実用書や小説などの書籍の朗読を聴いて楽しむオーディオブック。そのオーディオブックの制作・配信で国内最大手のオトバンク(東京・文京)はアニメイトグループのフロンティアワークス(東京・豊島)と共同でオーディオブックの新レーベル「極上 voice メソッド」を立ち上げた。男性の利用が多いビジネス書や自己啓発書の朗読者に人気声優を起用し、表紙デザインを変えることで、女性ユーザーを順調に拡大している。

オトバンクの「極上 voice メソッド」のサービストップページ。品や説得力は保ちつつ、ゲームなどの女性向けコンテンツを意識したデザインにした
オトバンクの「極上 voice メソッド」のサービストップページ。品や説得力は保ちつつ、ゲームなどの女性向けコンテンツを意識したデザインにした

 極上 voice メソッドを運営するのは、オトバンクとフロンティアワークスが共同で立ち上げたOTOWORKSだ。2018年5月に新レーベルでのサービスを開始して以降、『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健著、ダイヤモンド社)や『自分を操る超集中力』(DaiGo著、かんき出版)といったビジネス書、自己啓発書のベストセラーを配信している。

 これらのビジネス書、自己啓発書はすでにオトバンクが運営するオーディオブック配信サイト「audiobook.jp」で提供済みのものだ。これを通常版として、極上 voice メソッドが異なるのは、朗読者に人気声優を起用して録音し直したこと。例えば、『嫌われる勇気』は、テレビアニメ『サイボーグ009』の主人公・島村ジョー役や『NARUTO -ナルト-』のはたけカカシ役などで知られる井上和彦と映画『この世界の片隅に』で主人公すずの夫・北條周作を演じたことなどで知られる細谷佳正が、『自分を操る超集中力』ではテレビアニメ『ハイキュー!!』の山口忠役などで知られる斉藤壮馬が朗読を担当している。

女性やビジネス書初心者に届けたい

 極上 voice メソッドの狙いについて、オトバンク オーディオブック事業部制作ディレクターの望月鷹裕氏は「女性やこれまでビジネス書、自己啓発書を手に取ったことがない“初心者”にも楽しんでもらうこと」と話す。

 audiobook.jpでは現在、現在約2万3000本のオーディオブックを配信しており、ビジネス書や自己啓発書は特に人気のジャンルだ。ただ、そのユーザーの内訳は6~7割が男性。女性の利用は少ない。だが、「最近は漫画化したものも増えているように、ビジネス書や自己啓発書は読みやすくカジュアルになっている。工夫次第で利用を広げられるはず」(望月氏)と考えた(関連記事「オーディオブックが人気 火付け役は文芸作と声優起用」)。

 また、同社では以前、人気ゲームの『グランブルーファンタジー』とコラボレーションし、人気キャラクターをデザインしたプラスチックカードにその原作のオーディオブックをダウンロードするためのシリアルコードを記載して販売したことがある。それはファングッズとして人気を博したが、そのとき「予想以上に女性の購入者が多かった。好きになると、女性は熱心に購入してくれると実感した」(望月氏)ことも、極上 voice メソッドの企画を後押ししたという。

2017年3月に開催された人気ゲーム「グランブルーファンタジー」のイベントで、オーディオブックをダウンロードするためのシリアルコードを記載したデザインカードとグッズのセットを販売したところ、用意した全量が売れた
2017年3月に開催された人気ゲーム「グランブルーファンタジー」のイベントで、オーディオブックをダウンロードするためのシリアルコードを記載したデザインカードとグッズのセットを販売したところ、用意した全量が売れた

 極上 voice メソッドのコンテンツを制作するうえでこだわったポイントは3つ。1つ目は、ベストセラーを選ぶことだ。オトバンク オーディオブック事業部制作プロデューサー兼ディレクターの伊藤誠敏氏は「オーディオブックの入門でありビジネス書の入門でもあることから、初心者でも受け入れやすく、内容に普遍性があることを重視した」と言う。

