は「アイコア(AIQUA)」。AIを活用して見込み客との関係性を強めて顧客化し、その顧客のLTV(顧客生涯価値)を引き上げるMA(マーケティングオートメーション)プラットフォームだ。

 エイピアーは既に、2つのソリューションを日本市場で提供済みだ。

 1つは、AIを活用してパソコンやスマートフォン、タブレット端末など1人のユーザーが使う複数のデバイスを特定し、ターゲティングしたユーザーに対してそれらのデバイスを横断してネット広告を配信できる「クロスエックス(Cross X)」。企業が見込み客にアプローチしたいときに使うソリューションである。

 もう1つが、蓄積した大量のデータの中にあるオーディエンスの情報について、企業のニーズに合わせてAIが精査・分析する「アイソン(AIXON)」。大量のデータを抱える企業が、顧客や見込み客に対してより精緻にアプローチしたいときに役立つソリューションである。

フルファネルの領域をカバー

 この2つにアイコアが加わることで、エイピアーは「見込み客の獲得→見込み客への継続的なアプローチによる顧客化→データ分析に基づく次の打ち手の展開」という、マーケティングにおけるフルファネルの領域を、AIを駆使する自社ソリューションでカバーできる体制を整えた。

 AIを駆使するソリューションを使うことで企業のマーケティングが変わる点は主に2つ。1つは分析などの精度が上がること。もう1つは、見込み客のターゲティングや施策の選択などをAIに任せることで、マーケターが自分の時間をよりクリエイティブな領域に使えるようになる点だ。エイピアーの既存のソリューションを導入済みの企業にとってはもちろん、そうでない企業にとっても、「AIを活用したソリューションを使うことで、効率的にマーケティングを進めることが可能になる」(エイピアーのチハン・ユーCEO)というわけだ。

アイコアの機能の説明図
アイコアの機能の説明図

 今回、提供を始めたアイコアのソリューションとしての特徴は、大きく分けて2つある。

 1つは、企業が持つ自社サイトや自社アプリ上でのユーザーの行動データだけでなく、エイピアーがクロスエックスを通して集めてくる外部サイトでのユーザーの行動データも合わせてAIが分析できることだ。このため、獲得した見込み客がどんなタイミングで、どのデバイスを使って、どんなコンテンツを閲覧しているかを、これまで以上に精緻に分析できる。AIによるこの分析に基づき、最適なタイミングで最適なデバイスに、最適なコンテンツを送れるため、見込み客を顧客化できる確率が高まる。

 もう1つは、操作が簡単なことだ。例えば、獲得した見込み客を興味関心に沿ってターゲティングしたいときは、管理画面上で「インタレスト」を指定し、さらにその「精度」などを指定するだけだ。例えば、小説をよく読む見込み客にターゲティングしたいとき、まず小説をよく読む人を指定する。ただ、同じ小説でも、人によって、普通の小説からライトノベルまで読む内容には幅がある。アイコアでは、普通の小説を基準にライトノベルまでの距離感を、AIを使ってスコアリングしている。ライトノベルというより普通の小説を好むユーザーをターゲティングしたいときは、そのようにスコアリングを「精度」として指定するだけで、AIが該当する見込み客をセグメントしてくれる。実際にアイコアを使うマーケターからすれば、中身はブラックボックスではあるが、簡単な操作でユーザーをターゲティングし、具体的なアプローチの施策に移れるわけだ。

ABテストを自動的に実施

 それだけではない。例えば、あるターゲティングされたユーザーに対してメールやSNSなどでアプローチする場合、自動でABテストを実施する機能も組み込まれている。100人に対してA、Bという2つのコンテンツを用意し、最初の10人にはA、次の10人にはBを送り、より反応が良かったコンテンツを残りの80人に送るなどという芸当ができる。

 「アイコアを使って、実際に多くの見込み客が顧客化するという結果が出れば、マーケターにとってAIが仕事に役立っているという実感が持てる。そう感じてもらうことが、AIを活用したソリューションを提供する私たちのような企業にとって大切」とチハン・ユー氏は語る。

 実際、ソリューションを提供し始めてから2カ月弱が経過したが、アイコアの引き合いはエイピアーの当初の想定より強い。とりわけ、「新規顧客の獲得と同等かそれ以上に、既存顧客のLTVを重視している企業に受けがよい」(エイピアー エンタープライズソリューションセールスの小林慎カスタマーサクセスマネジャー)という。

AIツールは用途の明確化が重要

 チハン・ユー氏によれば、現時点で日本企業がAIソリューションをうまく使いこなすには2つの条件が必要だという。

 それは「ソリューションの用途が明確で、かつソリューションの提供企業が顧客企業とコミュニケーションを欠かさないこと」(チハン・ユー氏)だ。用途が明確であれば、企業の担当者が活用法に悩むことも少なく、成果も実感しやすい。また企業とのコミュニケーションを欠かさなければ、企業が持つ不満を解消しやすいし、次の商品開発にも生かしやすい。アイコアが顧客企業からの受けが良いのは、「この条件を2つとも満たしているから」(チハン・ユー氏)と見ている。

 例えば顧客企業とのコミュニケーションでは、ブラックボックスとされるAIの分析プロセスについても丁寧に説明したり、AIソリューションを導入した場合に当該企業の組織をどのように変えたほうが効果を引き上げられるかについて説明したりもしているという。

 アイコアの提供で、さらに成長軌道に乗った感のあるエイピアーだが、課題も残されている。これまで2つのソリューションを提供し、日本はもちろん各国の市場でも順調に業績を伸ばし、人員も増やしてきた。だが、今回のアイコアの提供をきっかけに、同社のAIソリューションの人気が一段と高まった場合、企業とコミュニケーションを継続的に取るための人材をそろえられるかどうか。外部の人材の採用だけでは乗り切れない時期の到来を見越し、各国の市場に精通した内部の人材育成の仕組みを整えることが求められそうだ。

■変更履歴
アイコアのWeb画面をアイコアの機能の説明図に差し替えました。該当箇所は修正済みです。 [2018/10/01 10:30]