スマートフォンなどに向けた定額制動画配信サービスが花盛りだ。米ネットフリックスの総会員数は1億3000万人を超え、映像コンテンツへの積極投資は米ウォルト・ディズニーなどの既存勢力を脅かす。一方、「映像抜きで音だけ」で勝負して急成長中の定額配信サービスがある。「フィットネス界のNetflix」とも称される米アプティブ(Aaptiv)だ。

アプティブのトレーナーは各分野のエキスパートだ
アプティブのトレーナーは各分野のエキスパートだ

 「ヘーイ! トレーナーのマイクだ。調子はどうだ? 今日は15分の体幹トレーニングを一緒にやっていくぞ。3種類の体幹トレーニングを3セットずつ。まずは、プランクからだ。腕立ての姿勢から肘を肩の下に垂直に立てて、体は真っすぐだ。そうそう、いい感じだ、そのまま30秒! お腹が下がってこないように、あと10秒だ、残り5、4、3、2、1!」

 アプティブは、こうしたコンテンツ(クラス=授業と呼ぶ)をフィットネス、ランニング、ヨガなど22カテゴリーにわたり約2500件提供している。毎週40件の新しいクラスを追加。クラスは累計1400万回以上も再生されて、2017年にフィットネスカテゴリーで最も成長したアプリとなった。定額課金制で月額14.99ドル、年払いだと99.99ドルである。

 創業は15年だが、たった2年間で20万人以上の有料会員を獲得し、17年の売り上げは2000万ドル(約22億円)を超えた。18年6月には米アマゾン・ドット・コムの「Amazon’s Alexa Fund」、ディズニー、米ワーナー・ミュージック・グループなどから2200万ドル(約24億2000万円)の資金調達をしたばかりだ。

 ちなみに、Amazonʼs Alexa Fundは、音声技術のイノベーションを促進するベンチャーキャピタル投資資金として最大1億ドルを提供するプログラムだ。アマゾンは音声によるパーソナルトレーニングがAlexaの新しい体験を作る可能性に注目し、投資を決めている。

強みは優秀なトレーナーとの関係

 アプティブ創業者のイーサン・アガワル氏は、それまで主流だった健康コンテンツ系の映像が、実際に運動する時ほとんど必要とされないことに着目した。一方で、運動をサポートするトレーナーや音楽は重要であり、多くのスタジオプログラムやパーソナルトレーニングの効果が高いことは実感していた。しかし、それではビジネスを展開する上で、場所やコーチ人数による制約が生まれる。そこでアガワル氏は、トレーナーによるフィットネスガイドや音声支援、そして集中力を高める音楽を組み合わせて、オーディオのみのクラスを作るという方法を思いついた。

 2年前2000人しか有料会員がいなかったアプティブの成長の源泉である、高品質なクラスがどのようにして作られているのか、アガワル氏に詳細を聞いた。

 「そもそもアプティブのトレーナーは、トップ中のトップなんです」

 現在、全米トップクラスのトレーナー26人が、全てのクラスを作っている。彼らは全員、各分野で認められている信頼度の高いトレーナーだ。そうしたトレーナーによってデザインされるクラスであるため、当然クラスの質も高くなる。

 トレーナーとは、基本はクラス単位で契約しているが、努力次第でより多くのクラスを持ったり、特に優秀で人気が高いトレーナーは専属として活動できたりするようになるなど、能力次第で活躍の場を広げられるような仕組みを取っている。

 アプティブは各クラスの利用データを分析し、会員からのリクエストなどを逐次フィードバックすることで、主役であるトレーナーをサポートしている。また、音楽専門のチームを社内に抱え、単にクラスの内容に合ったプレイリストを作るだけでなく、内容の強弱や運動のタイプが切り替わるタイミング、ラストスパートなどのタイミングに合わせた選曲とリミックスを行うなどの徹底ぶりだ。

アプティブのアプリ画面
アプティブのアプリ画面

 クラスは、鍛えたい場所や運動方法、ライフステージがどのように変わっても利用できるよう、幅広く用意している。初心者向けのランニングから、好きなマシンに合わせたトレーニング、特定の筋肉強化やヨガ、マタニティーエクササイズやリハビリなど内容は多岐にわたる。約1年前からは瞑想コンテンツも追加し、人気マシンが登場すればそれに合わせたクラスをといった具合に、フィットネス界での流行にも素早く対応している。

 会員は自分の運動履歴や消費カロリー、お気に入りのクラスなどをアプリで管理でき、利用傾向からお薦めのクラスを提案されるなどパーソナライズド機能も備えている。このように、場所や時間を選ばず自分に合った質の高いクラスをオンデマンドで利用できるアプティブは、ユーザーの心をつかんで離さない。

コミュニティーが利用継続に貢献

 アプティブにはコミュニティー機能があり、現在は3万人以上が非常にアクティブに参加している。日々、自分の体験をシェアしたり、クラスへの感想をフィードバックしたりしている。例えば、友人に勧められて始めたという女性は、双子を出産後に25kg以上の減量に成功。その体験談には称賛のコメントが数多く寄せられたそうだ。

 フィットネス成功体験はとても個人的なものだが、シェアすることで似た境遇の人を勇気付け、継続するためのモチベーション向上につながる。最近は、このコミュニティーにトレーナーも参加して、アプリ上ではフォローしきれない疑問などにも答えているという。

 アプティブのオフィスはグラウンド・ゼロの跡地に建つ、ロウアーマンハッタンの新しいニューヨークのシンボル、ワン ワールド トレードセンターにある。クラスの設計から収録まで、同オフィスの中で一貫して行っており、すべての関係者が1カ所で全工程を行っているのも、質の高いクラスを作る秘訣の一つだとオフィスを訪問して感じた。

 17年からコンテンツ系サブスクリプションサービスの大型資金調達ニュースが続いている。オンラインビデオで料理、アート、音楽など知名度の高いセレブ層の現役プロから学べる「MasterClass(マスタークラス)」が3500万ドル(約38億5000万円)、18年夏には呼吸法や瞑想に最適な音やコンテンツを提供するメディテーション専用のアプリ「Calm(コーム)」が2700万ドル(約29億7000万円)の資金調達を完了。スマートスピーカーのような音声デバイスの利用シーン拡大や、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)/MR(複合現実)など表現技術の進化に伴い、コンテンツ市場の拡大に大きな期待が寄せられている。

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