 2つ目は、原作を全て収めるのではなく、ダイジェストにしたこと。通常版のビジネス書や自己啓発書のオーディオブックは、全編聴くと一般的に3時間前後、長いものでは10時間を超える。あまりなじみのない人は、再生時間を見ると手を出しにくくなる。そこで、原作の要素を抽出し、1時間程度に短く再構成したダイジェスト版を作った。価格も通常版が基本的に原作書籍同じなのに対し、極上 voice メソッドでは1000円程度に抑えている(対話形式の『嫌われる勇気』は除く)。「まずは1本聴き切る達成感を感じてもらいたい。1時間程度ならループ再生で聴いても苦にならない」と望月氏は話す。

 3つ目の工夫が、朗読者を著者とユーザーのつなぎ役としてのキャラクターを設定したことだ。通常版と表紙のデザインを変え、“イケメン”の男性キャラクターを表に打ち出した。さらに、冒頭にはキャラクターの自己紹介コメントが、最後には聴き終えたユーザーへのご褒美メッセージが収録されている(『嫌われる勇気』は除く)。「キャラクターを通して本の内容を伝えることで、没入感を高め、聴く意欲を持ってもらいやすい。キャラクターに信頼性を出すため、声優は説得力のある声の人を選んだ」(望月氏)と考えたためだ。

『結局、「すぐやる人」がすべてを手に入れる』(上)と『嫌われる勇気』(下)の表紙。それぞれ左がaudiobook.jpの通常版、右が極上 voice メソッド版
『結局、「すぐやる人」がすべてを手に入れる』(上)と『嫌われる勇気』(下)の表紙。それぞれ左がaudiobook.jpの通常版、右が極上 voice メソッド版

 極上 voice メソッドは発表されるや、声優ファンなどのSNSから知名度が拡大。やがては「声優ファン以外の人からも、ビジネス書をこういうコンセプトでオーディオブック化するのは面白いという反応が増えた」(伊藤氏)という。

男女比が逆転、書籍へのニーズも掘り起こす

 売れ行きは好調だ。極上 voice メソッドのコンテンツは、5月25日に配信を開始した直後から13週連続でaudiobook.jpの週間ランキング上位10作品にエントリーした。その購入者は、女性が9割と通常版を逆転。既に定番化しつつある作品にもかかわらず、新たなユーザー層の掘り起こしに成功した。

 また、オトバンクにとっても予想外だったのは、極上 voice メソッドを聴いたのを機に、原作書籍を手に取る人が増えたことだ。同社が今年8月、audiobook.jpのユーザー1698人を対象にインターネットで行った調査によると、オーディオブックをきっかけに原作を読んだ人の割合は14%、本屋や図書館に行く機会が増えた(本を探しに行く機会が増えた)人の割合は10%。極上 voice メソッドの購読者に限定して見ると、前者は18.8%、後者は16.3%だった。ユーザーの感想にも「本の続きが気になり、書籍を購入した」「本を読むのは苦手だったが、今度は字で見てみたいと思った」「書籍を読みながらオーディオブックを聴くという形で聴いた」といった声が多かったそうで、オーディオブックが“原作回帰”を促していると言っていい。

 これは出版社にとっても利が大きいはずだ。オトバンクでは、出版社などに企画を提案し、企画が通ると著作権処理・制作・取次・販売を一括して請け負う形でオーディオブックを制作している。制作費はオトバンクの負担で、オーディオブックの売り上げの一部を受け取る。このため、オーディオブック化に際しての出版社のリスクは小さい。特に極上 voice メソッドは既に書籍としてもオーディオブックとしても売れている作品が中心のため、新規ユーザーの掘り起こしと利益の上乗せという側面が強い。実際、「出版社の反応は非常に良い。企画を持ち込んだ当初はイメージが湧かなかったのか反応が薄いところもあったが、極上 voice メソッド用の表紙デザインや朗読原稿ができるなど企画が具体化するにつれ、評価は高まっていった」と伊藤氏は振り返る。

 オトバンクによると、今後、資産運用やダイエット、健康などに関するオーディオブックでも、極上 voice メソッド版を制作することを検討中だ。「実用書でも女性に人気のありそうなものは取り組んでいきたい」(望月氏)と意気込んでいる。