台湾茶の「Gong cha(ゴンチャ)」が首都圏を出て全国展開を加速している。2018年9月28日には、ららぽーとの東海初進出に合わせ、名古屋にデビュー。10月26日は福岡・天神の福岡パルコに入居し、九州上陸を果たす。台湾茶の定番は、タピオカミルクティー。しかし、ゴンチャはタピオカのみに頼らない「ティーカフェ」という業態で新市場を拓こうとしている。

東京・原宿。流行の発信地にゴンチャが1号店を構えたのは3年前。店先には今なお、大行列が延びる。店が増えると、客足が分散するのが外食のセオリー。しかし、ゴンチャは違う。店を出すたびに既存店の客数が右肩上がりに増え、原宿表参道店は、今や平日でも1000人が詰めかけるほどの大人気店だ。
ゴンチャとは、いったい何者か。漢字で書くと「貢茶」。時の中国皇帝に貢いだような本格ティーを気軽に味わえるブランドとして2006年、台湾南部の高雄に誕生した。以来、10年余りでアジアやオセアニア、米国に広がり、店舗数は1400を突破。3年前にオープンした日本は、むしろアジアでは最後発となる。
日本でカフェと言えば、コーヒー。スターバックス、ドトールコーヒーショップ、コメダ珈琲店、タリーズコーヒー……名だたるチェーンがしのぎを削り、コンビニで100円からコーヒーが買える「コーヒー大国」の宿命か、紅茶チェーンはなかなかメジャーになれない。
「10回に1回」の浮気を狙う
そんな常識に風穴を開けたのが、ゴンチャの日本法人「ゴンチャ ジャパン」を率いる葛目良輔社長兼COO(最高執行責任者)だ。スターバックスや日本マクドナルドで店舗統括を手がけた経歴を持つ葛目氏には、明確な勝算があった。
「『コーヒー嫌いのスタバ好き』は必ずいるんです。コーヒーは苦手だけど、スタバという空間に身を置きたい。10回のうち9回は、スタバでいいんです。1回浮気してもらえれば、それだけで十分過ぎる市場規模がありますよね」

コーヒーが苦手でも楽しめる店として考え出したのが「ティーカフェ」という業態だ。「目指すのは『デイリーティープレイス』。止まり木のように日常的に台湾茶を楽しんでもらえる場をつくりたい」(葛目氏)。女子中高生に人気のタピオカミルクティーではなく、あえて「台湾ティー専門」と間口を広げ、20代の女性にターゲットを定めた。
背景にあるのは、引き算の考え方だ。他国のゴンチャではコーヒーを扱っている店も多いが、日本でそれをやっても埋没してしまう。ターゲットを絞り込み、基本的には台湾茶1本で勝負する。注文の仕方で、とことん個性を出せるようにした。


ブラックティーやジャスミンティーなどベースとなる茶は4種類。甘さや氷の量、トッピングを自在に組み合わせることで、2000種類もの味を楽しめるようにした。タピオカを入れずに、台湾茶だけという注文も可能。その日の気分で味も見た目もカスタマイズできるのがSNS時代に受け、台湾ブームの追い風にも乗り、ゴンチャは瞬く間に軌道に乗った。
スタバ好きの客は、スタバ店舗のしゃれた雰囲気、そして自由にカスタマイズできる点などを評価することが多いという。ゴンチャも店舗空間には強いこだわりがあり、さらに味を2000種類も楽しめることなどで、コーヒー嫌いなスタバ客の浮気を誘おう、というわけである。
上陸3年で首都圏を中心に17店。3月に関西に初進出し、今後は名古屋や福岡など、全国に攻め込む。目標は、20年末までに100店体制。この100という数字も、スタバの店舗網の10分の1程度と計算してはじき出した。
1号店の原宿は「上陸のメッカ」(葛目氏)で特に意外性はないが、2号店は住宅地の阿佐ヶ谷に構えた。3号店は埼玉県入間市の三井アウトレットパークだ。さまざまな場所に出店して見えてきたのは、台湾ティーカフェという業態は、どんな立地でもある程度のニーズが見込めるという点だ。
ハブとスポークを織り交ぜる
店舗の拡大に向けて取り入れたのは「ハブアンドスポーク」という考え方。もともとは物流用語で、中心拠点(ハブ)に貨物を集め、各拠点(スポーク)へと送り出すことで配送を効率化する概念だ。
飲食店に置き換えるなら、数々の路線が乗り入れるターミナル駅が「ハブ」。その沿線上にある1日に10万人以上が乗り降りする駅を「スポーク」とみて、バランスよく出店するのが最適と判断した。
阿佐ヶ谷や入間など、ゴンチャは初期、スポークを中心に攻めてきた。その後、渋谷や新宿、横浜など「ハブ」に攻め込み、店の知名度が飛躍的にアップ。相乗効果でスポーク店の客足も伸びた。男性や親世代へと徐々に客層が広がり、全店平均の客単価は550円まで上がった。ちまたのコーヒーチェーンのコーヒー価格と比べると高めだ。
6月末、ゴンチャは東京・日本橋の再開発で生まれた武田薬品工業のグローバル本社に出店した。初めてオフィス需要の開拓に乗り出したのだ。
葛目氏は出店場所を、日常と非日常、目的地と自宅という形でざっくりと分類している。例えば、1号店の原宿は非日常×目的地、阿佐ヶ谷は日常×自宅。日本橋の新店は、日常×目的地という新境地で、今後の試金石となる。
台湾発のタピオカミルクティー店が日本で急増しているが、葛目氏は、競合だとは考えていない。「一緒になってティーカフェという市場を育てていけば、今は300億円ぐらいしかない市場も、1000億円を超す規模に膨らむ」。

日本上陸から3年、撤退はまだ1店もない。今後は日本オリジナルメニューも投入する。100店体制を目指すロードマップは、ティーカフェというジャンルを日本に根付かせる挑戦でもある。
(写真/高山 透)